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炎柱を知る(不死川編)

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「…胡蝶に呼ばれてるっつったな。俺もあいつに用があるんだ。見張りがてらついて行ってやる」

「承知した!」


威嚇をするような低い声音で呟いて、不死川は猗窩座に背を向けて屋敷へと歩みを進める。
剥き出しだった敵意が逸れ、猗窩座は両手をぱたりと下ろして煉獄に訊ねた。


「あいつ、本当に杏寿郎と同じ柱か?」

「そうだが、どういう意味だ?」

「柱というのは人格も問われるのではないのか?ああも喧嘩っ早くては下の奴らも大変だろう」

「うるっせェ!聞こえてんだよクソが!!」


もの凄い勢いで振り返り、すかさず噛み付く不死川。
対する猗窩座は、眉を潜めつつもあからさまに見下すようにして笑う。


「そういうところだ。忍耐のない奴は後先考えずにヤケを起こす」

「…おいテメェ、煉獄にうまく取りいってるからって調子のってんじゃねぇぞ…」


刀の柄に手をかけて大股で引き返してくる不死川は、口元こそ笑っているが怒り心頭とばかりに青筋を幾本も浮かび上がらせている。
煉獄は受けて立つといった態度で前に出ようとする猗窩座の肩を掴んで引き戻し、やや厳しい声音で嗜めた。


「やめないか。不死川は確かに粗暴なところがあるが、人の気持ちを慮る優しさと状況を俯瞰して見る冷静さをもつ、立派な柱だ」

「どこからどう見ても優しくはないだろう。そいつの極悪面をよく見てみろ」

「内面をろくに知ろうともせずに、思い込みで他者を位置付けるな。ましてや貶めるなど言語道断だ」

「思い込みではないぞ、現に今夥しい殺気が俺にぶつけられて…」


尚も言葉を重ねようとする猗窩座の肩から煉獄はゆっくり手を離し、口を噤んで睥睨するように隻眼を細める。
そのまま見つめると、猗窩座は三秒後には耐えきれなくなったのか目を泳がせ、たじろいだ。


「……」

「う……わ、わかった。わかったから怒るな杏寿郎っ」

「……」

「そ、そいつは優しい!それでいい!俺が悪かったから、黙るのは勘弁してくれ…」


あわあわと平謝りをする猗窩座に嘆息し、こっそり煉獄は苦笑した。


+++

(不死川視点)


煉獄と上弦の参の応酬を少し離れた位置から見ていた不死川は、ただ呆然として佇んでいた。

あれほど危険な生物だった上弦の参が、柱とはいえ一人の人間の感情に怯えているこの状況がにわかに信じ難い。

煉獄は確かに強い。しかし実力は自分と同等程度であり、上弦の参とやり合ったところで勝てはしない。事実、片目を失っているのだから間違いない。
鬼の世界は実力社会であるはず。でなければ数字など与えられないだろう。
わかりきった上下関係が、今目の前で破綻している。


「おいお前!しのぶのところに行くのだろう?さっさと行くぞ!」

「はあ?」

焦った様子で上弦の参がこちらに来て、急かすように先を促してくる。先程とまったく異なる態度に毒気を抜かれた気分になりつつも、背を押されるまま庭を進んで玄関に向かう。

「つーか……おい鬼、近ぇんだよ!離れとけ!」

「今だけ耐えろ、キレ柱!杏寿郎は怒ると怖いんだ、仲良くしろとは言わないが、せめて悪くないよう見せなくてはならん…!」

「誰がキレ柱だ馬鹿たれっ」


反射的に言い返しながら、不死川はなんとも肩透かしを食らっていた。
調子の狂う鬼だ。こんな奴が上弦だというのか?ころころと感情が変わる。これではまるで人間だ。

不死川が混乱混じりの複雑な心境でちらりと後方に視線を投げると、五歩ほど距離をとって煉獄がついてきていて。その表情は、どこまでも優しく、温かい。


…あー、そういうことか。
……いやいや、え、まじか。


納得すると同時に、衝撃に思考が止まる。
煉獄の眼差しは完全に愛しい者を見つめるそれで、疑いようのないものであるが…

見てはいけないものを目にしてしまったような背徳感と、皆に慕われていて、己も例外ではなく普通に同僚として好いている煉獄の幸せを垣間見れた安堵感がない混ぜになる。

ぐるぐると迷宮入りする不死川の思考回路を、穏やかな女性の声が遮った。


「こんばんは。皆さんお揃いで……あら、不死川さんと猗窩座さん、随分と仲良しなんですね」


玄関にちょうど入ったあたりで、廊下からしずしずと現れたのは屋敷の主人である胡蝶しのぶだった。

仲良しという単語に不死川が反発しようとしたとき、背後から上弦の参の頭に手が伸ばされてきたのがわかり言葉を切る。
煉獄の手が、わしゃわしゃと鬼の赤みがかった桃色の短い頭髪を掻き混ぜていた。


「うむ!問題を起こさず偉いぞ!」

「き、杏寿郎……怒っていないのか?」


恐る恐る振り返る上弦の参を煉獄の満面の笑みが迎えていて、不死川は驚くとともに感心した。

なるほど、しっかり手綱を握っている。
柱と揉めごとを起こせば、たとえ人を食っていないとしても鬼である以上危険視される。煉獄はそれを防ぐために怒った演技をしたのだ。…上弦の参のために。


「あとで説教が必要であることには違いないが、今は怒っていない。どうだ、不死川の優しさはわかったか?」

「え、いや優しくは……あーいや、わ……わかっ…、いや、まあ……少しは…」

「ならば良し!」


嬉しそうに破顔して、煉獄は非常に歯切れの悪い桃色頭を仕上げにぽんぽんと二回叩いて解放した。
この鬼にとって煉獄はどんな存在なのだろう。想像も及ばないが、特別であることは間違いない。


「不死川さん、頼まれていた包帯の予備です」

「ん、おう。悪いな」


胡蝶に声をかけられて彼女に向き直り、不死川は差し出された包帯の束が入っているのであろう風呂敷を受け取る。


「応急処置はご自身でやってもらっても構いませんが、出来るだけ救護班の手を借りて、必ず私のところにいらしてくださいね」

「わかってるっつの。耳にタコができらァ」

「わかって頂けないから、こうして毎回注意しているのですよ」

「ぐ…」


ぐうの音も出ないとはこのことだ。


作品名:炎柱を知る(不死川編) 作家名:緋鴉