zoku勇者 ドラクエⅨ編11 カラコタ編・1
「モンは此処モン?それにね、モンは甘くないモン?なめてみるモン?」
「あのな……」
最初は噴火していた少年も……、段々とモンの天然に呆れてきていた。
少年は疲れ切った様子で短刀を懐にしまい、モンの方を改めて見る。
いつの間にか少年の鼻血も止っていた。
「よく見ると……、でかくて変な顔だな、お前……、プッ……」
「シャアーーッ!!」
モンは大口を開ける。見ていたエルナはきゃっきゃと笑い出した。
ペケも……、モンを怖がる処か、ますます喜んでいる……。
「よう……、随分と楽しそうじゃねえか……、シュウ、お前、夜勤は
どうしたんだ?ええ……?お喋りタイム?おじさんを仲間はずれに
して……、おじさん悲しいよ……、しくしく」
「あ、あっ!?」
「……糞親父っ!な、何でっ!!」
「モンっ!!」
モンのお陰で雰囲気が漸く少し明るくなって来た処に……、出掛けた
筈のあの荒くれ豚男が姿を現したのだった。その場は凍り付き、ペケは
大泣きする……。
「おい、言ったろう、金……、稼いで来いとさ……、オメエ、んな所で
サボってる場合かああーーーっ!!」
「うわあーーっ!!」
「兄者ーーっ!!」
少年……、シュウに再び豚男のパンチが入り、シュウは吹っ飛ばされ
地面に……。エルナは倒れたシュウに慌てて駆け寄る……。
「ち、畜生……、ぐっ……」
「兄者……、やだ、やだようう……」
「気が変わったんだよ、だから戻って来た、……ま、どうせテメエなんかに
今夜中に10000Gなんか稼ぐのはほぼ不可能に近いからよ、仕置き
だけはきちんとしておかなきゃな、エルナ、来い……、そうだな、オメエも
一応レディの端くれだ、今回は頭部ゲンコ10回ぐらいにしといてやる……、
タンコブだらけで嘸かしお洒落な頭になるぞう~……」
「……や、いやっ!!」
「オラ、来るんだよおおおっ!!」
「やだーっ!兄者っ!怖いよーーっ!!」
「……やめろおおーーっ!!」
地面に倒れたままのシュウが必死で叫ぶが体中に走る激痛で
どうにもならず……。しかし、豚男の前にモンが……。子供達を
庇おうと立ちはだかったのだった……。
「……もう意地悪は止めるモンーーっ!!」
「……お、お前……」
「……なんだあ?おい、シュウ……、テメエいつの間に俺に内緒で
こんなくだらねえ玩具なんか買いやがったんだあ……?おいコラ……」
「ひく、だ、駄目だ……よ、モンスターさん、に、逃げて……」
「モンスターだと……?ああん?」
「モンはもう逃げないモン……、魚を黙って食べちゃったのは
モンだモン……、モン、何も出来ないけど……、でも、……だから、
モンが皆を守るモン……」
豚男は自分の目の前に立ちはだかり、必死で子供達を守ろうとするモンを
じっと見つめる。直後、ゲラゲラと大笑いするのだった……。
「な、成程……、テメエ、モンスターかあ、こいつはおもしれえや、
身を挺して人間様を守るってか、こいつはおもしれえや!あーっはっ
はっはああ!……」
「……モンーーっ!!」
「……あ、あああっ!」
しかし、モンは宙を舞い、地面に倒れた。荒くれ豚男はモンの腹にパンチを
入れたのだった。豚男は気絶しているモンの耳を掴んで無理矢理引っ張り上げた。
「……喋るモンスターか……、こいつは高く売れそうだ……、俺ってば
ついてるなあ、抵抗もしなかったしな、こ~んな金蔓が飛び込んで来るたあ
なあああっ!!ヘッへ、俺だってスライムぐれえなら軽くブチ殺せるんだ
ぜえ?おい、……シュウ君?アンタの出番よ?今度こそちゃんとお仕事
して来て頂戴な、……ねえ、君なら出来るよね……、……ねええーーっ!?
そうだよねえええーーっ!?」
「う、うううう……」
豚男はモンを掴んだまま……、ドス黒い笑みで倒れているシュウに
近寄るのだった……。
「……分かってる、おっさんの……いつもの知り合いの奴の処だろ……?」
「兄者……?」
「め、めー!?」
シュウは痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる。そして目の前の豚男を
前髪で隠れていない方の片側の目で見た。……その目は何時しか氷の様な
冷たい目へと戻っていた。
「分かってんじゃねえか、流石俺の弟子だ、丁度今夜、奴らが来る頃だ、
しっかり交渉してきな、いいお友達だからよ、嘸かし高額で買い取って
くれるだろうよ、へへへ……、場所はカラコタ橋周辺だ、そら……」
豚男は小さな布袋をシュウに手渡す。……シュウはモンが目を覚まさない様、
そっとモンの小さな身体を袋に入れた。
「……兄者!その子を売る気なの!?お願い!止めてよう!こ、この子は
ワチ達を助けようとしてくれたんだよ!?」
「めー!めー!」
「エルナ、こいつはモンスターだ、モンスターは本来の人間の敵だ、
こいつだって何時モンスターとしての本能を出すか分かんねえんだぞ、
……俺は誰も信用しない……、人懐こくたって……、それ程の知能が
あるなら人間を騙す事も充分ある、危険て事だ……、分かったらその手を
離せ、これもお前らを守る為だ……」
「だ、駄目、……きゃあう!?」
シュウを必死に引き止めようとするエルナ。だが、後ろから乱暴に
エルナの横ポニテを豚男がまた引っ張りシュウから遠ざけるのだった。
シュウは後ろを振り返らず、その場を立ち去ろうとする。
「お前はね、いいのっ!お兄ちゃんの邪魔しちゃ駄目でちゅ!俺の
晩酌の相手してね、さあ、来いっ!能無しチビ、お前もだっ!!」
「やあああ!うああーーん!!」
「兄者、兄者ー!……駄目だようううーー!!」
シュウは背中腰に聞こえて来るエルナとペケの悲鳴と泣き声を耳に
受けながら無言で早足になる。向かうは豚男の言った通り、カラコタ橋
周辺。一刻も早くこんな事は終わらせたかった。……だが、モンが中に
入った布袋を掴んだその手は恐怖と後悔の念で震え始めていた。
(……畜生、何が俺達を守るだよ、何も出来ねえ低俗モンスターの癖に……、
ふざけやがって……)
その後、ボロ小屋に無理矢理連れ込まれたエルナは泣きながらも
豚男の晩酌の相手を只管させられ、……ペケは既に泣き疲れて
眠ってしまっていた。
「ひっく、ひっく……」
「へふふう~、ゲフ、うい~、一時はあの糞ガキのお陰で気分最悪様々よ、
しかし、今の俺はさいっこ~にご機嫌でしゅ、でもお~、今はもうご機嫌
るんるんでしゅう~、なぜならあ~、お金が入るから……、なので……、
ぐおおおおーーー!!」
酒を鱈腹飲んだ豚男もたるんだ腹をさらけ出し、上機嫌で眠ってしまう。
そのだらしない姿を目の当たりにしたエルナの脳裏にモンの言葉と
ある考えが浮かんだのだった。
「モンのお友達なら皆を助けてくれるかも知れないモン!
……ジャミルなら……」
「今なら……、もしかしたら……、でも……」
エルナは眠っているペケと豚男を交互に見比べる。自分が今しようと
している事、チャンスは豚男が眠っている今しかない。もしかしたら
モンを救えるかもしれない、神様が与えてくれた時間なのだと。そう
思った。エルナは眠っているペケの小さな身体にそっと触れた。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編11 カラコタ編・1 作家名:流れ者



