zoku勇者 ドラクエⅨ編11 カラコタ編・1
「そうだよ、わりィか?ふ~ん、こいつはお前の知り合いか、けど、
俺も商売なんでね、上からの命令でさ、こいつをある奴に届けなくちゃ
なんねえのさ、金の為に……」
シュウは再びモンの身体を袋に押し込むとそのまま背中に背負う。
そして懐から短刀を抜くと、矛先をアルベルトへと向けた……。
「兄ちゃん、このまま大人しく黙って帰るなら許してやってもいいぜ?
怪我したくねえだろ?」
「……ふざけるな、モンは探していた僕達の大切な仲間だ、
……返して貰う……」
アルベルトも鉄の剣を持ち直すと胸の前で構える。その姿にシュウは
バカにした様に鼻を鳴らす。
「こんな奴……、何の価値もねえ、クズのモンスターじゃねえか、
庇う必要あるのかい?」
「君に分かるもんか!……分かって欲しくもない、とにかくモンは
絶対に返して貰うよ……」
アルベルトの言葉に……、シュウはモンが身を挺して豚男から皆を
守ろうとしてくれたのを思い出す。……あんな小さな身体で必死に……。
(分かってる、分かってんだよ、……一番クズなのは俺なんだ、でも
俺が此処で手ぶらで帰りゃ……、又エルナ達が酷ェ目に遭っちまうんだよ!!)
「……ウォォォーーッ!!」
「ぐっ、……は、速い!?」
シュウは短刀を構えたまま素早い動きでアルベルトに突っ込む。
アルベルトは何とか剣先でシュウの攻撃をガードするが、
……かなり押されていた……。
「く、くそっ……」
「どうだい……?ガキだと思って舐めて貰っちゃ困るんだよ、
俺だってアサシンの端くれさ……」
シュウの短刀は等々アルベルトの喉元まで矛先が迫っていた。しかし、
アルベルトも負けてはおらず反撃に出る。アルベルトは怒りに身を任せ、
敵を攻める事ばかりに気を取られ、防御は完全無防備でまだ未熟な
浅知恵のシュウの下半身を足で思い切り蹴り飛ばした。
「……ぐううっ!?……ち、畜生っ!!」
「甘いよっ!」
「い、嫌だ……、負けねえっ!何がなんでもっ!……エルナ、ペケ!
俺が絶対にお前らを守るっ!!」
「仕方が無い、少し落ち着いて貰うよ……」
アルベルトは剣を柄の方に持ち換えると、そのまま勢いよく
シュウの腹に柄を叩き込む。……シュウはゆっくりと……、
意識を失いながらその場に倒れた……。
「……ペケ……、エ……ルナ……、嫌……だ……、ちく……しょ……う」
そして、ジャミル達の方は。アルベルトが待ち合わせ場所に指定した
宿屋らしき建物がある場所に一度戻る事にしたのだが……。一向に
アルベルトが戻って来る気配は無かった。
「アルの野郎……マジで何してんだよ……」
「ねえ、アルは……、オイラ達と一緒に行くの完全に嫌になっちゃった……、
のかなあ……、もしかしたらもう、1人で先に……」
「バカねえ、どうしてそうすぐ悲観するのよ、アルがそんな事する訳
ないでしょ!」
「オイラのクセだもん……、どうしたって昔からこうなんだよお、
ほっといて……」
いつもの如く悪い方向にと悲観を始めたダウドをアイシャが注意。しかし、
彼女も本心では段々不安が増して来ていた。……モンの状況も3人は
まだ全く知らないのである。
「はあ……、どいつもこいつも……、ん?」
「まーたあの、汚いムスメッコだよ、嫌だねえ……、一体今日は
何の騒ぎだい……」
「最近この集落に変な男と越して来て川縁の空き家に住んでる子だろ?
気が悪いったらありゃしないよ……」
ジャミル達の目の前をおばさん達がべっちゃらべっちゃら喋りながら
通過して行った。
「何かあったのかしら……」
「……」
「……ジャミルさーん!あのっ、ジャミルさんと言う方はいませんかーっ!?
も、もし、まだこの町にいたらお返事してくださーーいっ!!」
「……い、いいいいっ!?」
突如、いきなり自分の名前を呼ぶ甲高い声が聞こえて来た。一体何が
起きたのか分からずジャミルは慌てだす……。
「ねえ、ジャミル……、また何かやったでしょ……」
「今度は何なのよ……」
ダウドとアイシャはジャミ公をジト目で見る。ジャミ公は再び慌てだし、
必死で否定。
「アホっ!俺ら今日此処に来たばっかだぞっ!第一、今日は俺とお前ら
ずっと一緒に行動してたろがよ!」
「……ん~、そう言えばそうねえ……」
「いつも言ってるけど、普段が普段だから疑われるんだよお~……」
「そりゃそうで……って、やかましいわっ!!」
「あいたあーーっ!!」
「……やめなさいったらっ!!」
ど付き合いを始めてしまうバカ2人。……と、其処に……、1人の少女が
フラフラと……、此方に向かって歩いてくるのが見えた。だが、うっすらと
街灯の明かりで見えた少女の容姿は凄まじかった。縛ってあるポニテは
既に解け、顔は真っ黒、服はボロボロ、……裸足の足は血まみれだった……。
「ハア、ハア……、も、もう……」
「ジャミル……、あの子大変だわ!」
(うっわ!……ま、まるで、世界ナントカゲキジョーの世界じゃネ!?)
「……ジャミル……?も、もしかして……、おにい……さ……ん……」
少女……、エルナは立ち眩みを起こし、そのまま地面に倒れる。ジャミル達は
慌てて倒れたエルナへと駆け寄るのだった……。
「大丈夫かっ!……おーいっ!?」
……エルナは夢を見ていた。久しぶりに夢に出て来た母に抱かれていた。
もう逢えない筈の母。温かい腕で自分を抱いてくれていた。
「おかあさん……、いかないで……、……?」
「大丈夫……?」
「ふぇ!?」
目を覚ましたエルナは慌てる。……倒れた自分を全く知らない
お姉さんが抱いて介抱してくれていたのである。ふわふわで甘い
優しい良い匂い。だが……。
「え、ええええ!?あ、あの、ごめんなさいっ!わ、ワチ、こんなに汚いのにっ!
……本当にごめんなさいっ!!」
倒れたエルナを抱いて介抱してくれたのはアイシャであった。しかし、
身なりの汚い自分を抱いたりなんかしたら、迷惑を掛けてしまう、
エルナは慌ててアイシャから離れた。ふと、ある事に気づく。……足の
痛みがいつのまにか治っており、キズも無かった……。
「……ど、どうして……?ワチ……」
「うん、ベホイミ効いたみたいだねえ、良かった!」
「……え、えーと、あのう……」
エルナは何が起きているのか分からずしどろもどろになるが、
ダウドは笑って、いいよ、もう少し座ってなよと、立っている
エルナに声を掛ける。
「このお兄ちゃん、ダウドは回復魔法が使えるのよ、あなたの足、
とっても痛そうだったわ、でも、治って良かったわね!」
「うん!」
アイシャとダウドは顔を見合わせて笑う。……一体何故、見ず知らずの
こんな汚い身なりの自分を平気で助けてくれるのか……、両親が死に
孤児となり、あの豚男に売られてから……、毎日泣かない日は無かった。
だが、何だか今までと違う嬉しい何かが心に込み上げて来て、エルナは
又泣き始めた……。
「うわああーーん!わち、ワチ、こんなに優しくされたの始めてだようー!
あーーんっ!!」
ジャミルは泣き出したエルナを見て、ダウドとアイシャに目で合図する。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編11 カラコタ編・1 作家名:流れ者



