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高山 南寿
高山 南寿
novelistID. 71100
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もうひとつの、ぼくは明日……

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友紀がリビングのソファーから覗き込んで愛美を見る。そして気づく。
「え、元気ない?」
「ちゃうねん、ちょっと飲みすぎてん」
愛美はリビングまできた。
「え、大事な従妹になにしてんの南山くんは。送ってくれたん?」
友紀が問いただすように聞いた。
「うん、マンションの下まで送ってもらった」
愛美はリビングで立ったまま話した。
「部屋まで来てもらったら良かったのに。旅行の土産もあったし、顔見せてくれたら良かったのに」
「え、怒るんちゃうの?」
「ちょっと、イケメン拝もうと思って」
「私の彼です。減るからいや」
「減らんやろ。今度連れてきてや」
友紀はお菓子を口に入れた。
「はいはい、わかりました。今日は、はよう寝る」
「え、お土産……食べへん?」
友紀はテーブルの上の土産に手を伸ばした。
「うーん、いらなーい」
愛美は頑張って明るく振る舞った。
愛美は自分の部屋に入る。
着替えもせず、ベッドに倒れこんだ。
友紀ちゃんには何も話せない。
誰も信じてもらえるわけがない。


十九日目

愛美は昨日のことを引きずっていた。でも気晴らしに、前に高寿と話したことのある六甲ガーデンテラスに行くことにした。また寝屋川市駅のロータリーで待ち合わせをした。
「やぁ」と高寿が車に乗って来る。
「おはよう」
愛美は笑顔で返事して、高寿の表情をなぞる。
やっぱし、顔を見るとうれしい。
二人は前と変わらぬように話をした。
愛美はわかった。
目の前にいる高寿は、私と出会ってまだ十日あまり。
あの衝撃的な告白は、彼にとっては〝明日〟にする事なんや。
一方の私は、もう十九日分の思い出と、そして残酷な真実を突き付けられた後。
……そうだ、私さえいつも通りに振る舞えば、昨日までと同じように笑い合えるはず。私たちの間に横たわる、繋ぎ合わせない時間のズレ。
共有できない記憶の重みに胸が潰されそうになるけれど、彼は残酷な真実を最初から知っている。
知っていてここに来た。
知ってるのに、あのルーズリーフを頼りに、一生懸命私との時間を紡ごうとしてくれている。
だとしたら、私も。
ううん、私こそ、頑張らなあかん。

六甲山上の駐車場に車を停めて、展望台の六甲枝垂れまで歩いた。少し寒いけれど、景色はすごく良かった。二人は展望台に上って、目の前に広がる神戸の市街地や海を眺めた。

「寒いけど景色がとってもいいね、来て良かったね」
高寿は愛美の表情を探るように見ている。
「うん! 景色、ほんまに最高やね! それに、ここ寒いやん? やから、こうやって……くっ付けるし!」
おどけるように言って高寿の腕に自分の腕を絡ませる。
無理やり作った笑顔の下で、心がチクリと痛んだ。

夕食に神戸の中華街に行った。
石畳は、通り雨に濡れてきらめいていた。
高寿と並んで歩く中華街。
提灯の明かりが水たまりに揺れて、まるで私たちの心みたいと思った。
点心がおいしそうな店に入った。
店員に小籠包の中が熱いよと言われていたのに、噴き出した汁に、二人とも火傷しそうになった。
「こんなに熱い? 気のつけようない」
二人は盛り上がった。
駐車場に戻るまで、神戸の夜風が、私たちの間を吹き抜けていく。
別れを惜しむような、冷たい風だった。

寝屋川市駅のロータリーに着いた。
「また、明日」
愛美は高寿に笑顔で言った。
「また、明日」
高寿も今や合言葉となった挨拶をして別れた。
愛美はつとめて普通にしたから、少しは前向きに楽しめた。けれど、一人になって車で帰る途中、疲れた気がした。
愛美は友紀のマンションに帰って来た。
「ただいま」
愛美の声はあまり元気がなかった。
友紀はローテーブルの脇、カーペットの上にあぐらをかいてる。
愛美は三人掛のソファーにどかっと座った。
「疲れた? それとも喧嘩でもした?」
友紀が愛美を見てくる。
「ちょっと疲れたかも」
愛美は額に手を当てた。
「そうなんや、どこまで行ったん?」
「六甲山、ちょっとさぶかった。景色はよかったで」
「二人は順調なん」
友紀は最近の愛美の様子にに疑問を持っていたのかもしれない。
「そら順調や、そやないと毎日のように会わへん」
「はいはい、ごちそうさま。聞かんといたら良かった」
友紀は真顔な感じから笑顔に変わった。
「ごめん、ホンマのこと言うと、ちょっと気持ちですれ違ってる気がする」
愛美は少し友紀に話したくなった。
「えっ、そうなん。どうしたん?」
友紀が三人掛けソファーに這い上がった。
「……うん。なんかね、私の気持ちだけが先走ってるみたいで、すごく重たいんちゃうかなって。彼との間に、壁があって分かり合えないような……そんな気がして、すごく寂しくなんね」
普段は弱音を吐かない愛美の珍しい言葉に、友紀は真剣な表情で耳を傾けた。
「そうか。でもまだ付き合ってそんなにたたへんねから、そう簡単にしっくりはこーへんで普通」
「そうやな、わざと気持ちのことは口にしてへん」
「いっぺんその気持ち話してみたら、黙ってたらもっと悪い方向に行くで」
友紀はいつもの柔らかい笑顔で愛美を見守っていた。
「うん、そうしてみる。ありがとう友紀ちゃん」
愛美も少し笑顔を取り戻した。

二十日目

愛美は高寿と四条河原町の映画館に行った。
夕方から始まる特別上映の『魔女の宅急便』を観た。
愛美は気付いた。
ジブリの映画、一緒に見たのは私だったんだね。あの時、高寿は焦ってたな。私と行ったとは言えないもんな。
新京極をぶらついて、そして小奇麗な和食の店で鯛茶漬けを食べた。そして映画の話をした。
「映画おもろかったな、あんな展開になると思わんかった」
愛美はあの映画は初めてだった。
「そうだね、盛り上がったね」
「盛り上がった!」
そう言った後、愛美は少し表情を曇らせた。
「ほんまは…こんなのんびり映画なんか見てる場合ちゃうんかなって、心のどこかで思ってた。だって、私たちにはもう時間があまりないから。でも…でも、こうして一緒に笑って映画を見れたこと、今は素直に嬉しい。……ううん、やっぱり、ごめん。なんか上手く言えへん」
愛美の眼は潤んでる。
「ごめんね、ちゃんと話聞くよ、話して僕に」
高寿は優しく聞いた。
「私、思ってること言うわ……。高寿が違う世界から来たこと、時間の流れが逆の世界から来たこと聞いてから、モヤモヤしてんね」
「うん」
高寿はうなずいた
「うん。……あのね、高寿が違う世界から来たこと、時間の流れが逆の世界から来たって聞いてから、ずっと胸に靄がかかったみたいやってん。だって、今、目の前にいる高寿は、私が二十日間で積み重ねてきた思い出を、まだ〝体験〟してないんやろ? 私がドキドキしたり、不安になったり、嬉しかったりした瞬間を、同じようには共有できてないんやと思ったら……すごく、寂しい」
愛美は思いをぶつけるように高寿を見つめている。