zoku勇者 ドラクエⅨ編12 カラコタ編・2
老人は再度子供達を側に抱き寄せ抱擁する。その瞬間、……等々、
……頑なであり、誰も溶かす事の出来なかったシュウの心の氷が
溶けたのである……。
「モン、はみ出してませんからモン!」
……どっから持って来たんだか、モンは巨大なパンツを履き、大口を
開けて威嚇する。アホがどんどこ加速するモンに、アルベルトは……、
おい、責任取れよ飼い主……、とばかりにジャミルの方を見るのだった。
して、これで漸く話も纏まり、3人も離ればなれにならず、その場にいる
誰しもが、ハッピーエンドを迎える事が出来る。そう思っていた……。
「爺さん……、あんたの気持ちは嬉しいよ、でも……、俺は一緒には
行けねえよ……」
「兄者……?」
「……」
シュウは自ら老人の抱擁から離れる。そして静かに下を向いた直後、
又前を向く。何か言いたい事がある様だった。その態度に……、
ジャミルはブチ切れになるのだった。
「おい……、お前まだ何か不満があんのか!?爺さんはこんなにも
お前らの事を気遣ってくれてんだろっ!?……ええっ!?」
「ジャミル、止めるんだっ!!」
「……落ち着いて、ジャミル!」
「そうモン、落ち着いてモンーっ!!」
「シュウ君の話も聞いてあげようよおー!」
(たく、どうしてアイツってあんなに気が短ケーんだか、……痔に
なるわヨ、って、もう手遅れかあ……)
仲間達はシュウに掴み掛かろうとするジャミルを止めようと
大騒ぎだった。折角幸せになれるチャンスをシュウは自らの手で
拒否しようとしている。お節介なジャミ公にはそれがどうしても
許せなかったんである……。
「う……、うあああーーん!!」
「兄者、どうしてなの……?もしかして、もうワチ達と一緒に
いるの嫌なの?……も、もしかして……、兄者は最初からワチ達の
事が嫌いで……、ワチ、迷惑ばっかり掛けたもんね、ご、ごめんなさ……」
エルナは泣き出したペケを慰めようとするが、自らも涙が溢れてきて
止らず、どうしていいか分からなくなる。
「……バカっ!んな事あっかよっ!!泣き虫めっ!!」
今度はシュウがエルナとペケを抱擁する。そして心を落ち着けた後、
エルナに向け、言葉を継げた。
「俺はまだまだ世の中に必要とされてる人間じゃねえ、それは
分かってんだ……、だから……、ちゃんと何処かで真面目に
働きてえんだ、後十年……、ちゃんとお前らに又逢える様な
真人間になったら……、エルナ、その時は必ずお前を迎えに行く、
……約束だ、……ペケ、お前にも会いに行くよ……」
「兄者あ……」
「爺さん、それまでエルナの事、宜しく頼むよ……」
「シュウ君……、本当にそれでいいのかね……?」
「ああ、そう決めたんだ……」
シュウは老人の瞳を真っ直ぐ見つめる。完全に氷が溶けたその目には
もう迷いがなかった。
「……分かった……、でも、何かあったらいつでも尋ねて来ておくれ、
待っておるよ……」
老人はシュウに一枚の紙を手渡す。其処には老人の住んでいる屋敷の
場所の地図と住所が記載してあった。
「ああ、でも、これを使わせて貰う時は俺が大人になってからさ、
……その時には、お前等、どんな姿になってんだろうな……、プ、
想像付かねえや……」
「な~?」
「も、もう……、兄者ってば……」
シュウはエルナとペケの方を見てケラケラ笑う。そして再び2人を
もう一度抱き締めた。
「約束……、する……、絶対……、だからそれまで爺さんの処で
ちゃんと世話になれ、エルナ、これからも姉ちゃんとしてペケを
宜しくな……」
「うん、ワチ……、待ってるよ、いい子にしてる、兄者が迎えに
来てくれるまで……」
「ああ……」
「にー、にー……」
老人は子供達のやり取りを微笑ましい目で優しくずっと見守っていた。
……ジャミル達も。
「たく、意地っ張り野郎め!もう知るかっての!」
「そう言ってる割にはアンタ、な~んか顔が嬉しそうなんですケド?」
いつの間にか……、サンディも妖精モードで姿を現していた。多分、
ジャミ公を構う為。
「うるせーガングロっ!だ、黙ってろってのっ!!」
「いーえ!黙ってらんないっての!夕べだってさあ、寝言で……、
アイシャあ~、俺、もう我慢出来ねえよう~……、とか、言っちゃって!
うっわ、イヤラシーっ!!」
ジャミ公は飛んで逃げたサンディをドタドタ追い掛け回す。
既にサンディはシュウ達にはもう姿を見せていたが、老人には
見えないので、ジャミルが一体何を追い掛けて走っているのか、
まるで?状態である。アイシャは顔真っ赤。アルベルトとダウドは
困って呆れ……、ついでにモンも大口を開け、キャンディーの
棒を持ってジャミルとサンディを追い掛け回す。最後に来て、
この連中はもう無茶苦茶に雰囲気をブチ壊していた。いつもの事だが。
そして……。
「よう、お前……、しつこい様だけど、マジで良かったのかよ?」
「何がだよ?」
シュウとジャミル達は昨夜、カラコタ近くの浜辺に老人を迎えに
訪れた船を見送ったのである。これで、シュウとエルナとペケは
数年間の間、離れ離れになる事になる。だが、シュウは後悔は
していないと言う。それが自分の選んだ道なのだと。繋いだ絆は
決して離れない。……例えどんなに遠く離れていても。
「ふん、ペケの癖に、結局はアイツが一番先に出世しちまったって事さ、
さてと、俺ももう行かなきゃな……」
「当てはあんのかよ?」
「んなモンあるもんか、ま、風の吹くまま気の向くままさ、
取りあえずはカラコタを出たら俺を雇ってくれそうな大きな
都会を探してみるつもりさ、……おっさん達も元気でな!」
「だからおっさんじゃねえってんだよっ!たく、最後まで
可愛げねえなっ!!……あばよっ!!」
「元気でね、私達ともまた何処かで逢えたらいいわね!」
「旅の無事、祈ってるよお……」
「ふん、のたれ死にすんじゃねーわヨ!」
「辛くなったら太鼓を叩いて元気出すモン!」
「……叩くかっ、アホっ!!」
「身体に……気を付けるんだよ……」
ジャミルは悪態をつきながらも、仲間達はそれぞれの言葉で去って行く
シュウを見送る。そして、最後に……、アルベルトがシュウに手を差し出す。
シュウもその手を握り返す。少し照れ、笑みを浮かべて……。
「ああ、あんたもな……、じゃあな……」
カラコタ橋。シュウはジャミル達とは反対の方向に向かって静かに歩き出す。
真っ直ぐに、新しい道へと歩き出した彼はもう後ろを振り返る事はなかった。
アルベルトは消えていくシュウの背中を見送り、橋の下に屯する集落を
見つめながら……、こう思ったのである。
(僕はやっぱりこの町が苦手だ……、好きになれない……、でも、皆
生きる為……、毎日の日々、明日への暮らしの中を必死に生きている、
盗みや賭け事を行なっていても……、それは此処、カラコタに生きる
人々の症……、仕方が無いのかも知れない、そして……、シュウの様に
本心から泥棒なんて望んでいなくても……、そうしなければ生きられ
なかった複雑な事情を抱えている者……、本当に此処には沢山の人が
寄り添って生きているんだ……)
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編12 カラコタ編・2 作家名:流れ者



