狂愛
快感に耐えながら何度か繰り返しているうちに、煉獄の息遣いに甘さが混じってきた。
それを合図に動きを小刻みなものに変えて、角度をつけてとんとんと相手の弱いところに先端を当ててやる。
「っ、あ、はぁっ、んっ」
「杏寿郎……気持ち良いか、杏寿郎」
「き、もち……っ、…いい、」
「っ…俺も、お前の中が……気持ち良くて堪らないっ」
煉獄の雄も勃ち上がり、触れてもいないのにひくひくと上を向き始めていた。
その変化に安堵し、猗窩座は徐々に腰遣いを大きくして再び狙いを奥へと向ける。今度は追い立てるように、激しく、強く。
「くっ、ぅ、ッ…!」
「っ、」
猗窩座の動きにがくがくと全身が持っていかれそうになりながら、煉獄は腰元の布団を握り締めて衝撃に耐えている。
もはや浴衣は着衣としての体を成しておらず、均整のとれた肩や胸を際どく露出させ、ただの視覚的な興奮材料にしかならなかった。
次第に猗窩座自身の先走りと煉獄の後腔の粘膜が擦れ合うことで、ぐちゅぐちゅといやらしい水音が大きくなってきて。
いくら往復しても狭いばかりの胎内はひたすらに熱く、奥の壁は突くほどに震える。しかし、ほんの僅かに柔らかさを増していくそれは、更なる深みへ妖しく誘っているようだった。
一心不乱に煉獄の中を味わい尽くし、猗窩座は荒い息遣いの中眼下の男を視姦する。
しっとりと汗ばんだ肌からは強烈な甘い香りが立ち、快楽に痺れているこちらの脳髄を溶かしてくる。
ひっきりなしに溢れる淫猥な吐息に口元は軽く開いたままで、艶かしく濡れた薄い唇がまた色っぽい。
劣情に抗い浮き出た米神の血管も苦しげな表情も、すべてが愛おしい。
ただひとつ、きつく閉ざされた瞼に隠れた美しい瞳が見えないのがもの寂しいと思った。
「杏寿郎っ…本当に……お前はどこまでも俺を煽り立てる…」
片手を煉獄の膝裏にかけて、繋がったままぐっと相手に覆い被さる。顔を近づけたことで一気に甘い香りが膨れ上がり、堪らず煉獄の首から耳にかけてべろりと舌を這わせた。
「う、わっ」
びくりと身を引いて驚いた煉獄が隻眼を見開く。
真紅の瞳が顕になったことが嬉しくて、猗窩座は額を相手の頬に擦り付けた。
はじめはきょとんとしていた煉獄だったが、少しして楽しそうに笑うような呼気を感じて猗窩座は顔を上げる。柔らかく目を細める愛しい男と至近距離で視線が絡み合った。
「ふふ…君の髪が擦れてこそばゆい」
「……」
「君は…本当に俺が好きなのだな」
温かな包容力。満たされているような嬉しそうな表情。どこか呆れつつも受け入れてくれる声音。
折れない矜持を秘めた澄んだ赤色の瞳が、俺を映している。
「……」
どくん。
体内の血流が下腹部へと急激に収束していく。
好きすぎて頭がおかしくなりそうだ。ぎり、と奥歯が割れんばかりに噛み締めて、猗窩座は膨大な欲を煉獄の身体へと叩きつけた。
ごちゅ、と最奥の壁が更にこじ開けられた瞬間、煉獄の背がびくりとそり返る。突き出された胸の突起が美味そうだ。
「ぁ……っく、」
「…随分と余裕だな、杏寿郎」
我ながら恨めしげな声で呟くが、仕方ない。
俺ばかりが必死に求めていて、杏寿郎だけ余裕そうなのが悪いのだ。
瞳に火花を散らしながらうまく息継ぎができずはくはくと口をぱくつかせる煉獄に、追い打ちをかけて断続的に突き上げていく。
「俺がっ、どれだけお前を欲しているか…!」
「あっ…あか、……ざ」
「くそ……、杏寿郎っ…杏寿郎!」
刻みつけんと暴き倒し、溢れて仕方ない思いの丈をぶつける。
何も考えることができず動物的な本能のまま行為に没頭していると、不意に煉獄の手が頰に触れてきた。
「安心しろ……、君の、気持ちは…十分、伝わっている」
「っ、出鱈目を言うな!」
こんなに真っ黒でおどろおどろしい気持ちが伝わっているはずがない。泣きたくなるほど全身がこの男を求めているのだ。簡単に伝わってたまるか。
半ば苛立ちを覚えながら煉獄の手を振り払うが、思いの外強い力で手首を掴み返された。
「出鱈目などではない…。俺は…君の愛に溺れている…っ」
「きょうじゅ…」
情欲に揺れる隻眼がまっすぐこちらに注がれて、猗窩座は金縛りにあったかのように動けなくなる。
「…好きだ、猗窩座。…壊してくれて、構わない」
「…ッ、」
その言葉に、ぎりぎりで堪えていた射精感は臨界点を超えた。
遮二無二腰を振るい、押し寄せた波を追いかけて猗窩座が煉獄の中にそのまま熱を放つとその後煉獄もびくびくと痙攣し、白濁で両者の腹を汚した。
獣じみた荒い呼吸が部屋を満たす。
猗窩座は余韻に浸るようにくたっとした煉獄の頭の横に肘をついて、逃げ場をなくすように顔を近づけて詰問した。
「おい杏寿郎っ…、どういう意味だ!俺の気持ちだとか…壊してもいいとか!」