zoku勇者 ドラクエⅨ編12 カラコタ編・2
「ふう~ん、成程成程……、しかしなあ~……」
やっぱり金持ちって厄介事に巻き込まれるんだわん……と、嫌~ねえ……、
写真を見ながら何となく人事の様にジャミルは思ったのである。
「おい、書いてる奴……、俺をカマみたいに書くなよ……」
「ちなみに……、孫の名は……、ジョナと言う……」
「う~?」
老人は切なそうに写真の中の赤ん坊と今傍に来ているペケとを交互に
見比べる。もしも、本当にペケが老人の孫なら……、連れ去られた時、
赤ん坊だった手前、老人の顔を覚えてはいないだろう。愛おしそうに
ペケを見つめる老人のその瞳は本当に優しそうだった。
「うそ、うそ……、ペケはお爺ちゃんの本当の……、うそ、うそ……」
「エルナちゃん……」
エルナは驚き、目に涙を浮かべ始め少々混乱し始めた。アイシャは
そんなエルナを優しく、慰める様に側へ引き寄せた。
「おい、爺さんよ……」
「ん?シュウっ!」
「あ、兄者……」
ジャミルが後ろから聞こえて来た声に振り向くと、外に行っていた筈の
シュウがいつの間にか宿屋内に戻って来ていた。シュウはジャミルを
無視すると、ずんずんと老人の側へ近寄る。
「爺さん……、ペケがアンタの本当の孫だっつー証拠でもあんのかよ、
完全にアンタの孫だっつー事を示す証拠がよ……、もしかしたら人違い
っつー事もあんだよ……」
「シュウ……、君はまだそんな事を言っているのか!人を疑うのも
いい加減にしろっ!!」
「うるせー!簡単に人なんか信用出来るかっ!……俺達は散々あのクソ豚に
酷エ目に遭わされたんだぞ……、そうさ……、全てこの爺さんの作り話かも
知れねえじゃねえか……、余りにも都合がよすぎらあ……、もしかしたら
爺さんはあいつの手下で……、ペケを取り返しに来た可能性だってあるのさ!」
「それは無いだろう!何て事を言うんだっ!!」
「ア、 アルも……、落ち着いてよお、エルナちゃんとペケ君がびっくり
しちゃってるよお!」
「そうよ、アルが心配なのも分かるわ、だけど……」
「……うん、ダウド、アイシャ、ごめん、つい……」
「そうモン、こんな時はモンと一緒に太鼓をぽんこぽんこ叩いて
落ちくんだモン!」
「いや、……叩かないから……」
そう言いながらアルベルトはちらっと横目でジャミルの方を見た。
近頃、モンのアホ度の具合が誰かに負けず、どんどん増している
様な気がしたのである。もしかしたら、ダーマの塔でジャダーマに
あの時、落雷を食らった所為なのかも……、と、思ってもいた。
アルベルトと口論になったシュウは再び氷の目を取り戻し、老人を
キッと睨んだ。しかし、口ではシュウを怒ったアルベルトだが……、
シュウはこれまで酷い目に遭いながらも、必死で大切な妹分と弟分を
守って来た。だからこそ……、そう簡単には素直に返事が出来ないのも
充分に分かっていた……。
「あの子の左腕には……、火傷のケロイドの跡と、手術の傷跡が
残っている筈だ、母親が他界した後の事だった、あの子からうっかり
目を離してしまったメイドの不注意でね、紅茶が入っていたお湯の
容器を悪戯でテーブルから落としてしまって……、熱湯を左腕に
被った、一命は取り留めたが、それは大変な大手術だった……、
その時の手術の……、消えない生々しい跡が残っている筈なんだ……」
「あ、兄者……、そう言えば……、ペケ……」
「い、言うなっ!エルナっ!!」
エルナの言葉に、シュウは真っ青になる。やはりシュウ達は何か
知っている様だった。……もう決定的だった。……ペケが老人と
血の繋がった本当の孫である事が。ジャミル達も確認する。確かに
ペケの左腕には……、それらしき、ケロイドの跡があった。
「お、おお、やはり君は……、私の探していた……、き、奇跡だ……、
おお……、やっと逢えた……、おお、おお、大きくなって……、
こんなに……、ジョナ……」
「じ~?」
老人は漸く逢えた本当の孫を愛しさで力いっぱい抱き締める。
ペケは良く分かっていない様であったが、泣いている老人の頬に
不思議そうな顔をしながらも小さな両手でそっと触れるのだった。
「良かったわ……、ペケ君……、これで本当のご家族さんと会えたのね……」
「う、うんっ!よ、良かったねえ~……」
「本当に……、良かった……」
「モン~……」
(ふんっ、まるでクッセードラマ状態じゃん!……な、何よ、アタシ
泣いてなんかないんだからネ!……これは目から汗が流れてるだけ
なんだから!)
アイシャもダウドもアルベルトもモンも、そして、ツンデレサンディも……、
心からのこの巡り会いと奇跡を祝福してくれた。そして最後は軽い
この男である。
「おう、ペケ!お前、マジで良かったなあー!なあ!」
「なー!」
ジャミルは軽くぐしぐしと、ペケの頭を撫でた。まだ何も分からない
ペケはジャミルに合わせて笑ってみせるのだった。
「……良くねえってんだよっ!!」
「シュウ……」
「兄者……」
だが、心から素直に祝福出来ない者もいる……。老人とペケが生き別れの
本当の家族であると分かった以上、僅かな時間ではあったが、これまで兄弟、
姉弟の一緒に暮らして来たシュウとエルナとは別れなければならない。
シュウは目に涙を溜めるエルナの方をじっと見つめ、再び老人を睨むのだった……。
「兄者、ワチだってペケとさよならは寂しいよう、でも……、ペケは本当の
家族さんと一緒に幸せにならなくちゃだよ……、これまでいっぱい辛い
思いしたんだもん……、ね?ペケ、色々あったけど……、これでさよならだね、
ワチ、ペケの事……、ずっと忘れないよ……」
「ね、ね~?……や、や~……」
エルナはそっとペケを抱き締める。だが、その姿にさっきまで笑っており、
まだ何も分からない筈のペケは何かを感じ取ったのか、急にぐしぐし
泣き始めるのだった……。
「ふむ……、君達さえ良かったらだが……、儂の屋敷で一緒に
暮らさないかね?」
「え、えっ……?」
「……じ、爺さん……?」
老人はエルナを側に抱き寄せる。勿論シュウも……。老人の行動に、
ジャミル達4人も待ってましたとばかりに顔を見合わせ笑顔になる。
「これからも孫のお兄さん、お姉さんとして一緒に暮らして
欲しいのだよ、特にシュウ君、君はお兄さんとして、
本当に有り難う、心からお礼を言いたい、君が孫を
守ってくれなかったら、儂はこうしてこの子とも無事
巡り遭う事が出来なかった……、有り難う、有り難う……、
皆、皆、儂の可愛い大切な孫だよ、これからも皆で仲良く
一緒に暮らしておくれ……」
「爺さん……、お、俺みたいな……はみ出しモンが本当に……、
じょ、冗談だろ?」
「いいや、君は何一つ悪い事はしておらんじゃないか、これまで沢山辛い
思いをしたんだろうに……、もう何も心配する事はないよ、のう……」
「へ、へへ……、マジでお人好しな奴っているんだな……、バ、
バカじゃねえの……」
「兄者……、ワチ達、これからも……、ずっと、ずっと一緒に
いられるんだね……」
「ねー!」
「ああ、そうだよ、皆ずっとこれからも一緒だよ……」
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編12 カラコタ編・2 作家名:流れ者



