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高山 南寿
高山 南寿
novelistID. 71100
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もうひとつの、ぼくは明日……

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「二つの世界を行き来できるのは五年に一度、次元のトンネルが安定して作れる三十日間だけなんだ。それでも時間解離(かいり)修正のため二十四時間ごとに一旦帰らないといけない。僕は、今、愛美と同じ世界に居て、こっちの時間の進み方になってる。だけど一旦帰って、次に来ると、君の世界では一日戻ることになる。一日ずつ違う方向に進むことになる」
「そうなん。そう言えば、一昨日絆創膏つけてた指と、昨日ケガして絆創膏つけた指が同じやった」
「それは知らなかった。僕からすれば明日、指にケガをするんだね。そして絆創膏を貼る。さらに次の日、君からしたら一昨日、絆創膏をそのままにしていて君に見つかる。そしてきっとごまかす。今日の僕には傷痕はない。まだケガしてないから」
高寿はどの指かわかってないから両手を見せた。
「なんか騙されてるみたい。やっぱり信じたくないわ」
高寿はスマホにある写真を見せた。
ひらかたパーク、京都青少年科学館の蝶、京都の水族館、色んなところで二人で写ってる。
「えー、こんな写真撮った覚えないわ。まだ行ってないとこやね。これから行く所の写真やねんね。言うてることはほんまや言うこと?」
愛美は真剣な眼差しで高寿を見た。
「本当なんだ」
「さっき三十日間って言うてたけど、こっちの世界に居れんのは?」
「後二週間」
高寿は寂しそうな表情だ。
「もうそんだけなん。そんなのいやや。……、その後は」
愛美は聞くのが辛くなってきた。
「五年後になるんだ。君は二十五歳、僕は十五歳なんだ」
「そうかそうなんや。歳十才もはなれているんや」
「五年後に会うとき、君が僕たちの出来事を話してくれて、詳しいことはルーズリーフにした物をくれたんだ。だから、二十歳同士の今、君と僕は恋人として付き合えたんだよ」
「じゃあ……じゃあ、高寿は、私が書いたっていうそのルーズリーフの通りに、まるでシナリオでもなぞるみたいに、私と……」
言葉が続かなかった。これまでのときめきや喜びが、全て仕組まれたものだったとしたら? 胸が冷たくなるような感覚に襲われた。
「演技、やったの……?」声が震える。
「それは違うよ、演技じゃない。好きだってことを演技したりしてないよ。僕は五歳のときから君のことが大好きだったんだ。好きだからこっちに来て付き合った。好きだから恋人になったんだ」
高寿の眼差しは真剣だった。
「このルーズリーフのことは、今まであったことを思い出しながら私が書いたんやね」
愛美はローテーブルの上のルーズリーフを見た。
「詳しく書いてくれたから、だから違和感なかったよね。僕たちはお互いそれぞれの時間をたどった記憶しかない。でもちゃんと書いててくれたから君のこれまでの気持ちもわかる気がする」
高寿は愛美を真っすぐ見ている。
高寿の真実を伝えたいという思いが見える。
「なんとなく話はわかった。けど、どうしたらええのって感じ」
愛美はうつむいた。
「受け入れられないことはわかる。僕も理性では最初から理解しているつもりだけど、気持ちでは全部はわからない。この状況を受け入れたくない」
「もう考えても限界。遊園地でジェットコースター乗ろう! こういうときはスカッとしよう」
愛美はすくっと立った。
「それがいいかも」
高寿は愛美を見上げてから、ゆっくり立ち上がった。
「あー、これもルーズリーフに書いてあるんや。なんか感じわるぅ」
「書いてあるとおりでも楽しいことに違いはないよ」
高寿は自分の気持ちを伝えようとしているようだ。

二人で遊園地に出かけた。
枚方公園駅でおりて枚方パークまで歩くとき、手をつないだ。
愛美は思った。
ずっと一緒にいたい。やっぱりこの人と一生一緒にいたい。なのにそれは叶わないんだ。手がこんなに暖かい。
失いたくないと思って、高寿にしがみつくように腕を組んだ。高寿は笑顔でこちらを見た。高寿の温もりが腕にも胸にも伝わった。

遊園地でいくつかジェットコースターに乗った。
二人は大きな声で叫んだ。
愛美は少し気持ちが晴れた気がした。
メリーゴーランドの出口で係員に声をかけられた。
「おまえらメリーゴーランド今日二回目じゃない?」
二人は係員を一瞥したが、無視してそのまま歩いた。
「えーっ無視? 林だよ林……。おーい、みなみや……。なんだよ、シカトかよ」
林は毒づいた。
二人はちょっとだけ駆けた。
「なんか声かけられてたやん」
愛美は笑顔で高寿を見上げる。
「ここには知り合いいないよ。ちょっと怖いというか迷惑。君の知り合いじゃない?」
「あんな馴れ馴れしい人いいひん」
「声をかけられたこと、何か意味があるのかわからない。けれど、あの馴れ馴れしい人をバックに一応写真撮っておこう」
高寿はメリーゴーランドをバックに二人で自撮りした。
そして観覧車に乗りに行った。
ゴンドラに入って、愛美は高寿の横に座って景色を見たが、すぐに肩に持たれた。
ゴンドラが一番高くなったとき、二人見つめ合って、キスをした。
ゴンドラが下に着くまで、愛美は高寿の肩に体を預けた。
「色々考えたら、お腹すいた!」
ゴンドラを降りた愛美はハイテンションだった。

二人は帰りに枚方の駅前の居酒屋に行った。
お酒や料理をいっぱい頼んだ。
愛美の飲むペースが早い。
「愛美、飲むの早過ぎ」
「今日はからんだる」
愛美はハイボールのグラスをもったままだ。
「愛美、そんなにお酒のんじゃ駄目だよ。もうおっさんとおるみたい」
高寿はちょっとまずいこといったように、目が泳いだ。
「おっさんやない。やっさんと呼んで」
「やっさんってなに、怖いな」
「おっさんの代表がやっさんやねん」
愛美はちょっと酔ったふりをしている。
「なんかわざと明るい」
「悲しいときはおちゃらけるの、ちょっとアホなの」
「無理しないでいい、悲しいときは悲しんでいいよ」
高寿の声はやさしい。
「そやかて……っ」
愛美の声が嗚咽に変わる。
「信じられへんくらい……悲しい!」
堰を切った涙は、止まらなかった。二人の楽しいはずの時間が、もうここにはなかった。
「ごめんね」
高寿の肩が、わずかに震えていた。
「高寿のせいやけど、高寿のせいやない。高寿が好きやから泣くんやけど、別れるのは高寿が悪いんやない。今日はもう帰る」
愛美は自分が抑えられなかった。
「家まで送るよ」
「自分で帰れる」
「放っておけないよ」

愛美はマンションの玄関ホールの入口まで高寿に送ってもらった。
「大丈夫か?いや大丈夫なわけないか」
高寿は愛美の肩に優しく触れた。
「うううん、大丈夫じゃないけど大丈夫」
「ごめんね、どうすることもできなくて」
「ええよ、高寿のせいやないし」
愛美は涙をぬぐった。そして、続けた。
「友紀ちゃんに見られたらいややから、もう入るわ」
「わかった。また、明日。でいいよね?」
「うん、また明日」
愛美はうつむき加減で返事した。
でも、顔を上げて、高寿をしっかり見て、黙ってうなずいた。
手を胸の辺りで軽く左右に振って玄関ホールに入った。
入ったところで、もう一度振り返って手を振った。
高寿も軽く手を振った。

「ただいま」
愛美が玄関から友紀に声をかける。
「お帰り。今日もデートやったん? ええなぁ」