狂愛
猗窩座は後腔への指を増やし、その一点を丸を描くように抉って暴いた。
「んっ、…あ、ゃ、やめッ…!」
煉獄の身体が大仰に跳ねる。彼の腕がこちらに伸ばされ、後腔を犯している右手を捉えた。それは、制止のためか縋るためか。
何者にも屈さないその赤い瞳は快感に歪みながらも、研ぎ澄ました牙を隠し持つ獅子のような獰猛さを秘めていて。衰えを知らない眼光にぞくりと怖気にも似た歓喜を覚えた猗窩座には、そんなことどっちでも良かった。
「杏寿郎…、お前は本当に最高だ」
恍惚とした表情で猗窩座が呟き、ずるりと指を引き抜いて己のいきり立った逸物を取り出したと同時に、煉獄に掴まれていた右手が前触れなく引き寄せられて体勢を崩した。間髪入れずに反対から飛んできた拳に、容赦なく右の肘をぶち抜かれて自分の身体の内側からごきゃ、と確実に何かが粉砕する音がして。
一瞬何が起きたのか理解できなかったが、続いて折れた右腕を捻り上げられてさすがに察した。
「まままま待て杏寿郎!痛いっ、折れてるっ、折った!お前が!!」
「うるさい!駄目だと言ったのにしつこいんだ君は!!」
涙目になりつつ猗窩座が抗議すると、それを上回る叱咤が同じく涙目の煉獄から飛んできて。
解放された右腕は再生が始まっているが、猗窩座は己の見立ての甘さに苦々しく嘆息した。情事の最中であっても暴力は有り得るとわかっていたはずだったのだが…
耐え難いほどの気持ちよさに流されていたとばかり思っていたが、さすが杏寿郎だ。虎視眈々と隙を狙っていたということか。その不屈の精神、素晴らしい。完璧だ。大好きだ。
「悪かった、杏寿郎。もうお前の嫌がることはしない」
「……本当だろうな」
…ああ。その不信感たっぷりな目。
あの朗らかな炎柱のこんな視線を向けてもらえるのは、この世で唯一俺だけだろう。堪らない。羨ましいだろう弱者共め。
「無論だ。お前の気持ちいいことだけをしよう。何をしてほしい?」
「……」
「また前を擦るか?口が良ければそうするが」
煉獄はぐっと押し黙り、目を逸らしてしまう。
どうやら口にするのが恥ずかしいらしい。
すぐにでも押し倒して、いじらしく疼いているであろうその身体を貫き壊してしまいたい衝動を抑え込み、猗窩座は正座をして待機の姿勢をとった。表面上だけでも誠実に見えるように。
少しして、おずおずと煉獄が呟いたのは。
「……もう、挿れてほしい」
「!!」
あの杏寿郎が!小さな上品なお口で!いれてほしいだと!?
委細聞き漏らさず、脳天から爪先に衝撃が駆け抜けた猗窩座だったが、行動に移るのは早かった。
柱をもってしても反応し損ねるほどの速さで膝立ちになり、煉獄の背に布団を丸めて入れ込み、寄り掛からせたかと思うと脚を開かせて腰を引き寄せ己の逸物を相手の後腔にあてがう。
「では、挿れるぞ」
「う…うむ」
何故か若干引き気味に頷いているが、安心しろ杏寿郎。今お前だけの俺を与えてやる。
熟れた後腔に先端を潜らせ、そのままずぶずぶと腰を進めていく。
「ん…ぅ、」
「…杏寿郎、大丈夫か?」
「っ、ああ。そのまま…全部、」
圧迫感のせいか悩ましげに眉根を寄せてはいるが、細く息を吐いてなんとか異物感を散らしている煉獄の姿に、そうまでして己を欲しているのかと猗窩座は胸が苦しくなるような高揚感を覚えた。
杏寿郎の中は相変わらず熱い。
収めた逸物に貪欲に吸い付き、少しでも気を抜けばうっかり果ててしまいそうだ。奥まで挿れずして達してしまうなど男の沽券に関わる事態はなんとしても回避しなくては。
しかし気持ち良い。杏寿郎が可愛い。気持ち良い。イきそうだ。一度イっておけば良かった。
「くっ……、杏寿郎、はいったぞ」
「ん、…気持ち良い」
「!?」
でっ…
出たかと思った…!
大丈夫だよな?俺はまだイっていないな?
危なかった。落ち着け、無惨様の顔を思い浮かべろ。
核爆弾のような煉獄のひと言に発射ボタンを押された猗窩座だったが、強靭な意志をもって射精という事象を捩じ伏せた。
背中に冷や汗を滲ませながら暴れる鼓動を制し、恨みがましい視線を無自覚な男に突き刺す。
「…杏寿郎」
「…なんだ、猗窩座」
「ッ!!」
名前…!ここで名前を呼ぶのか!?
普段は「上弦の参」や「君」としか呼ばないが、睦事のときに限って口にされる己の名。それは、杏寿郎が俺を求めているという暗黙の了解。
やや苦しそうな顔に僅かに微笑を乗せた美しい男に、もう我慢することなどできなかった。
引き締まった腰を掴みなおし、軽く楔を引いてごつ、と奥を突く。
「あっ、う、待っ……、ゆ…ゆっくり…!」
焦ったような声がかかるが、猗窩座はごつ、ごつ、と繰り返し奥を突いていく。絡みつく粘膜に気が持っていかれそうだ。