ヒロアカ世界でありそうな事~人気調査~
調から脳へとダイレクトに“伝達”された“読者”達の感情が籠った言葉を注ぎ込まれた飯沼は大声で泣き叫び始めた!それでも調は“偽善者”の手を離さない!!“読者”(と調)にとって飯沼は人一人を自殺に追い遣った人殺しである。おまけに作中で明確な制裁を受けず、その後始末を亡くなった少女の家族から依頼を請けた主人公にやらせ、自分は何もしなかった人間のクズである(“読者”(と調)視点)。なので、“読者”達からの飯沼への感情は嫌悪一色なのである!!
「子供だったの!!私が馬鹿だったの!!あんな事になるなんて思わなかったの!!」
「遅いよ!この“悪役”が!!」
「嫌ぁぁぁあああ!!!!!見ないでぇ!!そんな目で見ないでぇ!!そんな風に言わないでぇ!!」
調の手を振り解いた飯沼は教室の隅へと逃げると大声で叫び続けた...自分を蔑み嫌う“読者”達の視線から逃れる為に壁に頭を擦り付けながら眼を閉じ、調から離れた後も脳内で響いている“声”が聞こえない様に両手で耳を塞ぎながら醜く赦しを乞いている。その余りに無様でみっともない姿にクラスメイト達は唖然としている。そして、彼らの大半はこう思ったのである。
「......(こうはなりたくないな...)」
それから、他の教師達が来るまで飯沼は泣き叫び続けた......そして、次の日から奴は学校に来なくなり、次の週には全校集会で飯沼の退職が告げられ、新しい担任がクラスへとやって来た。ちなみに飯沼には婚約者がいたが......
『!?今のは!?』
『今のがお兄さんの恋人の“正体”だよ』
『裕美子の?』
『そうだよ』
過去を知られた事で捨てられたのだった。職も愛する男も失い、自分の“正体”を“読者”達によって暴かれた事で完全に心が壊れてしまった飯沼裕美子は実家へと戻って自室に引き籠ったのだった。人の目を恐れ、五年という月日が経った今でも自室から全く外へと出ていない。必要最低限の栄養しか摂らず、ガリガリに瘦せ細り、肌艶は悪くなった事で老婆の様になった姿で一日中を自室に閉じ籠っている。
「見ないで...そんな目で見ないで...そんな風に言わないで...」
結果的に飼育小屋の事件は有耶無耶になったという。彼女の不幸は“作中で今の彼女が描かれなかった”事なのを調が認識するのは少し後の話である。
4:【ベイビー・ワールドエンド】
「言いたい事は分かったけど...今の段階じゃ何も出来ないな」
「そうですか...」
「幾ら何でも...未来でするかも知れない犯罪じゃ取り締まれませんからね」
「それに、君の“個性”は平行世界で起こった事?を知る能力だよね?こういう事をする可能性のある人ってだけで犯罪者扱いするのは流石にね...」
「でも!沢山の人に被害が出るかも知れないんですよ!!」
「私達が取り締まるのは実際に罪を犯した人達だけなんだ...そういう風に人を悪人扱いしていたら切りが無いんだよ」
「そうですよね。まぁ、被害に遭うかも知れない人に注意喚起をする程度なら許されるかも知れませんが...」
「分かりました...失礼します」
中学二年生の頃、調は警察官達に頭を下げると...椅子から立ち上がる。彼らへと背を向けて警察署を後としたのだった。調は地元の警察署へと良く来ていたのである。調の“個性”は世間に知られていない他人の罪を暴く事も出来るのである。正義感の強い調は見て見ぬ振りが出来ずに頻繁に警察へと行っていた。今回は同級生で別クラスの男子生徒の事を彼らへと相談していたのである。
「クソッ!本当にあんな事件が起こったらどうするんだよ!!あんなクズ野郎に人権なんて必要無いだろう!!」
調が顔に怒りを滲ませながら歩いていると...見覚えのある少年を見かけた。その少年の顔を見た調の顔が嫌悪一色に染まった。
「山田...!」
そう...調が警察に“平行世界で起こす罪”を告発した相手である山田という少年である。眼鏡を掛けた少年で軽音楽部に所属しており、人当たりの良い態度から雰囲気イケメンとしてクラスメイト達から人気があるらしい。だが、調からしたら...タダのクズ野郎...多数の人々を間接的に“破滅させる”不幸の元凶となる人間である。友人なのか?彼女なのかは知らないが、調達と同年代の少女と歩いている。制服姿なので少女も同じ学校の生徒だと思われる。
「隣にいるクズ野郎がどんな人間か知らないで呑気に笑いやがって...!」
調の眼には山田を取り囲む“読者”達からのコメントが以前よりも多くなっているのが解かった。調にとって山田は明確な“悪”であった...「まだ何もしていない」?環境で悪い事をしないと生きていけない人間はいるだろう...だが、山田のする事は明らかにしなくてもいい事である!!あんな事はしない奴は最初から絶対にしない!!と断じた調は山田を自らの手で破滅させてやる事を決意した。最悪...自らの手で殺す覚悟をしながら
「取り合えずは...あの女だ」
調は二人に気付かれない様に尾行し始めた。幸い、調が一方的に山田を知っているだけで直接的な接触は無かった。噂くらいは聞いているかも知れないが...調の顔を山田は知らないだろう。気付かれずに二人の後を尾行する事が出来た。そして、バス停で二人が別れたのが見えた。どうやら、少女の方がバスに乗る様である。山田は少女と話した後でバス停の向こう側へと歩いて行った。チャンス!と思った調はバス停へと近付いて行ったのだった。
「なぁ...ちょっといいかい?」
「えっ?何ですか?」
調は少女へと話しかけた。清楚な顔立ちをした黒髪ロングの少女である。少女は可愛らしい顔に怪訝そうな表情を浮かべながら調を見ている。彼はそんな少女に単刀直入に話し始めた。
「あのさ...僕はB組の四世っていいます」
「四世?あ!あの四世君?」
「うん?知っているの?」
「えぇ...」
「そうか...じゃあさ、さっきまで君が話していた奴の事で君に伝えたい事があるんだ」
「山田君の?山田君って何かしたの?」
「手っ取り早く伝えるから僕の手を握ってくれない?」
「うん......」
どうやら、少女は調の事を知っているみたいであり、少し戸惑った様子で彼を見ながら調の手を握った。すると...彼女の脳裏に平行世界に存在する山田が登場する物語の詳細と奴に対する“読者”達の感想が伝わって来たのである。少女は調の手を離すと...何かに打ちのめされた表情で彼の顔を見ていた。
「......今のは?」
「あの善人面したクズ野郎の“正体”だよ」
「......」
「君がアイツの事をどう思ってるのか知らないし、興味も無いけど、“読者(ひと)”の意見を聞いて、よく考えてから付き合う相手を選ぶんだね」
「......うん」
「じゃあね」
調は少女に軽く頭を下げてからバス停を後にしたのだった。
「ねぇ...知っている?」
「あぁ、山田の事だろ?」
「最低だな...あんな奴だって思わなかったぜ」
「うん、立場が弱い相手には何をしても良いって思ってるんだね」
「うわぁ、どん引きだわ!そんな奴なの!?」
作品名:ヒロアカ世界でありそうな事~人気調査~ 作家名:ブロンズ・ハーミット