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【APH】諦めと達観

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押し潰されたまま、そう訊ねればロシアの拗ねたような口がやんわりと緩む。それが可愛いと思えなくもないが、プロイセンにとって一番に可愛いものは昔の面影もなくムキムキに今や成長した西にいるドイツだけである。
「うん。僕の宝物なんだ」
プロイセンの意識が自分に向けられたのが嬉しいのか、ロシアは笑うと身体を起した。…でも、プロイセンの肩へと回った拘束の腕が緩んだわけではない。それでも、先程の押し潰されそうな重圧が掛かるよりはマシである。プロイセンは体力の落ちた我が身を嘆きつつ息を吐いた。
「へー。誰かにもらったのか?」
「うん。お姉ちゃんがくれたんだ」
「姉ちゃんか。良かったな」
「うん」
解れた部分は何度も繕われている。大事に大事にしてきたのだろう。
「ねえ。プロイセンくんは大事にしてるものある?あ、…弟君って、言うのは無しだからね?」
プロイセンの短い頭髪を弄り、ロシアが訊いてくる。
「…大事なもんねぇ」
プロイセンは眉間に皺を寄せる。大事なものはすべて西側に置いてきた。ずっと肌身離さず着けていた鉄十字も物心付いたときから着けていた日記も、大王の形見のフルートも思い出の品は全部。大事なものなどもう自分には必要ない。それはすべて、託してきたし置いてきた。ここにあっても奪われ、失くしていくだけだ。
「…何もないな」
「えー、何もないの?」
「ないな。ドイツにやったし、お前が持ってるし、俺が大事だったもんは」
ドイツの名前が出た途端、一瞬、ロシアの身体が強張ったのに気付かぬフリをして、プロイセンは話を続ける。ロシアにドイツの名は禁句だ。盛大に拗ねられると機嫌を取るのがかなり面倒くさい。
「お前のもんになっちまった俺の大事なケーニス…いや、カリーニングラード、もうちょっとどうにかしてくんねぇ?たまに、心臓がすげー軋むんだけど」
「…え、うん。ごめんね。僕もどうにかしたいとは思ってるんだけど」
間を置いて、ロシアは答える。そして、ひんやりと冷たい指先をプロイセンの左胸へと滑らせた。それに一瞬、身を竦め、プロイセンは意識してゆっくりと身体の力を抜いた。…この身体はすでに、この男のどこかに繋がれてしまっている。それを断ち切ることなど今の自分に出来るはずもない。なら、身を任せていくしかない。

「即急に頼むぜ。俺の大事なとこなんだから」
作品名:【APH】諦めと達観 作家名:冬故