zoku勇者 ドラクエⅨ編11 カラコタ編・1
「……ごめんね、ペケ、ワチ、行ってくるよ、このままあのモンスターさん
ほっとけないの、兄者にも悲しい顔して欲しくないの……、でも、絶対戻って
来るからね……」
エルナは急いで暗い外へと飛び出す。裸足のままで。……暗い夜道を
町目指して走るその足には道端に錯乱するガラスが刺さり、小石が
彼方此方踵にぶつかり既に血が滲んでいた。
「ひっく……、兄者、駄目……、駄目だよう……」
シュウもエルナもペケも皆、親のいない孤児だった。人買いを通じて、
彼、彼女らは豚男に売られた身であり、出会って一緒に生活を共に
する様になった。豚男にいつも脅され何処かの旅人達から金を
盗んでくるシュウの目はいつも何処か悲しそうな目をしていた。
……仕事に失敗すれば殴られ、傷だらけで蹴られて戻って来る。
そして豚男にも暴力を振るわれる。自分も早く仕事を覚えろと
豚男から脅されていたが、エルナにはまだ早い、俺が当分頑張る
からといつも豚男の手から悪い事をさせるのを阻止して守って
くれていた。……そしてまた悪い事に手を染めようとしている。
……自分達を守る為……。必死で走るエルナの目から涙が滲んだ。
心の傷。……それは足の痛みなんかよりも数倍辛かった……。
「ハア……、だ、駄目……、もう走れな……、でもっ、ワチが
頑張んないとっ!」
走っていて息が切れ、途中で立ち止まってしまう。しかし、走るのを
やめる訳にはいかない。モンが言っていたジャミルと言う名前……、
エルナは会った事も見た事も無い。けれど、モンの友達だと言う
その人物も今頃モンを町で探し回っているかも知れない。エルナは
只管、その人に会える奇跡を信じ、町までもう一踏ん張り走って
行った……。
……その頃、アルベルトはまだ独り、ジャミル達との合流を拒否し、
最初の場所……、カラコタ橋の中央に佇んでいた……。
「やっぱり……、もう皆の処に戻った方がいいかも知れないな……」
橋の中央から下の集落の景色を見つめ、大きく息を吐く。……一体何故
こんなに苛々しているのか自分でも分からなくなり混乱していた。此処は
その日暮らしの罪人達の溜まり場所。賭け事や盗み、この集落の人々は
日々を皆悪事に手を染めて生きている。そういった人達を許す事が
出来ないのか、それとも……。色々考えているとアルベルトを再び
頭痛が襲った。
「アニキー、アニキのお友達は今日は一体何を持ってきてくれるのねー?」
「……誰か来る……?」
「さあ~、わからんのねー、何でもいいのねー、ぼくら今回は危険な
実験に使えるもんなら何でも買い取る闇営業さんなのねー!」
「お見積もりわっしょいしょいなのねー!」
「……は、はあ?でも、この声……、何処かで……」
暗くて良く分からないが、確かに橋の向こう側から変な声がし、数名が
此方に近づいて来ていた。しかし、アルベルトの頭にはその聞こえてきた
声に微かに聞いた事がある様な危険な感じを覚えていた……。
「……お前達はっ!?」
アルベルトの方に向かって橋を歩いて来た同じ顔の変な3人組。
……カネネーノネー基地害3兄弟である。事ある事にどの
シリーズでも段々現れる様になり、4人組の妨害をしてくる
最悪のクズ共の一部類。
「よう、金髪、久しぶり~、なのね~!」
「今回も出てやったのね、ほれほれ~!」
「今回はね、ぼくら危険物を買い取るお偉いさんなのね、だから
カネネーノーネーじゃないのねー!……カネアルノネー3兄弟様と
お呼び!なのね!」
「どっちでもいいっ!そんな事っ!お前達っ、今回は一体何の
悪巧みなんだっ!!」
アルベルトは鉄の剣を取り出すと身構える。……その姿を見た基地害
バカ3兄弟は同じ変な顔を見合わせ首を傾げるのだった。
「お前、前々回共バランスサポート系だったみたいだけど、今回は
戦士みたいなのね?」
「……気が狂ったのね?」
「亀みたいな糞がまあ、無理しちゃって……、なのね~」
「……うるさいっ!僕だって日々修行してるんだっ!覚悟しろ
この基地害共っ!!」
「それはこっちの台詞なのね!……それにお前、いつも連んでる
バカな仲間が一緒にいないみたいなのね?」
「う、ううっ、だからそんな事お前達には関係ないって言ってるんだ!
いちいちうるさいなっ!!」
アルベルトはどんどこ突っ込んで来るバカ兄弟のカシラに
苛々を募らせた……。
「アニキ、こいつきっと、余りにもトロすぎで遂にパーティ
解雇されたのねー!」
「オー、不況の波がこんなとこにまで押し寄せているのねー!
リストーラ!」
ぶちっ……
アルベルト、遂に腹黒モードになり、スリッパを取り出す……。
「あ、やれるモンならア~!」
「やってみやがれェてやんでぃ!」
「なのねえ~!!」
タン、タン、タン、タタン……
「……」
基地害3兄弟は3人並んで橋の中央に立つと、カシラを間に挟み、
片手を前に突き出す歌舞伎のポーズを取る。だが、3基地は、
タンタンタンと、見得のポーズのまま、そのまま3人横に並んで
片足を上げたまま、跳ねながら横に移動、……橋から揃って転落した。
「アーーーーーーーーーーー!?」
「……な、一体何だったんだ?」
アルベルトは再び橋の下を覗き込む。……墜落した3基地は
そのまま川に流されて行ったらしい。
「よう、……アンタがおっさんの知り合いの……密売人かい?」
「えっ……?」
再びアルベルトに声が掛かる。ぼーっとしていたアルベルトは慌てて
我に返るが、振り向くと其処に立っていたのは……。
「君は……?」
「……こ、こいつ……、違う……?」
……漸くカラコタ橋に到着したシュウであった。しかし、シュウは
アルベルトの顔を見て違和感を覚えた。……何かが違うと……。
暗闇でもほのかな光を放つ金髪の髪。真面目でいかにもな清潔そうな
顔立ち。とてもあの豚親父の知り合いとは思えなかった。シュウは
豚男に汚い知り合いがいるというのは以前から聞いていたが、今回、
初めてシュウが単独で、闇取引に強制的に駆り出された。だから、
先程橋から転落した基地害兄弟の顔も知る筈がなかった。
「ねえ、君は一体誰なんだい?それに僕が密売人て……」
シュウは動揺し、手に再び汗が滲み出す。完全に人違いだった。
……彼が手にしている袋の中にまさか、探しているモンが入って
いるなどと、アルベルトは気づく筈もなく……。
「……人違いだっ!じゃあ!」
「……待てっ!」
アルベルトも不審に思い、慌てて逃げようとしたシュウの片手を
思い切り掴んだ。シュウは慌ててその手を振り払おうとするのだが……。
「は、離せっ!……畜生!ああっ!?」
「!?」
シュウは焦って手にしていた袋を地面に落とす。……衝撃で袋の中に
閉じ込められていたモンの頭部が少しだけ姿を現す……。
「……モンっ!!」
アルベルトは慌ててモンが入った袋を拾おうとする。しかし、アルベルト
よりも素早く、シュウがさっと袋を拾い回収する……。
「困るんだよ、こいつは大事なカネヅルだ、渡さねえぞ……」
「き、君が……モンを誘拐したのかっ!?」
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編11 カラコタ編・1 作家名:流れ者



