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想いと誓い

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「……」


そこまで考えて、猗窩座は待てよと思い直す。

ここで杏寿郎を待ち、華麗な剣技を堪能した上で再会の挨拶を交わす予定でいたが、この程度の卑怯な鬼風情に杏寿郎の手を煩わせるのもどうなんだ。
逆に手土産にするほうが良いのではないか。杏寿郎がここに来るまでにまだ少し余裕がありそうだ。その前に俺がこいつを叩きのめしておけば、すぐに話ができる気がする。

うん、そうしよう。


猗窩座は一人で頷くと、ぺたぺたと裸足で橋の上を歩き始める。
橋の幅も、人が十人程度並んで歩けそうなほどの広さがあり、その欄干には等間隔に灯りが置かれている。対岸までそれは続いているようだが、ところどころ火が消えていて暗がりに飲まれていた。
人が襲われた際に消えたのか、単に油が足りないのかはわからないが、月が綺麗に出ている今夜は視界に困ることはないだろう。柔らかな光が満遍なく橋を照らしていた。

…出てこないな。

ゆっくり歩いてやっているつもりだが、こちらの様子を窺うばかりで対象の鬼は出てこない。
縄張りをもつ鬼はこういう行為を嫌がるんじゃないのか?
…まあ、自ら縄張りに他者を連れ込む上弦の弐もいるが。


「…つまらん。来ないならこちらから行くぞ」


溜め息すらついて、猗窩座は川の真ん中あたりに来ると欄干に足をかけてそのまま水の中に飛び込んだ。

深い川なだけに、綺麗とは言い難い。水面には木の枝や落ち葉が浮いていたが、中は細かい泥が流れとともに巻き上がっていて、あまり視覚はあてになりそうになかった。

上下感覚を維持しながら周囲の気配を探ると、鬼の闘気がぐっと迫ってくるのがわかる。
何か紐のようなものが意思を持った動きでこちらに伸ばされる。どうやら足を狙っているようだったが、触れられる前にこちらからそいつを掴んで思いきり引っ張り寄せてやった。
濁った視界の中目と鼻の先にぐん、と姿を表したのは、手足もあり人の形をしてはいるが、魚の鱗とひれを持った鬼。特筆すべきはその大きさだ。熊よりも悠に大きい。三メートル近くありそうだ。魚類特有の目蓋のない眼球が、大きくかっぴらいたままこちらを凝視していた。

握り込んだ紐は触手だったようで、そいつの背中に繋がっている。そう認識したと同時に触手を掴む左手に強い痺れを感じた。
咄嗟に手を離すが、痺れは残っており指先がぴくぴくと勝手に不随意運動をしている。
間を置かずに自由になった触手と、更にもう一本の触手が左右の足に絡みついてきた。

その様に、怒りがぶり返すのを感じる。
自分の身体なのに、思うように動かすことができない屈辱が怒涛の勢いで蘇った。

苛立ちをぶつけるように、猗窩座は眼前の鬼の腹に右の拳を下からめり込ませ、その巨躯を思いきり水上へと打ち上げた。自身も水面に顔を出して橋の上に躍り出ると、水の抵抗などまるでないように川の外へと叩き出された魚鬼の太い首を掴んで、対岸へと投げ飛ばす。
相当な距離があったが、足りないぶんは蹴鞠のように蹴り飛ばして橋を渡りきった。水の中に逃げようとする魚鬼の全身に乱式を撃ち込むと、固い鱗に覆われていた皮膚は砕けて身体は貫通し、そこかしこに穴があいた状態で魚鬼は仰向けに倒れた。


「な……なんで、上弦の…参、様が…」

「なんだ、貴様口が利けたのか。」

水分をたっぷり吸って重たくなってしまったズボンの裾を適当に絞りながら、意外そうに猗窩座は顔を上げる。
痺れは分解され、今は左手も自由に動かすことができていた。
あの触手で人の身体の自由を奪い捕食する、といったところか。

「まあ、悪く思うな。杏寿郎のために死んでくれ」

「ぐ…っ、鬼どうしなのに何故…!納得…できない…」


ぶくぶくと泡立つように穴が空いた箇所が再生されていく。猗窩座はそれを睥睨しつつ眉根を寄せて嗤った。


「せっかく風通しが良くなったのに、塞いでしまうのか?」

「う……うぅ…」

「しかしでかい図体だ。地上では重たいだろう。どれ、少し軽くしてやろうか」


空式を放ち、手足を虚空と一緒に弾き飛ばしてやると魚鬼は濁声を上げて地面の上をのたうち回る。


「意外と元気だな。だが動きが悪い。まだ重たいんじゃないか?」


だるま状態となった魚鬼の胴体を切り離そうと手刀を構えたところで、猗窩座は逡巡して背中の触手のみを引きちぎった。再び麻痺毒を発したようだったが、一度分解したものはもう通用しない。多少ぴりぴりしただけで、なんの痛快にもならなかった。
猗窩座は魚鬼の首根っこを掴んで引き摺るように歩き出す。
というのも、こいつは他に掴める部位がないのだ。触手は掴みやすいがうっかり杏寿郎に触れたら大変なので間引いておく。そして水中が根城だからか服すら着ていない。肌もぬるぬるしているし、玉壺二世とでも名付けようか。


「あのっ……ど、どこに…」

「喋るな。口も潰すぞ」

「ひっ…」


杏寿郎の闘気がこちらに向いている。恐らく、俺に気づいたのだ。
ずりずりと玉壺二世を引き摺りながら、口元には笑みが浮かぶ。
大丈夫だ。あの衝動は、やはりない。意識もしっかりしている。四肢の感覚も鮮明だ。

待ちきれず、猗窩座は手土産を持ったまま一足飛びに跳躍した。


作品名:想いと誓い 作家名:緋鴉