臆病者
雄も同じ速度で擦り上げられ、排泄感にも似た危険な快楽が腹の中を襲う。
「ぁあうっ、イ、イきそっ、待っ…」
「…いいよ、颯…イくとこ、見せて?」
「ダメ、だっ……もう…ッ!」
限界に達した等々力は、内腿にぎゅっと力を入れると追い上げられるがままに鳥飼の手に白濁を吐き出した。
びくびくと雄を痙攣させ、全身の力が抜けていく。
荒々しく胸を上下させて乱れた呼吸を整えていると、余韻が残る中再び抽挿が再開されて、さすがに慌てる。
「待てっ…いま…、イったばかりっ…」
「悪い…、でもお前…中の締め付け、良すぎて無理…」
究極の試練を乗り越えたとばかりに、目をギンギンに血走らせてそう言う相手を見てしまうと、何も言えなかった。
そして鳥飼は、またもや弱いところを責め立ててくる。
一度達して弛緩したためか、やや広がったような気がする胎内だが、おかしいほど気持ちが良いという点は変わらなかった。
「っ、お前ッ…そこはっ…、ぁ、やっ」
「好きだろ、っここ…」
「ダメ、だって…!また、イっ…」
「もっと、…もっと、俺で、気持ち良くなれよ」
鳥飼の腰遣いが、強くなっていく。
とんとんと当てられていた楔が、ごつごつとぶつけられると脳髄が痺れるほどの強烈な愉悦が神経を支配する。
「んあぁっ、やっ……おか、しくっ…なっ…」
「…もっと、乱れて、…っ泣いて、おかしく、なれよ…っ」
背中が反り返り、シーツを握り締める。
腹がびくついて、達したばかりの雄からはしとどに白濁混じりの透明な液が溢れ出る。意識が飛びそうだ。
更に、散々突かれた弱い一点に鳥飼は逸物を思いきり押し付け、その場で抉るように円を描いた。
処理しきれない強すぎる刺激に、視界が暗転しかける。
「ひっ…やだっ、ぁあ!ッ、羽李っ…待…ッ!」
「っ…、颯…!」
いやいやと頭を左右に振るが、そんなもので鳥飼が止まるはずもない。
気がつけば涙が眦を伝って、耳の上を流れていった。
腹が内側からすり潰されるのではと思うほど抉られ、再びいきり勃った雄を容赦なく扱かれる。
「も、もうイくっ…、イく、からっ、ぁ、…やめっ、」
「やば…、」
胎内を逸物がずるりと移動し、最奥を激しく断続的に突く動きに変わる。
「ひ、ぁ、んんっ…!」
とうに臨界点を迎えていた雄は、鈴口にぐり、と指先が突き立てられると二度目の精を放ち、等々力は意識を手放した。
小さな痙攣を繰り返すその胎内を何度か穿った鳥飼も、自身を引き抜くと後を追うように等々力の太腿に吐精したのだった。
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……や、やってしまった。
シャツを乱され、ベッド上に仰向けに寝そべったままくたっとした等々力を見下ろして、鳥飼は自らの行為に激しい自責の念を覚えていた。
片方の足首に脱げかけた下着を引っ掛けたまま、脱力した膝を大きく開いて、白い腹部には等々力本人の、大腿部には鳥飼の精が、それぞれ付着している。
やめろ。嫌だ。待て。
そんな拒絶や制止の言葉を、何度こちらにぶつけていただろう。
後ろを使うなんて初めてで、心も身体も処女同然だったはず。抱いていたであろう不安を考えると、果てしなく自己嫌悪に陥る。
俺が気遣ってやれなくてどうする。
…いやしかし、控えめにいって最高だった。
肌は滑らかで筋肉は程良くつき、均整のとれた四肢は最早芸術といっても良い。
あの冷静で表裏のない等々力颯が、余裕のない切羽詰まった声で、泣きそうになりながら嫌だ怖いと縋りついてきたのだ。
思い返すだけで興奮がぶり返してくる。
…そういえば、最後は泣いていたか。余程怖かったのだろうか。…嫌、だったのだろうか。
ベッドを揺らさないようにそっと滑り降り、洗面所に向かう。
ホテルのタオルをぬるま湯で締めてから戻り、ティッシュで丁寧に等々力の肌を拭ってから仕上げとして清めていく。
とんでもない無体を強いてしまった。
酔っていたなんて言い訳は、出来ない。指を舐めたとかいうくだりは完全に夢現状態だったが、その後の行為は意識だってしっかりしていた。すべて、衝動に抗えなかった自分の責任なのだから。
「…ごめんな」
罪悪感に、心臓が嫌な音を立てる。
慣れない手つきでもたもたと服を着せてやり、時間をかけながらもベッドに寝かせなおした。
額にかかっていた金糸の前髪を、さらりと指先でどかす。
すうすうと規則的に穏やかな寝息を立てていることに、心底安堵すると同時に、端整な顔立ちに見惚れてしまう。
等々力はこちらの寝顔が可愛いなどと口にしていたが、間違いなくこの寝顔こそ可愛いのハイエンドだ。
ほとんど睡眠をとらない等々力の寝顔は、非常に貴重だ。子供の頃はよく目にすることもあったが、鬼國隊を立ち上げてからは本当に眠らなくなったと思う。
…ああ、可愛い。
一生横に張り付いて眺めていたい。
隣に寝転がり、頬杖を突いてまじまじと見つめる。
この男を抱いたのだと思うと、えも言われぬ高揚感が込み上げてくる。
男の性として、「やったぜ!とうとう颯を手篭めにしちまった!最高すぎるだろ!」という心の声と、「泣くほど嫌がってたってのに…俺は信じられない最低なカス野郎だ…。腹切って詫びるしかねぇ」という理性に苛まれる心の声がせめぎ合う。
頭の中では幾度となく等々力のことは抱いてきた。
しかしそんなものを遥かに凌駕するエロさ。可愛さ。理の外側といっても過言ではない。
頬杖をずらしてうつ伏せになり、ぼすん、と枕に顔を埋める。
最終的に行き着いた本音が、ぽつりと口から溢れた。
「……ごめん。こんなに好きになって」
自分でも度の超えた溺愛っぷりだと思う。
ずっと拗らせてきた積年の愛は、酷い形でぶちまけることとなってしまった。
相手を慮ることもできず、自らの快感だけを優先させていた。
深々と後悔にまみれた溜め息を落とす。
…時間を巻き戻して、やり直したい。
繋がって果てるときは、絶対キスしたままって決めていたのに。
何よりも大切にしたかった人を、傷つけてしまった。
こいつが起きたら、なんて言えば良いだろう。
そんなことをぐるぐると考えていた矢先、隣から場違いなほど明瞭な声が飛んできた。
「何故謝る」
「はっ!?…えっ、おま、起きて…?」
びくりと跳ね起きて、反射的に正座をする。
こちらを見上げてくる青灰色の瞳と目が合った瞬間、風切り音がする勢いで土下座をした。
「悪かった!!」
「……」
「お前の意思も何もなく酷いことしちまった…!気ぃ失うまでヤるとか最低だ…。あんなに…嫌がってたのに…」
「……羽李、」
「許してくれとは言わねぇ、頼むから好きなだけ殴ってくれ…!」
畳み掛けるように謝罪を述べると、等々力が大儀そうに身体を起こす気配がして、慌てて顔を上げて背を支えてやる。
直後、額にデコピンを食らった。
「あいたっ」
予備動作のない一撃に、思わず頭がそり返る。
こちらの反応に等々力はあっけらかんとして短く言った。
「仕返しだ」
「え……いや、もっとボコボコにしろよ!」
どう考えても割に合わないと鳥飼が食い下がるが、等々力は小さく笑う。



