臆病者
粘膜が引き攣れる感覚をやり過ごそうと息を吐くと、鳥飼が気遣わしげな声をかけてきて。
恐らく、少しでも痛みを感じさせないように少しずつ指を入れてくれてはいるのだろう。
浅い部分を遠慮がちに往復する指の動きは非常にゆっくりだ。坐薬でももっと奥までいく。
「はあっ……羽李、…もう少し、挿れてみてくれ…」
「だ、大丈夫なのか…?」
これが正解なのかはわからない。確実に痛みは増すだろう。
それでも、不安そうな鳥飼をどうにかしてやりたくて。
「無論だ…、そんなに、柔じゃない」
「っ…、じゃあ、奥まで挿れるぞ。ヤバかったらすぐ言ってくれ」
どちらかというと鳥飼のほうが覚悟をするような調子で、中指を後腔へと沈めていく。
ヤバかったら言えと言われたが、声を出す余裕もない激痛だった。
戦闘による怪我で、痛みとは日常的な付き合いだ。
やり過ごし方は心得ているし、痛覚を捻じ伏せることもできる。
しかし、こういった内臓を圧迫される痛みというのは経験がない。
身体の芯に向かってくる異物への恐怖もあり、視界が弾けるようだ。
「颯…?」
「…うご、かせ…」
シーツに突っ伏して、声を絞り出す。
鳥飼の指が大きく動き出し、粘膜が引っ張られる。
どれほどの間そうしていただろう。
慣れたというより、麻痺したという方が正しいかもしれない。
抜き差しされる指が引っ掛からなくなった頃。
なんの気なしに鳥飼がくるりと手のひらを下向きに返した途端、意味がわからないほどの快感が突然脳天に突き抜けた。
「ひっ、あ…!?」
「!?」
鳥飼も驚いたようで、二人揃ってぽかんとすること数秒。
恐る恐る、鳥飼が指を曲げて、一点をぐっと押し込んだ。
「うあっ、ぁ、待っ…」
「気持ち良いのか…?」
びくんびくんと、意図せず腰が跳ねる。
刺激される度に全身に電気が走って、下腹部が強烈に疼いた。
背後で、鳥飼がごくりと生唾を飲み下す音がして。
薬指も入り込み、二本の指でその一点を引っ掻いてくる。
「やめ、そっ…そこっ、」
「颯……見つけた。…ここ、覚えるから…」
「ぁあ!や、やだっ、羽李ぃっ…!」
「……堪んねえな」
腰が勝手に暴れる。
背中が丸まって、膝が身体を支えていられずに蹲ってしまう。
強く砂を掻くように弱いところをほじくられ、がくがくと全身が震えた。
「こわ、ぃっ…、ああぅっ!…そこっ、変にっ…なる…!」
押し寄せる、感じたことのない激しい快感。
頭がおかしくなるんじゃないかと思うほどの悦楽に襲われ、恐怖に見舞われた。
縋るように名を呼ぶと、指がずるりと引き抜かれていく。
あれほど不快感でいっぱいだったのに、胎内が空っぽになると不安が込み上げてきて。
腹の内側が、尻が、ひくつくのがわかる。
「…颯、挿れるぞ。腰、上げられるか?」
へたり込んでいた尻を持ち上げられ、どうにか膝を立てなおす。
言われたことの内容が、なんだか頭に入ってこない。ただ、優しい鳥飼の声が不安に埋め尽くされた胸に染み渡るようだった。
ひたり、と後腔に熱いものが触れる。
指ではない。
……これは、まさか。
ようやく思考回路が働きだしたとき、鳥飼の逸物が、ひだを押し除けて胎内に入ってきた。
「ぐっ…ぅ…」
声が出ないどころではない。
呼吸が、できない。
指とは比べものにならない質量。
先走りのおかげか、粘膜が攣れる痛みはない。
しかしそれだけだ。圧倒的な圧迫感に、臓器が潰される。
「息、とめるなっ…、力抜け…っ」
鳥飼の苦しそうな声に、はっとした。
気付けば背を優しくさすられていて。
ツラいのはお互い様だと思い知る。
等々力は意識して、詰めていた息を吐いて、必死に吸う。
力を抜くことは出来そうになかったが、鳥飼が腰を前後に揺すると多少緊張が分散されたような気がした。
できるだけ深い呼吸を繰り返して、鳥飼に負担がかからないように、それだけを考える中抽挿は続けられる。
徐々に大きくなる動きに、ひたすら体勢を崩さないよう、力まないよう、食らいついた。
しかしそんな時間も終わりを告げる。
次第に深いところへと突き込んでくる逸物が奥の壁のようなところに触れると、弱々しいながらも快感が生まれるようになり、もどかしさを覚えた。
突かれて身体が揺れる度に漏れる声に、艶が混じってきたことに鳥飼も気がついたのだろう。
こちらの背中に触れながら、控えめに訊ねてきた。
「もうちょい、強くしても良い…?」
「ッ、ああ、だいぶ…、慣れてきた…」
「オッケィ…」
鳥飼の逸物が浅いところまで抜かれていく。
いつまでも拭えない不安に、不透明な期待が入り混じる。
一拍置いてから、ひと息に楔が奥へと穿たれた。肌と肌がぶつかり合う音がして、胎内の壁が衝撃にひずむ。
着実に壁まで到達させてからまた入り口付近まで引き抜き、穿たれる。
何度目かの抽挿で再び快感を拾うようになったが、その振り幅は形容し難いほど大きかった。
快楽の津波が腹の中にぶつけられて、切なさにきゅう、と萎んでいく。
突き込まれると身体全体が押し出されるようだ。
ベッドのスプリングが同時に軋んで、鳥飼と肌を合わせているという事実をまざまざと思い知る。
その羞恥が、波状に押し寄せてくる快楽により崩れかけていた理性をかろうじて繋ぎ止めていた。
「んっ、く…、ぅ…!」
「ッ、すげ…気持ちいい…」
恍惚とした鳥飼の声に、また腹の中が切なく萎む。
触れてもいない雄からは既に先走りが滴っていて、糸を引きながらシーツにしみを作っていた。
が、この激しい衝撃の中、片肘を抜けば間違いなく支えきれずに潰れてしまう。本当は思いきり扱きたかったが、なんの刺激も与えられずに生殺し状態だ。
そのとき、まさか思いが通じたわけでもないだろうが、鳥飼がこちらの肩を掴んで仰向けにさせた。
彼の逸物が胎内をなぞり上げて旋回する感覚に、ぶるりと鳥肌が立つ。
「な、何…」
「わり、顔…見たくて、」
前触れなく身体の向きを変えられたことに戸惑う等々力に、鳥飼が申し訳なさそうに笑ってみせるが、不意にその視線が放置されていた雄に向けられて。
「…なに、こんなに感じてくれてたの?」
引かれるかとも一瞬思ったが、鳥飼の反応は全くの逆。
愛おしそうにそう呟くと、そっと竿を握り込んできた。
包み込まれるだけで、雄は打ち震えて喜び、射精感を底上げしてくる。
「あ、はっ…」
「…なあ、さっき颯がやだって言ったの、……どこだっけ」
くちゅくちゅと水音を立てて扱きながら、鳥飼が逸物を引いて角度を調整する。
「…ん、ぅ、ぁ、…羽李、イきそ…」
鳥飼が慎重に胎内の腹側を突いてくるが、そんなものは必要ないくらい十分気持ちが良い。
このまま快感を追いかけて果ててしまおうかと等々力が思ったとき。
指で探り当てられたあの一点に、太く、固い逸物が、ごりゅ、と押し込まれた。途端に、腰が浮く。
「うあっ!」
「……あった」
見つけるや否や、鳥飼はその角度を維持して抽挿を開始した。



