zokuダチ。セッション17 冒険編1
アイシャがとてとてと、元の自分の部屋に入って来た。
「おう、今終わった処だ」
「そうなの、ちょっと見せて、って、何これ!お菓子ばっかり
じゃないっ!……ちゃっかりビールまで……、呆れた、ちょっと
減らしてよっ!それに肝心の下着とか、着替えが全然ないじゃ
ないのっ!!もうっ、これだから私がついてないと!」
「あ、ああ……、俺のじゃがピー、バター醤油味……、あああ……」
アイシャはジャミルが詰めたリュックの中を引っ掻き回し、
本当に必要な物を確認し、再度整理し始めた。
「お菓子はこれだけっ、ビスケットだけよっ!後は、着替えに
下着、洗面道具、おしゃれの身嗜みセット、それから……、汗止めと
虫よけのスプレー2缶と、山だから虫も沢山いるだろうし……」
「むすう~……」
基本、お菓子だけあればいいジャミルはちょっと不貞腐れた。
「お寺行っても住職さんの前でもきちんと女の子らしくしててね!」
「はあ~い、分ったでございますうー!」
ジャミルはスカートの裾をひょいっと摘んでおどけてみせる。
「もう……」
「けどさ、じいさんには俺らの事情を聞いて貰わねえとだぞ、ちゃんと
話す必要があんだろ」
「そうね、そうだったわね、結局は住職さんにも秘密を
知って貰う事になるのね……」
「あ、アイシャ、俺も自分の部屋に取りに行きたいモンがあるんだ、
ちょっと行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
「それから、上は……、と、これ着ていいか?」
「半袖のセーラーブラウスね、ジャミルが着たいのならいいわよ、
貸してあげる」
「ああ、んじゃ!」
ジャミルは自分の元部屋まで走って行く。
「はあ~、懐かしき我が俺の部屋だ、マジで懐かしいなあ~、
それにしても……」
いつもより自分の部屋が異常に綺麗なのは、やはりアイシャが今は
住んでいるからである。
「さてと、俺のタンスは……」
タンスの中もきちんと衣類が畳んで整理されており、ジャミルは
少し困り顔。
「えーっと、よしっ、これだっ!」
折角アイシャが綺麗に整理してくれたタンスの中をジャミルは
引っ掻き回して散らかし、ある物を見つける。
「はあ、ジャミル、何を取りにいったのかしら、あら?」
廊下をバタバタ慌しく走る音が聞こえた。ジャミルであった。
「ジャミルったら……、もうー!シフに見つかったら怒られるのは
私の身体なんだから……」
「待たせたな、見ろこれっ!」
漸くジャミルが戻って来る。その恰好は元の世界で着用していた様な
青いスパッツを履いている。
「冒険だかんな!動きやすい恰好じゃねえと!」
「それは分るんだけど、それだけじゃ何か変だわ、これ、
スパッツの上に履いて……」
アイシャがジャミルにミニスカートを差し出す。
「えー!?」
「……履くのっ!!」
「ちぇっ、どうだよ……」
仕方なしに、支度を整えた格好をアイシャに披露した。
「うんっ、中々いいわよっ、可愛いっ!」
「自分で言うな……、はあ、んじゃ、これで本当に大体支度は
整った、と……」
「じゃあ、私ももうジャミルの部屋に行くね」
「ああ、又明日な……」
「おやすみなさい、あの……」
「……ん?」
アイシャはジャミルに何か言い掛けたが、すぐにそのまま部屋を
去ってしまった。
「変な奴だなあ……」
そして、廊下に出たアイシャは……。
「あのね、ジャミル……、私、本当はね……、……じゃ、
ないの……、だって……」
誰にも聞こえない様に小さく独り言を呟きながら、顔を赤くし、
アイシャはジャミルの部屋に戻る。
……そして、次の日、4人組にいろはとこむぎを加えた一行は、
モンブラン山、山頂付近の騒々寺へと出発し、山頂付近行きの
バスに乗り込む。残りのロマ1組には又、寺に暫く修業に泊まりに
行くと告げてある。管理人の仕事の方も、暫くの間はホークに
しっかり押し付けて。
「本格的な山登りって初めてだねえ、よしっ、こむぎっ、私達も
頑張ろうね!」
「がんばるわん!いろはといっしょ!みんなといっしょ!」
「……そうだね、このマンションとも暫くお別れだね……」
「やだ、アルったら、もう戻って来れない訳じゃないわよ!うふふ!」
「……ど、どうも……、頭じゃ分かってるんだけど、ジャミルの顔で
やっぱりアイシャモードはきついなあ~……」
アルベルトは自分のカバンからハンカチを取り出すと汗を拭いた。
「分んないよお……、オイラ達、山で遭難して数年後に白骨死体で
発見されるかも……」
段々と、不安になってくると炸裂する、ダウドのいじけと悲観モード、
悪い想像が始まった。
「たく、どうしようもねえなあ、チビも付いて来てくれんだから
大丈夫だっつーの!」
「……どうだかねえ……」
「じゃ~ん!見て下さいっ!自作のおにぎりは今回は
控えなさい……、と、ユキちゃんに注意されちゃったん
ですけど、その代り、まゆちゃんとユキちゃんが一緒に
特製のお弁当を作ってくれましたよっ!皆でどうぞ食べて
下さいって!」
「こむぎもこむぎもーっ!おやつのクッキーいっぱい
持ってきたんだよー!」
「嫌、犬用のは……、イラネ……、おおっ!?」
気分を変える様に、いろは達が自分達のリュックサックと
ナップサックを荷物棚から降ろし、ジャミル達に披露する。
「おーすげえっ!中身はなんだろ、待ってました!腹へったあ~……」
「ジャミルはいつもお腹空いてるじゃないのよう、『……グウ~』
……あ、あれれ?」
「あはは!アイシャのお腹も鳴ったよお!」
「違うわよっ!これはっ、その……」
「屁か?変わった音だな……」
「……違うったらっ!もうっ、ジャミルのバカっ!!」
「?」
「……何か……、異様に軽い様な気が……、おかしいなあ……」
「わたしのサックも何だか軽いよう……」
雰囲気が和気あいあいとしてきた中で、いろはとこむぎは
顔を見合わせ、自身のリュックとサックをそれぞれ持ちあげてみて、
妙に変な違和感を感じた。二人は急いで縛ってあるリュックと
サックの紐を解くと、中から出てきたのは……。
「ほほ~い!おまたー!」
「アンっ!」
「……ボ……」
「たいやいっ!」
いろはのリュックの中からは、何故かしんのすけとその相棒、犬の
シロが……。謎である。こむぎのナックサップの中からは、ボーちゃん、
ひまわりが顔を出し、出現したのである……。
「しんちゃんっ!?シロちゃんっ、ボーちゃん、ひまちゃんまで……、
ど、どうしてええーーっ!?何がどうなってるのーーっ!?」
「びっくりナップサックだわんーーっ!?」
「……何ですとおおおーーっ!?」
6人は一旦、緊急事態の為、運転手さんに頼み、バスを止めて
貰うのであった。まゆとユキ、悟になら正直に話しても問題は
ないし、心強い理解者と味方になってくれたではあろうが、今回は
ジャミルとアイシャ、2人の気持ちを尊重し、いろはとこむぎは、
作品名:zokuダチ。セッション17 冒険編1 作家名:流れ者