zoku勇者 ドラクエⅨ編12 カラコタ編・2
「兄者……?」
シュウは怒りで拳を握り、再び氷の目になる。そして、短刀を強く握り締め、
怒りの矛先を向ける。……その矛先は……。
「お前……」
シュウはジャミル達の方を睨む。強く。強く……。彼は怒りと悲しみで
誰を信頼したらいいのか分からなくなっており、完全に理性をもう
失い掛けていた……。
「ちょ!これマジやばいっしょ!?こらー!ジャミ公ううう!早く
アタシを此処から出せーっつ!!出せってのーーっ!!」
「わ、分かってんだよっ!けど……」
喚くサンディ。ペケは助ける事が出来ず、状況はどんどん最悪になり、
ジャミル達は追い詰められていた……。
「兄者!やめてよっ!お、お兄さん達は……、ワチ達の味方だよ!?
ワチの怪我だって治してくれた、なのにどうして!?」
「エルナ、うるせえ、黙ってろ……、どっちみちもうペケは手遅れだ、
助からねえよ……、元はと言えば……、この糞モンスターが魚を
食っちまったからこんな事になったんじゃねえか!!……何が
俺達を守るだよ……、全部あいつの所為だ!……こんなモン、
この町に連れ込んだてめえらが全部悪いんだっ!……てめえら
さえ来なけりゃ……」
「兄者……」
エルナの目に再び涙が滲む。……勝てないと分かっていながらもシュウは
4人に詰め寄る。どうしてもモンを奪い取り、基地害兄弟へと
手渡す気である……。
「お前……、自分の事自分でドブネズミって言ったな……、本当に
それでいいのか?」
「何がだっ!!」
「諦めたら其処で負けって事さ、自分で弱いドブネズミって認めてたら
本当にそうなっちまうんだぞっ!!確かに魚を食ったのはモンが悪いさ、
モンをちゃんと見ていなかった俺達にも責任はある、でも、今の状況から
どうやったら抜け出せるのか、どうやったら良くなるのか、……お前、
一度でも考えた事があんのか!?」
「そうよ、シュウ君……、諦めちゃ駄目よ!ペケ君は絶対私達が助けるわ!!」
「うるっせー!この野郎!!この偽善者糞アマ!てめえ、あの状況を
見てもまだそんな事が言えんのかよ!!……もう、助かる……、
助けられる訳ねえだろうがよーーっ!!……それに……、勝てる訳が
ねえだろ、……あの糞男に……、俺みてえな……、従って生きるしか道は
ねえんだよ……」
シュウはアイシャの言葉にも怒りをますます覚え、錯乱する……。
絶望の中に取り込まれているシュウを……もう誰も止める事は
出来ない……、出来なかった……。ジャミルはアイシャを手で制止、
顔を見て黙って首を横に振った……。
「ジャミル……、そんな……」
「ふん、やーっと分かったかよ、……シュウくん……?お前達ね、
お父さんには逆らえないんだよ、そう、だーれもお前達なんか助けちゃ
くれないの?ね?クズは一生俺の下で稼いで金渡して貢ぎゃいいの
さあーーっ!!美味い糞メシならこれからもたんまり食わせて
やるからよ!あーっはっはっはっはああーーっ!!さ、お仕事して
ちょうだいな!!」
「のーねのねののねー!」
「ねーのねのののねー!!」
「のねののねねーー!!」
絶望と悲しみの中にいるシュウとエルナをあざ笑うかの様な豚男と
基地害兄弟。しかし、まだジャミル達も諦めた訳では無い。最後の
最後まで。どうしてもペケを救いたい、助けてやりたかった。……勿論、
シュウもエルナも。
「……エルナの話には聞いてたけど、あの豚、マジ最悪だな……、
こりゃ1回や2回死んでも救われねえ……、最悪だっ!!
反吐が出るっ!!」
と、ジャミルも呆れ返った処で、ダウドが喚きだした……。
「は、早くしないとっ!あの子本当に回復魔法を掛けても手遅れに
なっちゃうよおー!……ザオラルでも呼び戻せなくなるかも知れない
よおっ!!」
「ダウド、分かってるんだよ、ジャミルも僕らも……、でも、あいつに
捕まっている限り……、どうにも出来ない……、下手に手を出せば
どっちみちあの子は殺されてしまう……」
アルベルトが俯く。はっきり言って、あんな豚男、ジャミル達には
ウンコの様な相手なのだが、何せ、何をしてくるか分からない厄介な
ガードマンも側にいる……。だから頭を悩ませているのである。しかし
もう本当に時間は無かった……。
「にー、ねー……、あ……が……と……ね……」
「ペケ……?」
遂に力尽きたペケが魘され囈言を言い出す……。旅立つ前の、
……シュウとエルナに向けた最後のお礼の言葉だった……。
「おう、そろそろ行くのか?能無しチビ、元気でな、んじゃもうお前は
要らないね、ばいばい、あの世で死んだお父ちゃんとお母ちゃんに
会いなさい、元気でねー!お前は少しだけ最後に役に立ったぐらい
だったねえー、ホント、大きくなってもこりゃ使えねえ奴だと思って
たけどよ、フンっ!!」
……豚男は……、何と……、皆のいる前で表情一つ変えず、掴んでいる
ペケを真っ暗闇の川が広がる橋の下へと叩き落とそうとしているのである……。
「……な、何て事をっ!!やめろっ!!貴様……、本当にそれでも
人間なのかーーっ!?」
「ふん、知らねえな……、おらあ、不要なゴミを捨てるまでだよ……」
豚男は自分に向かって絶叫するアルベルトに平然と言い放ち、
ほじくっていた鼻糞を飛ばした……。そして、……次の瞬間……。
「……ジャミルーーっ!!……ペケ君がーーっ!!」
「……あ、あの糞野郎ーーっ!!も、もう……完全に間に合わねえっ!!」
「……く、くっ……!!」
「冗談……、だよね……?ねえ……」
「……いやああーーーっ!!兄者、兄者ーーっ!!」
「うそ……、だ……、こんなの……、う……、いやだああーーっ!!」
「あ、あああ、も、もう駄目……、う、アタシ……、も、もう
知らないわヨっ!!」
豚男の余りにも卑劣すぎる行動と、この瞬間は……、ジャミル達も、
シュウもエルナも……、基地害兄弟を除いたその場にいた全員を
凍り付かせ、絶望の淵へと叩き込んだ……。だが。
「……守るって言ったモン、……モン、約束絶対に守るんだモンーーっ!!」
「……モンっ!!」
「モンちゃんっ!!」
「……な、何なのねえーーっ!?」
「……の、のおおおーーーっ!?」
しかし、まだ希望は失われておらず……。意識を取り戻したモンが、
橋の下へと急降下で、猛スピードで飛んで突っ込み、川へと落ちそうに
なる寸前のペケを救い出した……。余りの出来事に豚男と基地害兄弟は
暫くの間、鼻水を垂らし、スカシをこき、口を開け方針状態に……。
その間に、モンは急いで抱えているペケを連れてジャミル達の元へと
戻った。皆が見守る中、ダウドは急いでペケにベホイミを掛け捲るのだった……。
「大丈夫、大丈夫だよ……、神様、どうか……、お願いします、この
幼き命にもう一度光を……」
「や、やっ……、う、嘘だ、嘘だろ……、こんな、こんな事って
あんのかよ……、嘘だろ……」
「あ、兄者……、兄者あああ……」
エルナがシュウに飛び付き、再び泣き出す……。しかし、それは再び
希望を取り戻した喜びの涙へと変わっていた……。
……ダウドは基地害兄弟と豚男がアホ放心状態の間に必死でペケに
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編12 カラコタ編・2 作家名:流れ者



