zoku勇者 ドラクエⅨ編3 新たな出会いと旅立ち
ジャミルはリッカの祖父以外の家族の事を直に彼女に
聞いた事はなかったが、何となく両親とも既に他界して
いると言う事は薄々感づいてはいたけれど。
「それでは……、伝説の……、は、もう……、それじゃ
うちの宿屋は……、ねえ、ここの宿屋はあなた一人で
経営しているの?」
「ええ、そうですけど、それが何か……」
「此処の宿屋は本当に凄いわ、小さいけれど、お客様様への
お持て成しの心が隅々まで行き届いているのが伝わってくるのよ……」
「有難うございます、父さんが私に残してくれた自慢の
宿屋ですから……」
「そうね、流石伝説の宿王の娘って処ね……」
リッカは返答に困り再び下を向く。ルイーダは腕組みをし、
リッカの方を見る。何の事だか理解出来ず俯いたリッカに代わり、
ジャミルが率先し、ルイーダに聞いてみる。
「あんたさっきから伝説伝説言ってるけど何なんだよ!
……これはそして伝説への方じゃねえぞ!?」
「あなた……、本当に面白い子ね、……あのね、ちゃんと
話を聞いて頂戴、お2人さん、特にリッカ、あなたの方よ……」
「はい……」
リッカは再び顔を上げる。それを見たルイーダはうんうん頷き、
話を進める。
「……リッカ、此処を出てセントシュタインで宿屋を
始めてみる気はないかしら……?」
「ええええーーーっ!?」
「どう?分かってくれたかしら……?」
「宿王……、父さんが伝説の宿王だったなんて……」
「とりあえず……、俺には何が何だか分かんねえけど、
凄かったんじゃね?……お前の親父さん……」
「リッカにもおじやがいるモン?」
「……だから、おじやじゃねえよ、親父だよ……」
「モン~」
そう言われても……、リッカはまだルイーダの言葉を
飲み込めないでいた。自分の父親がセントシュタインに
いた頃、伝説の宿王と呼ばれていたなどと……。
「凄いなんてもんじゃないわよ!若くして宿屋を立ち上げ、
あらゆるライバル達を押しのけ、忽ち宿屋を大きくしたのよ!」
「……そんなっ!!」
「リッカ……?」
「モン?」
今まで俯いていたリッカ。急に表情を険しくすると突然ルイーダに
食って掛かって行った。
「そんなの信じられません!私の知っている父さんは穏やかで、
例え小さな宿屋でも私と一緒にお店を経営していけるのが
嬉しいんだよって、いつも言ってたんだから!」
「リッカ……、お前……」
普段と明らかに違うリッカにジャミルは心配する。あのいつも
穏やかな彼女が……。自分の中の記憶の父親とルイーダが
話している父親の話とあまりにもイメージを崩されてしまった事に
激怒しているのだろうが……。
「それが私にも分らないのよね……、一体何故あの宿王が
突然に姿を消して、何故こんな田舎村で隠れて隠居生活
していたのかしら……」
「……」
「とにかく宿王の去ったセントシュタインの宿屋は今大ピンチ
なの、だから伝説の宿王に復帰を願い、宿屋を立て直して貰おう
って事になって私は此処まで来たの、でもまさかロベルトさんが
既に亡くなっていたなんてね……、知らなくてごめんなさいね」
「いえ、此方こそ……、さっきは取り乱したりしてごめんなさい、
折角来て頂いたのに……」
「いいのよ、謝る事はないわ、代わりにあなたをセントシュタインに
連れて行くから」
「……な、なっ!?」
「モンーーっ!?」
ジャミルもモンも唖然……。ルイーダはリベルトの手を借りるのが
不可能と分った途端、……今度はその伝説の宿王の血を引いている
リッカをセントシュタインへと導こうと考えている様である。
ジャミルはリッカがまた心配になり、彼女の方を見る……。
「……リッカ、お前……、どうすんだ?」
「心配しなくていいよジャミル、……ルイーダさん、私、
セントシュタインに行く気なんてありませんから!」
「……あら~?」
「やっぱりそのお話には無理があります、私一人では
普段からこの宿屋を経営していくのに精いっぱいなんですよ、
それに、父さんが伝説の宿王だったなんて、私は信じません……」
「そう言われてもね、これは事実なの、あなたは確実に
宿王の才能を引き継いでいる、私には人の才能を見抜く力が
あるのよ……」
「っ!もうこんな時間!お家の方のお夕食の支度しないと!ジャミル、
モンちゃんをお手伝いに借りて行くね、行こう!では、ルイーダさん、
……失礼します!」
「モンーーっ!」
「……リッカっ!」
ジャミルが呼び止めるが、リッカは駆け足でモンを連れて
その場から去る。ルイーダの強引な誘いに錯乱し少々腹を
立てている様子でもあった……。
「これは長期戦になりそうね、中々頑固な子だわ……、
ねえ、ジャミル、あんたも彼女を説得して頂戴!私は
諦めないわよ!」
「んな事言われたって……、あんたも相当頑固だよ……」
「このままあの子の才能を埋もれさせてしまうなんて、
余りにも勿体無いじゃない、それに絶対にあの子の
為にもなると思うのだけれど……」
俺にはどうすりゃいいのか分からん状態でジャミルも
一旦宿屋を後にする。リッカ、彼女の気持ちを優先して
やりたいのは当然だが……。だが、もしもリッカが
セントシュタインに行ったなら……、確かに彼女ももう
仕事には困る事はないのだが……。何よりリッカの天職と
なるのは確実だった。
「おーい、ジャミルーーっ!」
「お、タワシー!久しぶりだなー!もう監禁生活
終わったんかー!?」
急いで此方へと駆けて来るタワシ頭……、ではなく、
ニードであった。
「……だから誰がタワシか!いや、一時的なモンだよ、
少しだけ解放されたんだ、それより、リッカが……、
さっき物凄い顔して自宅の方に戻ってくのを見たからよ、
マジで般若みてえな物凄い顔しててよ……、お前、何か
怒らせたんだろ……」
「俺じゃねえっての、実はな……」
ジャミルはニードに、ルイーダを遺跡から助け、今彼女が
此処に来ていると言う事を話す。ニードはルイーダが救出
された事で、これで親父の説教から完全に解放されると
喜んでいたが……。
「そのルイーダって女はリッカをスカウトしてセントシュタインへ
連れてこうとしてんだろっ!?駄目だぞっ、絶対っ!……けど、
リッカの親父さんが伝説の宿王って話、マジなのか……?
オレ、あの人が生前にいた頃も知ってるけど、どう見たって
普通のおっさんだったけど……」
「……」
ニードもリッカの父親の真実を信じられない様子。さて、
肝心の自分は一体彼女に何をしてあげれば一番いいの
だろうか……。このまま此処に残るのを勧めるか、
……セントシュタインへの背中を押してやるのか……。
どちらの道が彼女にとって一番いい道なのか、ジャミルも
悩み始めていた……。
「リッカ、話がさ……」
「あ、ジャミル、お帰りなさい!」
ジャミルがリッカの自宅に戻ると居間のテーブルには席に着いて
リッカが待っていた。宿屋でのルイーダとのやり取り時、そして、
ニードが目撃した時の般若顔の様な彼女では無く、もういつもの
彼女ではあったが、その表情にはやはりまだ戸惑いが残っていた。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編3 新たな出会いと旅立ち 作家名:流れ者