甲斐性と雨宿りしたら
「まあ、身体を冷やさない方が良いことに変わりはない。脱がせてやろう」
「君……態度、変わりすぎだろう…。」
あれほど慌てふためいていたくせに、打って変わって嗜虐心が前面に溢れ出ている。
呆れ半分に呟くが、嬉々としてベルトを外して隊服を引っ剥がす猗窩座の耳には届いていないようだった。
「っ…く、」
時間の経過のせいだろうか。
煉獄の身の内では切ない疼きがとぐろを巻いていた。僅かな肌の摩擦でも甘い快感に変換されていく。
せっかく熱を逃さないようにとかけてくれた藁の感触が、小さな電流のようにぞくぞくと身体の中心に集まってきて非常にツラい。
煩わしくて、力が入らない腕をなんとか持ち上げてどうにか払い落とすと、見兼ねた猗窩座がにんまりと笑みを浮かべた。
「自ら曝け出すとはな。先にこちらを可愛がれということか?」
「…全く違う」
「否定する割に、」
猗窩座は大袋に寄りかかる煉獄の脇腹にするりと手のひらを滑らせ、ぐいと上体を乗り上げて顔に己の顔を近づける。
硬いばかりの節くれ立った武人の手。無骨なそれが、まるで壊れものを扱うかのように優しく弱く、赤く熟れた突起に触れた。
「随分と期待しているようだ」
「さわ、る…なっ」
喉が震える。うまく発音ができない。
奥歯を噛み締めて漏れ出そうになる嬌声を押し殺し、乱れる息を細く吐き出す。
そんなこちらに、猗窩座は金色の双眸を細めた。
「なんともいじらしいな、杏寿郎。良いじゃないか、今日くらい」
触れるか触れないかといった力加減で右胸の突起の先端を指の腹で擦られ、むず痒いもどかしさに腰が浮く。
至近距離で表情を観察されることに耐えられず、顔を横に逸らすと首筋に舌が当てがわれた。
「っん……」
「お前は今、正常ではない。」
熱い舌先が、ちろちろと肌を擽りながら耳元まで辿っていく。吐息や鼻が擦れる刺激ですら甘くて、びくびくと肩が反応してしまう。
「色欲の血鬼術に侵されている。乱れて当然だ」
「……っ、」
猗窩座は緊張をほぐそうとしているかのように穏やかな声をかけてくるが、囁かれる立場としては堪ったものではない。
胸を弄っていた指先が徐ろに弾くような動きに変わると、油断していたわけでもなかったのに声が上がってしまった。
「ぁあっ、…く」
同時に耳朶を唇にやんわりと食まれ、鳥肌が走る。
「もっとあられもない姿を見せてくれ。ここには俺とお前しかいない」
かりかりと突起の先端を引っ掻かれ、咄嗟に身を捩るが上に覆い被さった猗窩座がそれを許すはずもなく。
「やめ、ろ……ッ、」
「それは聞けんな。こんなに真っ赤に膨れ上がっているんだ、虐めてやらねば無粋だろう。」
耳の中を舐っていた猗窩座が、不意に顔を上げてああそうかと呟いた。
「左も虐めてやらないと不公平だったな」
そう言うなり身体を起こし、左胸へと頭を沈める。何をされるかはすぐに察しがついた。
そしてそれは的中する。遠慮なく突起を口に含むときつく吸い上げられ、背中から腰へと電気が駆け抜けた。
かと思えば舌先を尖らせて突起を上下に強く弾き、右胸も同時に引っ掻いてくる。
「は…ぁ、も……やめ、」
胸への執拗な愛撫に頭が痺れてくるようだ。
抗いようのない快感にそそり立った逸物からは先走りが溢れ、陰茎だけでなく睾丸まで濡らしている。
決して達すまいとしていたが、次第に強くなっていく刺激に限界を迎えていた。
が、決定打に欠ける。もどかしい。
散々弾かれてすっかり敏感になった突起の奥。胸筋に埋もれているしこりのような部分に、搔痒感が生まれていた。
しかし痒いなどと口が裂けても言えない。言ったが最後、何をされるかわかったものではない。
それでもどうにかして欲しくて、煉獄は懸命に言葉を選びながら訴えた。
「……む、胸の…奥、」
「ん?」
猗窩座が長い睫毛を瞬かせて、突起を舐めながらこちらを上目遣いに見上げてくる。…不覚にも可愛いと思ってしまった己はどうかしている。
羞恥に顔が熱くなるが、このままでは身体がおかしくなってしまいそうで。強烈な抵抗を押し留めて、続けた。
「奥を、……つ、突いて、くれ…」
「!!……、…!?な、なにで…?……ナニで!?」
目を大きく見開き、瞳孔を広げる猗窩座。
さながら上弦が鬼狩りにやられたという事実を突きつけられたかのような驚愕ぶりに、勘の良い煉獄ははっとした。
金の双眸はこちらにびしりと固定されているが、相手の手が迷わず尻に伸びてきている。
「ち、違う!そのっ……そっちではなくて、」
絶対に思い違いをしているであろう相手にどう説明するべきかと逡巡したが、ままよとばかりに猗窩座の顔を押しやって、自ら両胸の突起に中指をくりっと押し込んだ。
「んあっ……こ、こっちの、奥に…ッ」
自分の刺激で甘ったるい声が出てしまったことに憤死しそうになる。
幻滅されたかもしれないと不安に思いつつ相手の様子を窺うと、猗窩座は口を半開きにしたままこちらを凝視し、数秒の間を置いて鼻血を流していた。
「き、君っ……大丈夫か…!?」
さすがにぎょっとして訊ねるが、猗窩座は乱暴に手の甲で鼻の下を拭って膝立ちになり、下衣から己の逸物を取り出した。
それはもはや凶器といっても遜色ない仕上がりで、血管を張り巡らせた爆発寸前の雄々しい…もとい、禍々しい魔羅だった。
作品名:甲斐性と雨宿りしたら 作家名:緋鴉