zoku勇者 ドラクエⅨ編10 祈りの少女と主神様
「ふう……、何がどうなってんだよ……、!?」
ジャミルが海を見ると……、海から魚の尻尾が見えたかと思うと、本体を
少しだけ見せる。……正体は何と、巨大な鯨の様な怪物だった……。怪物は
砂浜に向けて水飛沫を飛ばす。4人にも水が掛かりびしょびしょに。怪物は
いつの間にか姿を消し、砂浜には大量に魚や貝などが打ち上げられていた……。
「はあはあ、はあ……、……あっ……」
「……あ、おいっ、平気かっ!?」
少女……、オリガは立とうとしたが立ち眩みを起こしたらしく、砂浜に
またしゃがみ込んでしまう。ジャミル達は慌ててオリガに駆け寄るが、
村人達はオリガの様子など誰一人、気にも掛けておらず、怪物が
消えた後に浜に残った魚などを見て騒ぎ喜びあっていた。
「平気です……、いつもの事ですから……、すみません、ご迷惑お掛け
しまして……」
「い、いつもって……、君、いつもこんな事をさせられてるの……?」
ダウドが尋ねると、オリガは小さな声で、はい……、お役目ですから……、
と返事を返した。
「なんなのよっ!もうー、ビショビショじゃん!……ねえ、この子が今、
クジラの怪物みたいなのを呼んだんだよね!?そしたらサ、まあ、魚が
大量じゃないの!!」
「……サンディうっせえ!少し黙ってろよ……」
4人は息を切らしているオリガの様子を心配するが……、其処へ
先程の髭面のムサイ男がオリガの側にご機嫌で近寄って来た。
「村長……」
「ふむ、今日も大量だな、ご苦労だったな、オリガ、お前には又
明日も頑張って貰わなくてはならんからな、早く帰って身体を
休めなさい……」
「はい……、有り難うございます……」
気を遣っている様で、実は全然何も気を遣っていない男の態度に
ジャミルはカチンと来る。オリガはジャミルが男に対して切れて
いるのを感じ取り、本当に大丈夫ですから……、と、ジャミルに向けて
小さく笑みを浮かべた。本当に村長と言う肩書きは、何処かの雪国の村の、
私が村長ですさん同じく碌なのがいない。
「……しかし、主様は一体オリガの何処をお気に召したのでしょうな、
まあ、そのお陰で私達はこうして食べる物にも困らなくなっているの
ですから、今夜も大量のご馳走が用意出来そうですぞ、有り難い有り難い!!
ははは!!」
「……」
ジャミルは去って行く村長の後ろ姿にガンを飛ばす。村人が話してくれたが、
この間の大地震の日に浜は酷い嵐に見舞われ、その日、漁に出ていたオリガの
父親は海に船ごと飲み込まれ、命を落としたと言う。母親は既に他界、たった
一人の家族を失ってしまい、浜辺で一人、毎日泣いてばかりいた幼いオリガを
哀れんだのか、主が姿を現すようになり、オリガの元に大量の魚を届けてくれる
様になった……、と、言う話だった。
「主様はのう、このツォの浜でずっとまつっていた海の守り神様
なんじゃよ……、わしもまさか生きている間にこうして毎日その
お姿を拝めるとは……、元々この村は貧しい漁村じゃった……、
じゃが、あの大地震以来、魚は益々捕れん様になってのう……」
4人に大まかな話をしてくれたお婆さんは去って行く。……オリガは
疲れてしまったらしく、まだ立てない様子である。其処に別の村人の
おばさんがやって来てオリガに容赦なく、労働基準法違反的なきつい
言葉を投げ掛けた。
「ねえ、オリガ……、悪いんだけど、今日もういっぺん主様を
呼んでくれないかい?主人が足を怪我しちゃってね、暫く仕事が
出来ないんだよ、とてもじゃないが、今日明日、食べていく分の
おまんまがあたしらには足りないんだよ、ね……?」
「で、でも……、そんな事……」
「あの、この子はとても疲れていますよ……、無理をさせては
駄目ですよ……、どうか休ませてあげて下さい……」
アルベルトがオリガを庇うと、傲慢おばさんは慌てて家に
帰っていった。4人から大分離れた処で、随分生意気な他所者
だね!と、罵声を飛ばしていた様であったが。
「……何よ、この村の人達、皆自分達の事しか考えてないじゃない!」
「モンモンっ!」
アイシャも腰に手を当てぶち切れ。モンも怒る。しかし、自分を
庇ってくれた4人の心遣いが嬉しかったのか、漸く立ち上がれる様に
なったオリガは、有り難うございます……と、再び言葉を発した。
「おう、大丈夫なのか?」
「はい、あの……、皆さんは旅の方ですよね……?少しお聞きしたい
事があるんです、夜になったらあたしの家に来て貰えませんか?
浜の東にある小さな家です、では……」
オリガは4人に頭を下げると家に戻って行った。その後ろ姿を
見つめているジャミル。
「夜か……、今じゃ駄目なのか……?俺、こんな糞村、いたく
ねえんだけど……」
「また始まった……、あの子も色々あるんだよ、本人の身体も
休めなくちゃ……、その間に僕らは村で情報収集しようよ……」
と、糞真面目なアルベルトは言う。今は確かにそれしか出来なかった。
しかし、他にあまり大した話はそれ以上聞く事は出来ず。村にある
小さな宿屋にて身体を休めながら夜になるのを只管待つのだった……。
「……そろそろ出掛けてみるか……」
空に月が出始めた時刻、ジャミル達は宿を出て東にあるオリガの小屋へと
向かって歩き出した。
「あんな小さな女の子が……、一人暮らししてるかと思うと……、オイラ
悲しくなるよお~……」
「モォ~ン……、モンも悲しいモン……」
「おいおい……」
「プ、あんた達もう揃ってバカコンビ定着?」
「……サンディ、うるさいよお!!」
「シャアーーっ!!」
鼻水を垂らし始めるダウドとモン。……確かにオリガはまだ幼い
少女である。運命は残酷だなあとジャミルは思うのだった。
「私達が此処にいられる間は出来るだけお話を聞いてあげましょ、私、
オリガとお友達になりたいわ!」
「そうだね、少しでも僕らに何か出来る事があれば……、力になって
あげられたら……」
くっちゃべりながら歩いていると、それらしき小屋の前まで辿り着く。
だが、小屋の中から話声がする。オリガともう一人……、誰か来ている
様だった。
「先客か……、じゃあ邪魔すると悪いな、もう少し外で待……、ん?」
暫く様子を見ようとすると、……中から男が現れ外に出て来た。……男は
オリガの手首を強引に無理矢理掴んで引っ張っている。彼女を何処かへと
連れて行こうとしている様子だった。
「何だてめえはっ!オリガに何してんだよっ!!人さらい野郎っ!!」
ジャミル達は慌てて男を取り囲もうとする。だが、それを見てオリガも
慌てて首を振った。
「……旅人さん、来てくれたんですね、でも、これは違うんです……」
「……お前達こそ何だ?私は村長の遣いの者だ、オリガに用があり、
連れてくる様に村長に言われ来たのだ、邪魔をすると許さんぞ!!」
「……なっ!?」
この強引な男はどうやら村長の手の者らしい。だが、こんな時間に
一体オリガを村長はどうしようと言うのか……、まさか又主を
呼ばせる気ではないかと、4人の思考は一致し、そのまま動かず
男から離れない。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編10 祈りの少女と主神様 作家名:流れ者



