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想いと誓い

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支配下にない鬼など、鬼の創造主である無惨からしたら不要な存在であるはず。最悪の場合、もう殺されているということも。
ただでさえ神出鬼没な上に生死も曖昧な対象を闇雲に捜すのは、どう都合良く捉えても悪手だ。
心配であることには違いないが、今自分ができることは情報収集程度だろう。


「……」


そっと隊服の胸ポケットに手を忍ばせると、指先が布の塊に触れた。それを摘み上げて目線の高さに持ち上げてみる。
ちりちり、と小気味良い鈴の音を鳴らしながら、いつか彼に似ていると思って購入した赤いさるぼぼが、所在なさげに揺れていた。


+++


それから間もなくのことだった。
不意に、よく知った気配を肌で感じて、煉獄は驚きに瞠目した。

だって、それはつい今しがた諦めた存在だ。
もう生きていないかもしれないと。会えないかもしれないと。

立ち止まり、背の高い木々が乱立する空を見上げる。夕刻ではあるが、伸びやかな枝に生い茂る葉が陽光を遮っている。
どくどくと、心臓が強く脈打つ。手の中のさるぼぼをぎゅっと握り込んでから、胸ポケットに丁寧に仕舞い込んだ。


…しかし、なんだろう。
気配は間違いなく彼なのに、何か違和感を覚えた。
念の為警戒し、日輪刀の柄に手をかける。
相手との距離を詰めるように木の間を縫って駆けていくと、向こうもこちらに近づいているようで気配が一層強くなった。

敵意は感じられないが、肌がひりつくような殺意を隠すつもりはないらしい。
煉獄は立ち止まり、足を肩幅にひらいて腰を低く落とした。


「……、」


日が翳っていくに連れて、徐々に視界が悪くなっていく。隻眼を閉じ、迫ってくる気配に神経を集中させる。
途端、ぶわりと殺気が膨らみ、自分が相手の視界に入ったことを悟り煉獄は日輪刀を鞘から走らせ、抜刀と同時に右目をひらいた。
上方から落ちてくるように突っ込んできたその拳を、歩法をもって正面から僅かに横にずらして刀身で受け止める。
まるで金属同士が激しく打ちつけ合ったかのような鈍い音から一拍遅れて、煉獄の足元を基点に激しい風が巻き起こった。

土や砂が吹き上がる中、まず目に飛び込んできたのは美しい金色。参の文字が刻まれたその瞳は、ただひたすらに己だけを映していた。


「……くっ、」


地に、足が減り込む。
煉獄は奥歯を食いしばり、あらんかぎりの力で腕を振り抜いた。
同時に相手は弾かれるように後方に跳び、空中で身軽に体勢を立て直して互いの間合いの外に着地する。


「……、本当に上弦の参……なのか?」


姿形は、どう見ても猗窩座だ。
しかしやはり違う。

先程一合まみえた瞬間に確信した。
これまで常にあった、戦いを楽しむという余裕のようなものが一切ない。曇りのない純粋な殺意が、猗窩座をまるで別人のように仕立て上げていた。

そして恐らく、以前にも増して強くなっている。
胆力が底上げされているのは間違いないが、この異様な雰囲気はそれだけではない。鬼を鬼たらしめる気配そのものが、異常に濃く感じた。

自然と、汗が滲む。
相手を見据えたまま刀を下段に構えていると、彼は長い睫毛をぱちぱちと瞬かせた。


「……、……」


これまで無表情だった金色の双眸が、そこで初めてこちらに関心を示したとばかりに見つめてくる。

理性はあるのか。会話はできるのか。それすら疑わしく思えてくるような挙動に、煉獄は焦燥感を覚えた。
普通に戦って勝てる相手ではない。この鬼は、最早猗窩座ではない、別の何かだ。

この四ヶ月で、一体彼に何があったのか。
生きていてくれた。そう思うと同時に、腹の臓物が締め付けられるように引き絞られる。


…俺のことは、もう判らないんだな。


胸が痛い。息が苦しい。
駄目だ、集中しろ。一瞬でも隙を見せれば、この鬼は容赦なく命を狩りにくる。


「……」


相手は相変わらずの無表情ではあるが、大きな瞳を見開いたままこちらを凝視しているばかりで動かない。
しかし、下手に斬りかかれば反撃がくることは容易に予測できた。

そのとき、彼の姿がふっと消えた。
ほとんど脊椎反射で煉獄が後方に下がると、こちらの懐に潜り込む形で相手が接近していて。その下肢は既に踏み込みの姿勢をとっており、間髪入れずに拳が風を切って突き上げられた。
頭を逸らすことでそれを避けると同時に、伸び切った相手の腕を刀で斬り飛ばす。
続け様に横合いから迫ってきた反対の拳を、肘を引いて刀の柄で受け流したときには、斬り落とした腕が再生する様を視界の隅で認め、戦慄した。早すぎる。

一撃一撃が重い。
そして、彼の攻撃はすべて顎や鳩尾など、こちらの急所を狙うものだ。一度でも当たれば命取りとなるだろう。必然的に防戦一方となり、こちらから攻める余裕がない。
更にまずいのが、再生速度の速さ。元から猗窩座は他の鬼の比ではない再生速度を誇っていたが、これはそれすら凌駕している。

斜め下から鋭く飛んできた相手の膝を、あえて背を向けることで落とした腰で受け止め、軸となっている大腿部を切断しようと刀を振り下ろす。が、前腕が割り込んできて肉を切らせることで刃を封じられ、死角から頭部に拳が迫るのを相手の胸部を蹴って後方に飛び退ることで間一髪回避した。


再び距離を取り、上がってきた息を整える。
緊張感に思考回路が焼き切れそうだ。

当然相手は呼吸のひとつも乱れていない。が、何か納得いかないのか、眉を顰めて自身の身体を見下ろしている。
と思った直後、自分の五指をおもむろに胸部に突き立てた。


「!!」


あの行動は、見覚えがある。
猗窩座はよく、高揚感や幸福感による心拍数の上昇を「作り換えれば治るはず」などというまったく鬼らしい理由で、心臓を掴み出して調整しようとすることがあった。
正しくは心臓が原因ではないため改善されず、わからないと苦しんでいたわけだが。

今目の前にいる彼もまた、己の心臓を大量の血液とともに引き摺り出して適当に放り投げている。
痛みの有無は定かではないが、さすがに不快感はあるようで表情を歪めていた。


「…君は、やはり猗窩座なんだな」

「……!」

猗窩座の皮を被った何かではなく、やはり猗窩座本人なのだろう。
複雑な心境でぽつりと呟くと、彼の頭がぴくりと跳ねた。金色の双眸がまたこちらに向けられる。
小さなその口が、再会してから初めてうっすらと開いた。

「…きょう、……じゅ、ろ…?」

「!」


口の中だけで発音しただけの極小さな声だったが、煉獄には確かに己の名を発したことが伝わり、隻眼を見開いた。


作品名:想いと誓い 作家名:緋鴉