zoku勇者 ドラクエⅨ編2 解雇された天使~束の間の休日
「……何だ?何かにぶつか……、ジャミルっ、お前こんなとこで
何してやがるっ!」
「いや、すげーケンカだなと思って、ちょっと……」
「くそ、いいか……、オレが親父に怒られてた事、リッカには
絶対言うなよ、……みっともねえからよ!……頼むぜ、絶対
言わないでくれよ!」
ニードはそう言いながらダッシュでその場を逃げ出す。奴には奴の
得体の知れない変なプライドと意地が有るんだなあ……と、思いつつ、
呆れて感心しつつ、逃走するニードを眺めていた。……と、再び玄関の
ドアが開き、ちょび髭のおっさん、……私が村長です、さんが顔を
ぬっと出した。
「君は……、確か……」
「ども!」
「君は確か、滝に落ちて大怪我をしてリッカに介護して
貰っていた……、余所から来た旅芸人さんだったかな?
……怪我が治ったのなら、いつまでもプラプラしてないで
働く事だ、やれやれ……、今時の若い者は……、どいつも
こいつも……」
村長は呆れた目でジャミルを見ながら静かにドアを閉めた。
……だからさっき、外へ仕事を探しに行こうとしたら
追い返されたんだよっっ!と、心で抗議し、ブリブリ
怒りながらやっとリッカの家へと戻る……。
「ただいま……」
「あ、お帰りなさい、ジャミル!待ってたよ」
「おお、お帰り……」
中に入ると、リッカとリッカの祖父が出迎えてくれる。
家の中からは温かいシチューの湯気がやんわり籠り、
いい匂いが漂ってくる。
「もう少しでシチューが煮えるから、そしたら夕ご飯の支度手伝ってね!」
リッカはシチューの様子を見に台所へ。その間に少し休ませて
貰おうとジャミルは居間に有るテーブル席の椅子に腰かけた。
「しかし、滝に落ちたお前さんをリッカが連れて来た時は
心底びっくりしたわい、わずか数日の間に大怪我もすっかり
治ってしまうとはのう、いやはや、若いとはいいのう……」
「……」
リッカの祖父はしみじみと呟きながらお茶を啜る。やがてリッカが
台所から戻って来る。
「お待たせ、うん、丁度シチューもいい感じだったよ、ジャミルが
帰ってくるタイミングがぴったりだったんだね、さあ、ジャミルも
手伝って、お皿を並べて!」
「へーい!」
先程座ったばかりだが、席を立ち、ジャミルも急いで手伝いに台所へ。
シチューを皿に盛りつけ、テーブルへと運んで並べた。
「ごめんね、お肉は無理だし、もう少しお野菜が有れば……、
でも、地震の災害の影響で村の畑のお野菜もみんな不作で増々
手に入り難くて……、いつも通りのお芋だけのシチューだけれど……、
さあ、召し上がれ!」
「おう、んじゃ、いただきまーすっ!」
ジャミルはシチューを口に入れる。……見た目は一見淋しげな
シチューではあるが、料理上手のリッカの手に掛かれば、中身は
ジャガイモだけでも滅茶苦茶美味であった。
「んー、うめえっ!最高っ!」
「ふふ、有難う、ジャミルは本当に美味しそうに食べてくれるから
嬉しいよ!」
「俺、正直だからよう!んーと、お代わりしていい?」
「勿論だよ!沢山食べてね!」
「うむうむ、あの幼かったリッカが……、こんなにも美味いシチューを
作れる様になって……、立派になったのう、……わしはお前の祖父として
本当に鼻が高……」
「お爺ちゃん、食べながら寝ちゃ駄目よ、ほらほらほら!溢してるよっ!」
「zzzzz……」
美味しい夕食も済み、やがて就寝時間となり、今日も一日が
終わる。出来るなら……、もう少し、このまま何事も起こらず、
ゆっくりしていたいと、ジャミルは床に就きながら、そう思うので
あった。そして、いつの間にか眠ってしまい、やがて朝がやって来る……。
「……ジャミル、ジャミル、ちょっと起きて……、朝だよ……、
あなたにお客さんなんだけど……、その……」
「……う、うう~……、……客?」
翌朝。ジャミルが使わせて貰っている部屋にリッカが起しに
やってくる。眠い目を擦り擦り窓の外を見る。何だ、もう夜が
明けちまったのかと思いながら欠伸をし、リッカの方を見た。
……彼女は少し困っている様子。
「何かありました……?」
「うん、その……、ニードが訪ねて来てるの……、ジャミルに……」
「俺にかい?」
「うん……、追い返す訳にもいかないし……、取りあえず
会ってあげて欲しいの……」
「了解」
リッカは部屋を出て、待たせているらしきニードの所へ戻って
行った様に見えたが。。仕方なしにジャミルも服を着替え、
支度を始める。……村中で彼がお笑い旅芸人だと言われ始めた
原因の一つの奇妙な天使の服に着替える。着替え終わった頃、
廊下で待ってたのかリッカがまた直に部屋に顔を出した。
「あの、あんまりニードが変な事言う様なら、場合によっては
チョップ3回まで許すわ、嫌な要件なら遠慮しなくていいのよ!」
「ああ……」
ジャミルは部屋を出て玄関へ向かう。……確かに玄関には
変なタワシツッパリ頭……、ニードが待っていた。しかし、
彼の態度は明らかに昨日までジャミルに悪態をついていた
時とは違う表情で、やって来たジャミルを見るなりニヤニヤ
し始めた。
「……あう」
「ようジャミル!何だよ、そんな意外そうな顔すんなよ!ちょっと
お前に話があってよ!」
「まさか……、ヤ、ヤラナイカ……!?じゃ、ねえだろうな!」
ジャミルは警戒し、ニードから2、3歩、後ずさりする……。
「何だよ、何言ってんだ?お前、本当に面白え奴だなあ、
此処じゃなんだからちょっと外に出ようぜ、ついてきてくれ!」
仕方なしにジャミルはニードの後を追って外へ。……連れて
行かれた場所は、リッカの家の裏であった。
「此処なら……、リッカにも聞こえねえだろ、んじゃ、改めて話すよ、
話しっつーのは他でもない、お前も知ってるだろ?峠の道の事だよ」
「ああ、確か……、地震で起きた土砂崩れの影響で、道が
塞がっちまってるとか……」
ニードにそう言われ、ジャミルはやっと思い出した。なのに、
自分は昨日、何も考えず村から出て仕事を探しに行こうと
していた事を……。
「そう!あの道は、このウォルロ村と他の土地を繋ぐ大切な
懸け橋なんだ、お陰でリッカ……、だけじゃなく、この村の皆が
迷惑してんだよ」
「……」
他の土地からこの村への客足が減ったのは、確かに峠の道が
塞がっている所為でもある。モンスターの脅威が増したのも
原因の一つではあるのだが。
「そうか……、あそこが何とか通れる様になれば、またこの村にも
客が増えるのかなあ……」
「そう!其処でこのど偉いニード様は考えた!オレがその
現場まで行って何とかしてやろうと思ってな!そうすりゃ親父は
オレの事見直すだろうし、リッカも、……村の皆も
大喜びで大助かりってワケさ!」
「……そうか、お前も只のタワシツッパリ頭じゃなかったんだな、
偉いな、頑張れよ、じゃあ……」
「!ちょ、ちょいお待ち!まだ行くなよ、話は終わってねえんだから!」
「……ぐえ!」
ニードはその場から去ろうとしたジャミルの首を掴み後ろから
思い切り引っ張った。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編2 解雇された天使~束の間の休日 作家名:流れ者