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(等々力視点)


等々力颯は、困惑していた。

自分は血の気が多い自覚がある。
ここ最近はなかなか思いきり能力を解放する機会もなく、手加減をして抑え込んでばかりだった。
特に戦闘狂というわけではないが、事前の気合が勝利への過程を経て尚、お釣りとして有り余ってしまうといった具合だ。

そのお釣りは溜め込んでいくと、冷めやらぬ興奮へと昇華されてしまう。なので街に寄った際には、様々な方法で興奮を鎮めていた。
飲みに行くこともあれば、カラオケに行くこともある。サウナに入ったり、女性の店に行くことも。

大抵の場合は百目鬼や不破あたりと共に行くことが多いが、気がつけば近頃は鳥飼と一緒に行動することが増えていた。
直接本人に訊ねたことはないが、なんとなく鳥飼はそういったことは好まないような気がして誘ったことはない。
そこで、一人で行くと口では言いつつ、別の部屋にいる百目鬼たちに声をかけようとしたのだ。


しかし。


「っふ……、」


ベッドに仰向けに寝そべり、覆い被さってきた鳥飼に頭を抱え込まれた状態で、等々力はひたすら硬直していた。

首筋に寄せられた鳥飼の息遣いは、熱く湿っている。甘く響くこれが、どういった行為の際に発せられるものなのかくらいわかる。

つまり、鳥飼はどういうわけか、俺の上に乗って自慰をしているのだ。
彼の手元は見えない。というか、おそらく見えないように配慮している。しかしそれがまた色々な想像を掻き立てて、澱のように溜まった腹の底の熱をじくじくと呼び起こしてくる。


「ん……、くっ」

「…う、羽李」

「わり、…もうちょい、だからっ」


ごくり、と無意識に喉が鳴った。
こんな鳥飼の姿は、知らない。
日頃からたまに色っぽく見えるときもあるが、これはまずい。


「はぁ、……っ、颯…」

「ッ、」


俺の名を、縋り付くように、欲しがるように呼んでくる。
首筋に熱っぽい吐息を溢しながら。
どんな表情をしているのだろう。猛禽類のような鋭い眼孔は、いつも達観したように少し伏し目がちで。左側を掻き上げた髪型は整っている。

じゃあ今は?
細いあの眉を潜めながら、切なそうに顔を歪ませて髪を乱しているのだろうか。


等々力は、渇いた唇を一度舐めた。
全身の血液が、痺れを伴って腹に集約していく。

少しすると、こちらの頭を引き寄せる力が強くなり、鳥飼は息を詰めて軽く丸めた背をびくりと跳ねさせた。
乱れた呼吸を整えると緩慢に起き上がり、手元を隠すようにしながらベッドから降りて、ベッドサイドに設置されていたボックスティッシュに手を伸ばす。


「…悪い」

「いや…、」

等々力は身体を起こしてベッドに腰掛けるなり、鳥飼に背を向けながら必死に言葉を探した。
既に息子は兆しており、本当はすぐにでも部屋を飛び出してどこかで処理をしたい。しかし今鳥飼を一人にするというのは、彼を忌避して逃げ出したと勘違いさせて傷付けてしまう気がして。

迷っても仕方ない。
そう割り切って、等々力は背を向けたまま顔を上げた。

「すまない羽李、俺も勃った。ちょっと席を外す……ッ?」


立ち上がろうとしたとき、いつの間にか背後に陣取るように座った鳥飼に腰を掴まれ、強引に引き戻されて座り直した。
そのまま躊躇なくベルトを外しにかかる相手の手を堪らず抑え込む。


「ま、待て羽李っ、何を…」

「俺だけしてお前に我慢させるわけねぇだろ」

「だからってここでか!?」

「ダメか?」

「っそれ以前に!……み、見たくないだろ普通…男がしてるところなんて」

「俺したけど」

「お前は良いんだ!」

「なんで」

「なん……う、羽李だからっ……」


我ながらなんだか支離滅裂なことを口走っている気がする。いや、でも羽李の主張もおかしくないか?
思考回路が正常に機能していない。ばくばくと心臓は激しく脈打ち、その度に脳と身体が乖離していく。


「俺だから?他の男の自慰なら気持ち悪いけど、俺だから大丈夫ってことかよ」

「え…と、」

「そんで、ここをこんなにしてんのか?」


己の言動を顧みているあいだに疎かになった手元は、あっさりと鳥飼に掻い潜られてベルトは外され、スラックスも寛がされて下着の上から押し上げている雄を優しく撫でられた。

後ろから耳元に顔を寄せられ、低く少し掠れた声で囁かれる。


「…いやらしいな、颯」

「っ!」

ぶわりと首が熱を持ち、顔面が熱くなっていくのがわかる。

つつ、と雄を撫でる指先が、下着越しに先端から根元を行き来する。ぞくぞくと鳥肌が立ち、はっと我に返って鳥飼の手首を引っ掴んだ。

「やめろ!い、嫌じゃないのか!こんなっ…」

「全然?俺、お前のこと好きだもん。」

あっさりと。至極当然と言わんばかりにそんなことを言ってのけるものだから。
またもや、思考が停止する。

「あ、やべ。今のなし!」


鳥飼も鳥飼で、言うつもりがないことを口にしてしまったのか慌てて前言撤回を申し出てくるが、それは通らないというものだろう。


作品名:スタートライン 作家名:緋鴉