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狂愛

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さらさらと崩れ落ちていく鬼の身体が完全に消滅したことを確認し、炎柱は日輪刀を鞘に収めると刀全体を指先で撫で上げるようにして最後に柄に触れる。これはこの人の癖のようなものでもあり、討伐後にはいつも目にするのだが、いつ見ても礼を重んじる雰囲気があってつい見惚れてしまう。

今回もまた思わず見入っていると、ぱっと炎柱がこちらを振り返った。


「隠と救護班に連絡を!彼らが来るまで君たちはそちらのご家族についていてくれ!」


溌剌とした指示に背筋を伸ばして返事を返し、避難させていた親子のもとに向かう。
それとすれ違うように、高みの見物を決め込んでいた上弦の参が屋根の上から飛び降りてきた。


「おい杏寿郎、もうここはいいだろう。帰ろう」


柱が上弦の鬼と帰るという破壊力のある響きに、足がびしりと止まってしまう。

帰る?一緒に?どこに?

混乱しきりの思考回路に、炎柱の遠慮のない拒否の言葉が突き刺さって救われた。


「悪いが、君とは帰らない。これから報告だ」

「鴉を使うんだろう?そんなものすぐに終わるじゃないか。要!主人が呼んでいるぞ!要!」


…炎柱の鎹鴉の名を、何故鬼が知っているんだ。
そして二人の距離感が、なんだか妙に近いような…いや、それは気のせいか。

少しして一羽の鴉が飛んでくるが、どういうわけかこちらも上弦の参とどことなく親しげだ。


「鬼ノクセニ、私ノ名ヲ呼ブナ!」

「だがこうして来てくれるだろう。ほら、弱い鬼を倒したことをちゃんと報告してこい。杏寿郎が、一人で、倒したとしっかり伝えるんだぞ」

「負傷者は三名だ。救護班に任せるが、幼い子供が含まれている。心の療養が必要だろう。物的被害は民家一棟の一部損壊。よろしく頼む」

「承知シマシタ、杏寿郎サマ!」


羽音を立てて鴉は飛び立ち、夕方から夜へと変わっていく空に消えていった。
それを見送って上弦の参が仕切りなおす。


「よし。報告も済んだし、帰るぞ杏寿郎」

「帰りたければ一人で帰るといい。俺はひと晩この街に泊まるつもりだ」

「何故だ?疲労などないだろう」


理解できないとばかりに顔を顰める上弦の参に、炎柱はゆるゆるとかぶりを振った。


「飛騨牛をまだ食べていない。ここまで来て、名物を食さない手はない」


その台詞に、青い羽織の隊士は危うく噴き出してしまうところだった。
可愛い。目的が可愛すぎます、炎柱。

至極真面目な顔で言うものだから輪をかけて可愛い。


「なんだ、ただの肉か」

「ただの肉ではない。正当な評価を得ている牛肉だ。筋肉の繊維が細かい為食感が柔らかく、霜降りの部位が多く甘味が強いにも関わらず、脂っぽくなくさっぱりしているという」


く、詳しいです、炎柱。


「妙に詳しいな。食ったことがあるのか?」

「ない!」

「ないのか」「ないんですか!」


堪らず声に出して突っ込んでしまった。
上弦の参が威圧的な視線をゆっくりこちらに寄越してくる。まるで炎柱との会話に水をさされたことが不快であると言わんばかりだ。
秒で身体ごと目を背けた。


「食べたことはないが、同僚から聞いた。機会があれば是非口にしたいと常々思っていたのだ。だから君とは帰らない!」

「しかし杏寿郎。お前、質より量だろう?味の違いなんてわかるのか?」

「む…。それは実際に食べてみないことにはわからない」

「ならば俺が見届けよう。杏寿郎がちゃんと飛騨牛とやらの美味さを理解できているか確認してやる。どうせ無理だろうがな」


小馬鹿にした物言いに、炎柱はぐっと口篭る。

言い返さないんですか、炎柱。
味の違いくらいわかるって。自信がないところがまた可愛い。

そうこうしているうちに隠と救護班が到着し、負傷者と被害の確認に現場は少しばかり騒がしくなる。
情報を伝達し、隠と状況確認をしつつも、耳は二人の会話を拾い上げていた。


「では、明日の昼食は焼肉だな」

「ふざけるな杏寿郎。俺を陽光に晒して楽しいか」

「嫌ならついてこなければいい」

「お前も箱を用意しろ。竈門炭治郎のような」

「…逆に訊くが、君はそれでいいのか?」


仲が良いのだな、と純粋に思った。まるで友人だ。
鬼と人。それも、上弦と柱だというのに。

どれだけ願っても柱の隣を歩くことは叶わないと身をもって知っているからこそ、たとえ味方ではないとしても比肩し得る上弦の参が羨ましくて。
口を挟む余地がないことを悟り、今から食べにいったらどうですかなどという提案はとてもではないができなかった。


「さて。事後処理は彼らに任せて、君たちは解散。よく休んでくれ」

「お、お疲れ様でした!」


こちらに向かってそう言うと、炎柱は上弦の参とともに街の中心部へと歩いていく。

二人で一体どのようにしてこの街に一泊するつもりなのか、もの凄く興味があったがまさか訊くことができるわけもなく。
金色と桃色という派手すぎる二つの頭が見えなくなるまで、青い羽織の隊士は逸る気持ちを抑えて見送ったのだった。


作品名:狂愛 作家名:緋鴉