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五月雨ドジっ子完全克服プロジェクト

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 夕立が投げるクッションやぬいぐるみは、面白いように五月雨の顔面や身体にヒットする。最初は手加減していた夕立も、時雨に「本気でやらないと意味がないよ!」と叱咤され、徐々に本気モードになっていく。

「いくよさっつん!必殺、ぽいぽいアタックー!」

 夕立の掛け声と共に、複数のぬいぐるみが時間差で飛んでくる。五月雨は右を避けようとして左に当たり、上を気にすれば足元に転がってきたクッションに躓いて派手に転んだ。

「だ、ダメ……もう、何がなんだか……」

 床に大の字になって息を切らす五月雨に、時雨は容赦ない言葉を投げかける。

「集中力が足りない。飛んでくる物体の軌道を予測して、最適解を導き出すんだ」
「予測って言われても……!」

 悲痛な叫びも、冷静な親友には届かない。最終的に、夕立が冗談で投げたスリッパが綺麗な放物線を描いて五月雨の額にクリーンヒットしたところで、この訓練は強制終了となった。

 そして、最終段階のビーズ通し。これは、ある意味で最も過酷な試練だった。
 極細の糸の穴に、極小のビーズを通すという、気の遠くなるような作業。五月雨は指が太いわけではない。むしろ、どちらかと言えば華奢な方だ。しかし、焦りとプレッシャーで指先は震え、何度やっても糸はビーズの穴を素通りしていく。

「……っ!」

 ようやく一つ通せたかと思えば、安堵した瞬間に指から滑り落ち、小さなビーズは床の上を転がってどこかへ消えていった。

「……さみ、もう一度最初から」

 時雨の非情な宣告が響く。時計の針は、すでに三十分以上進んでいた。五月雨の目には、じわりと涙が滲み始める。悔しい。情けない。そして、何より悲しい。自分のために一生懸命になってくれる親友たちの期待に応えられない自分が、ひどく惨めに思えた。
 ついに、五月雨の心の糸がぷつりと切れた。

「……もう、いやだ……!」

 彼女は手元のビーズと糸を放り出し、顔を両手で覆って泣きじゃくり始めた。突然のことに、時雨と夕立は目を丸くして固まる。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!私、何をやってもダメで……二人の期待にも応えられなくて……!ドジなのは……私が一番わかってる……!でも、どうしようもないの……!」

 嗚咽に混じって吐き出される言葉は、ずっと彼女の心の中に溜まっていた澱だった。優しくて真面目な彼女は、親友たちの善意を無下にしたくない一心で、無理を続けていたのだ。

「さ、さっつん……」

 夕立が狼狽えたように五月雨に駆け寄る。時雨も、さすがにやり過ぎたことに気づき、血の気が引いていくのを感じていた。自分たちは、ただ五月雨を助けたかっただけなのに。良かれと思ってやったことが、一番大切な親友をここまで追い詰めてしまっていた。

「ごめん、さみ……。ぼくは、君の気持ちを考えていなかった……」

 時雨が震える声で謝る。しかし、一度決壊した五月雨の涙は、簡単には止まらなかった。部屋は、少女の悲しい泣き声と、二人の気まずい沈黙で満たされた。まさにその時、部屋の扉が控えめにノックされた。

「少し、いいかな?」

 そこに立っていたのは、西脇提督だった。彼は三人のただならぬ様子を見て、少し驚いたように眉を上げた。

「どうしたんだ、みんな揃って。何かあったのか?」

 提督にまで、こんな無様な姿を見られてしまった。五月雨はさらに顔を赤くして俯く。時雨が、意を決したように口を開いた。

「提督……。ぼくたちが、五月雨を追い詰めてしまいました」

 時雨は、事の経緯を正直に話した。五月雨の度重なるドジを心配し、二人で特訓プランを立てて実行したこと。しかし、それが逆効果になり、彼女を泣かせてしまったこと。一部始終を聞き終えた西脇は、黙って泣きじゃくる五月雨の隣にそっとしゃがみ込んだ。

「そっか。大変だったな、五月雨」

 彼は責めるでもなく、ただ優しく五月雨の頭を撫でた。その温かい手のひらの感触に、五月雨の嗚咽が少しだけ和らぐ。

「時雨、夕立。君たちが五月雨を心配する気持ちは、よくわかる。仲間を思う、とても大切な気持ちだ。ありがとう」

西脇提督はまず、二人の行動の根底にある善意を認めた。その言葉に、俯いていた時雨と夕立は顔を上げる。

「でもな、少し考えてみてほしい。五月雨のドジは、本当に『治さなきゃいけない』ものなのかな?」
「え……?」

 時雨が意外そうな声を上げる。彼女にとっては、欠点は修正すべきもの、という考えが当たり前だったからだ。

「さみは、ドジだけど、いつも一生懸命だ。失敗しても、決して諦めない。俺は、初期艦に彼女を選んだ時から、ずっとその姿を見てきた。その真面目さ、ひたむきさこそが、五月雨の一番の長所だと、俺は思ってる」

 西脇の言葉は、静かに、しかし力強く三人の心に染み込んでいく。

「それに、考えてもみろ。もし五月雨が完璧超人になったら、君たちの出番はなくなってしまうじゃないか」
「えっ?」
「時雨は、五月雨が何かやらかすたびに、冷静に状況を分析して、的確なフォローをするだろ?夕立は、持ち前の明るさで、落ち込んだ五月雨を励ますことができる。一人が完璧であることよりも、三人が互いに支え合うことの方が、ずっと強いチームになれると思わないか?」

 提督の言葉は、まるで霧が晴れていくかのように、三人の視界をクリアにした。そうだ。時雨はいつも、五月雨が起こしたトラブルの最適な解決策を瞬時に導き出していた。夕立は、その天真爛漫さで、場の空気を和ませ、五月雨の心を軽くしてくれていた。五月雨のドジは、無意識のうちに二人の長所を引き出し、三人の絆を深めるきっかけになっていたのかもしれない。

「無理に矯正する必要なんてないんだ。五月雨は、五月雨らしくあればいい。その代わり、時雨と夕立、君たちが、これまで以上に彼女をサポートしてあげてくれ。もちろん、俺も全力でサポートする。それが、俺たち『チーム』の在り方じゃないかな」

 西脇提督はにっこりと笑った。その笑顔は、まるで魔法のように、部屋の重苦しい空気を一掃してしまった。

「ぼくたちは……間違っていたんだね……」

 時雨がぽつりと呟く。彼女は五月雨の方を向き直り、深く頭を下げた。

「ごめん、さみ。本当に、ごめん」
「ううん、私もごめん!痛かったよね?ゆう、本気で投げちゃった……」

 夕立も涙目になって皐月に謝る。五月雨は、もう涙を流してはいなかった。ゆっくりと首を横に振る。

「ううん。二人は、私のためにやってくれたんだもん。ありがとう」

 三人は、顔を見合わせて、そして、ふっと笑った。まるで、降り続いていた雨が上がり、綺麗な虹がかかったかのように、彼女たちの心は晴れやかになっていた。
 提督は、満足そうにその光景を眺めると、静かに立ち上がった。

「よし、話はまとまったみたいだな。じゃあ、仲直りの印に、みんなで間宮さんのところに行って、パフェでもおごってやろう。俺の奢りだ」
「「「本当!?」」」

 三人の声が綺麗にハモった。さっきまでの湿っぽい空気はどこへやら、少女たちの顔には、年相応の輝きが戻っていた。

「もちろんだ。ただし、一つ条件がある」