zokuダチ。セッション19 冒険編3
「ぴい?この大きなおじさん、……嫌な臭いしない……」
チビが首を傾げて不思議な顔をした。
「大方ドジを踏んで脱出するのにバレてしまったと言う処か、どら、
付いて来なさい……」
「……えええっ!?」
「落ち着くまで儂が匿ってやろう、このまま逃げてもすぐに見つかるぞ……」
「……取りあえず、ついて行ってみるか、チビが嫌な臭いがしないって
言ってんだし大丈夫だろう……」
不安に駆られながら、ジャミル達は男の後に付いて行く。
男は初老のでっぷり太った大男で、オーバーオールにパイプを銜え、
大きなお腹をゆさゆさと揺らしていた。
「さあ、此処だ、入りなさい……」
「此処って……、温室庭園か……?」
案内された場所は、ジャミルが窓から見掛け、ユウから話を
聞いたあの庭園であった。ジャミルとアイシャとチビは
庭園の中に入らせて貰うが……。
「だけど、此処の何処に隠れる場所があるんだ?追手が来たら
すぐに見つかっちまうよ……」
「あそこじゃよ……」
「あそこって、まさか……」
「シャアアーーっ!!」
……大男が異様な巨大植物を指差した……。
「これは、儂が手塩に掛けて面倒見、育てている人食い植物の
マリアーヌだ、自分の意志も持っておるし、ちゃんと人の言葉も
理解出来るんじゃよ、凄いじゃろう」
「な、名前……、んな事より、これをどうしろと……」
「暫くの間、マリアーヌの中に匿って貰えばよい、なーに、長時間
中にいたりしなければ、完全に飲み込まれる事もあるまいて……、
マリアーヌ、ほれ、ご挨拶しなさい」
「キシャアーーッ!!」
マリアーヌが大口を開けヨダレを垂らし、何十本も生えた
鋭い牙を見せた……。
「おっさん……!んな簡単に言うけどだなっ……!?」
……小娘共はこっちに逃げた筈だっ!必ず捕えろっ!!
庭を走る数名の音と罵声が聴こえた。屋敷の警備兵が
等々動き出したらしい……。
「どうするんだ?躊躇している暇はあるまいて……」
「くっ、仕方ねえっ……!ええーいっ!……アイシャ、チビ、行くぞっ!!」
「……分ったわっ!」
「ぴい~っ!!」
ジャミル達はイチかバチか、意を決して巨大なマリアーヌの
口の中に飛び込んだ。と、同時に雅にナイスタイミングで
警備兵が庭園に傾れ込んで来る。
「おい、庭師っ!この辺で小娘を見掛けなかったか?領主様の
お妃候補の娘だ、どうやったのか知らんが、監禁部屋から
脱走したらしいのだ!」
「知らんなあ、それよりあまり騒がんでおいておくれ、
夜は植物も花も休む時間なのだよ……」
「そんな事は関係ないっ、我々は24時間、領主様の為、働いている!
汚らわしい雑草なんかと一緒にするなっ!!この、無礼者めがあっ!!」
警備兵は懐からサーベルを抜くと、鋭い刃を小太りの男の前に
付き付ける。しかし、男は全く動じず。
「何を脅されても儂は知らんのだよ、調べるならどうぞ、
徹底的に調べておくれ……」
「……キシャアアアアーーッ!!」
「な、何だこのバケモノはっ!?くっ、……此処にはいない様だな、
外を探せえーーっ!徹底的に探せーーっ!!」
マリアーヌの勢いに押された警備兵は、そのまま逃げて行った。
「やれやれ、……嘆かわしい……、雑草か、悲しいの……」
「……カァアアーーっ、ペッ!!」
「わああああーーっ!?」
マリアーヌがジャミルとアイシャ、チビを吐き出した。
「う、うう~……、助かった……、マジで飲まれるかと……」
「……胃液と唾液でベトベトよ……、もういや、水浴びしたい……」
「ぎゅぴいいい~……」
「……あんたらはあまり美味しくなかったようじゃの、良かったの……」
「……何だよっ!やっぱり食う気満々だったんじゃねえか!!」
「キシャシャシャシャ!」
……マリアーヌはジャミル達を小馬鹿にし、笑っている様にも見えた……。
「それにしても、元気のよいお嬢さんじゃの、たまげたわい、
まあ良い、お茶でも飲んでゆっくりしていきなさい……」
「んな暇ねえよ、一刻も早く此処から逃げてえんだよ!」
「しかし、まだまだ外は警備兵だらけだぞ、すぐに捕まるぞ……」
「わ、分ったよ、暫らく世話になるよ……」
「そうこなくてはの、どれ、其処のテーブルで休みなさい」
大男はジャミル達を椅子に座らせ、テーブルの上にロウソクを
置くと、お茶の準備を始めた。
「カモミールミントティーだ、飲みなさい、気分が落ち着くぞ……」
「……」
「ジャミル、折角だから頂きましょ?」
「ぴいーっ、ちょっと歯磨きする時の味する、でもおいしー!」
「ほお、何だかこっちの坊やの方が異様に女の子らしい気がするの……」
「お、おっさん……」
漸くお茶に手を付けようとしたジャミルの手が一瞬止まった。
「儂は此処の庭園の庭師をしている者だ、この屋敷の旦那様が
20代の頃から、旦那様が大切にしておられる庭園のお世話を
ずっとさせて貰っているよ、いつからかのう、旦那様が
変わられてしまったのは……」
その言葉を聞き、ジャミルとアイシャは顔を見合わせ
複雑そうな表情をする……。
冒険編16 奇跡の花
「……あれは数十年前じゃった、旦那様の奥様がご病気で
亡くなられ……、奥様を心から愛しておられた旦那様は
大そう悲しみふさぎ込んでおった……、儂らもそんな旦那様を
見ておるのが辛かったよ……、そんな時じゃったか、あの訳の
分からん女……、ルーゼという女がこの屋敷に現れて……、
旦那様の秘書になり、旦那様も漸く元気を取り戻された、
じゃが……」
其処まで言い、庭師はパイプを吸い、暗い庭園の外を眺めた。
「……何があったんだ?」
「あんたらも分かっとるじゃろう、ある日突然、旦那様は
御乱心なされ……、彼方此方からありとあらゆる沢山の
若い娘をかき集め、自分の妻にしたのだよ……、しかし……、
暫らく立つと、お妃にした娘は何処かに消されてしまうらしい……、
行方は儂らにも分らんのだ……、そして、又別の娘を何処からか
掻っ攫ってお妃にしておる、今の屋敷の中の状況はこれぐらいしか
分からぬ……、一体何が起きておるのか……」
「あのさ、此処の領主がおかしくなったのって、やっぱ、
あの変な秘書の所為じゃね?話聞いてるとそうとしか思えねえよ……」
「……そ、そうよっ!絶対そうだわっ!領主様にきっと何か
あったのよっ!へ、変な事して、領主様を洗脳しちゃったんだわっ!
だって、充分怪しいおばさんだったもの!」
ジャミルの意見に興奮しながらアイシャも同意する。
「けどなあ……、あの領主の趣味は全く分かんねえってルーゼも
自分で言ってたんだよな、そこら辺も調べて見ねえと何とも
言えねえんだけど……」
「本当に旦那様が……、操られておると言うのなら、元にお戻りになる
可能性もある訳じゃが、奥様が生きておった頃はのう、本当に誠実で
誰からも好かれる優しい旦那様じゃったよ……、強引な手段で此処に
作品名:zokuダチ。セッション19 冒険編3 作家名:流れ者