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高山 南寿
高山 南寿
novelistID. 71100
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もうひとつの、ぼくは明日……

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「うん、そうだね。今の僕には、愛美がこれまでに感じてきたことを、同じ熱量で感じることはできないかもしれない。でも、君が大切に書き記してくれたルーズリーフがある。それを道しるべに、僕はこれから一つひとつ、君と同じ景色を見て、同じ感情を経験していく。そして、それぞれの旅の終わりには、僕たちの心は完全に重なり合い、すべての記憶と想いを共有することになるんだ。僕は、そう信じてる」
「……そうやね」
愛美は力なく返事した。
「ごめん。説得力ないよね」
高寿は首を傾げて、愛美を覗き込んでる。
「なんとなく理解はできるんやけど」
愛美は口を濁した。――共有するのが終わってからなんて、いやや。

二人は店を出てぶらぶらして、鴨川の畔に腰をかけた。
風が頬をさすが、多くのカップルが腰掛けていた。
高寿が愛美の憂いの横顔に声をかけた。
「僕は愛美のこと愛してるよ。今の時点では、君のほうが付き合ってる期間長いけど。僕は二十歳でめぐり会う前から愛美のこと、大好きだった」
「めぐり会う前から?」
「僕が十五歳でこっちの世界に遊びに来たとき、二十五歳の君に声をかけられたんだよ。前にも言ったけど。僕からしたら二十五歳の君はとっても大人の女の人で、ドキドキした。ルーズリーフの内容読んで、もう恋の予感って感じだった」
高寿は、熱い眼差しを愛美に向けている。
「十五歳の君には刺激的すぎやな」
「書いてあるのはプラトニックな恋愛だったよ」
「そ、そーなんや」
愛美はぽっと頬を赤くした。
――プラトニックなことしか書かへんかったんや。
「僕がこっちの世界に来た日――それは君にとっては僕と過ごす最後の日だった。僕は、あの時の君に、何一つしてあげられなかった」
そう言うと高寿は少しうつむいた。
「……私のこと、抱きしめて、くれた?」
愛美はそっと尋ねた。
「……うん」
高寿は顔を上げ、愛美を見た。
「初対面で抱きしめたの?」
「初対面じゃないし、五歳のときも十五歳のときも逢ってるし、抱きついてきたの君からだし」
高寿は少し焦ってる。
「えー、そうやったん! いいよ、許す」
愛美は少し元気になった。
「ありがとう。いや、なんかへんな感じ」
「ごめん。からかった」
愛美は少し笑顔を見せた。
高寿も安心したように、少し笑顔を見せた。
「僕には結構大変なスタートだった。最後の日の君の思いが伝わったから、僕の最後の日は、自分の気持ち抑えられるか不安になった。だから先に一緒にお別れしておこうと思った」
「そうか……そうやね。高寿は、私が知らない“最後の日”をもう知ってるんやね。高寿の時間の流れでは、もう別れたんだよね。そして、高寿が最後のときは、私が出会いで盛り上がってるのに、一人で別れを告げるんや」
愛美は、あの日手を振っていた高寿を思い出した。
愛美の肩が少し震えている。
「うん……、そうだね」
高寿は軽いため息をついた。
「私より高寿のほうがつらすぎるやん。ごめん。自分のことばかり考えて、目の前の高寿のこと気づけなかった」
愛美は暗い川面を見ている。
「大丈夫だよ。……君との想い出しっかり胸に刻み込んで帰るから」
高寿は愛美の横顔をしっかり見た。
「ごめん。……本当にごめんなさい」
愛美は高寿に視線を移した。その瞳は涙で滲んでいた。
「大丈夫、愛美は昨日までは焦ってたんだよね。今日から、これからのことを少しずつ受け止めてくれるんだよ」
高寿は愛美をやさしく見つめている
「これからの私はどうだった」
「ときどき泣くけど。とても健気に振る舞ってて素敵だった。いっぱい笑顔を見せてくれた」
高寿は愛美の頬をつたう涙を指でぬぐった。
「そうなんや、頑張ったんや。私もっと強くなる。これからもっと頑張らんとあかんね」
愛美は少し笑顔を見せた。
「うん、お互いに」
「私たち同志やね」
「そうだよ、志を同じくする者だよ」
高寿は愛美の手を包み込むように握った。

それからも二人は、毎日のようにデートした。
京都青少年科学館のチョウの家で一緒に蝶を見た。蝶がいっぱい寄ってきて愛美は早々に出ようとした。
京都水族館でクラゲが漂うパノラマ水槽を見た。照明を落としたコーナーで愛美はずっと高寿と腕を組んで歩いた。
愛美は虚ろな表情も時々した。でも、勤めて笑顔を見せた。
――あの告白を受けた日に、高寿に見せてもらった写真の場所には、すべて行ってしまった。二日しか残ってないんや。


二十八日目

晩御飯に枚方市駅前の居酒屋に行った。
週初めで空いていた。高寿はビール、愛美はチューハイを何杯か飲んだ。
まだ桜には早いが、今日は温かいほうだった。
酔いを醒ますため公園のベンチに並んで腰かけた。
「もう後一日なんやね」
愛美は感覚が麻痺したようにさばさば言った。
「そうだね」
高寿もあっさりな感じに返した。
「なんべんでも来られたらええのに」
「そうだよね」
「あかんねんな」
愛美は腰をずらして、高寿の方に向いた。
「今のところ、僕らの世界とこの世界を繋ぐ道は、五年に一度しか繋げることができないらしい」
「そうなんや。……時間も逆向きやし」
「そうだね、毎年会えても、もう同い年で会えることはないんだ」
「それでも、逢いたい。……高寿がこっちの世界に来ているときは、私と同じ時間の流れやんな」
愛美が高寿の髪を触った。
「そうだよ、こっちにいる間は同じ流れなんだ。次元のトンネルを接続して二十四時間、僕はこっちの世界で二十四時間進む。僕の世界は反対方向に二十四時間進む。調整で次元のトンネルを通って帰ると、四十八時間戻って僕の世界になる。そこで次元のトンネルを再接続すると、この世界の一日前になる」
高寿は両手の人差指を左右に広げたり戻したりして説明した。
「ごめん。なんとなくしかわからへん」
愛美は申し訳なさそうな表情だった。
「そうだよね、なんとなくしかわからないよね。調整で一旦帰って、次元のトンネルを再接続しないと、次元のトンネルが伸びきって崩壊する。そうしたら帰れなくなるんだ」
「無理やり、捕まえたら」
愛美が高寿の手を掴む。
「そうしたら、たぶん、君が五歳で、僕が三十五歳で逢う未来がなくなる。恋自体なくなるかも」
「ごめん。言ってみただけ」
「僕は、ずっと考えてるんだけど、二つの世界は凄く似ている。もともとは一つだったとか、それが二つに分かれて、同じ時間の流れだったのに、なにかの理由で時間が逆向きに進んだ。そうなら、また同じ向きに流れたりしないかなと思ってる。また、同じ歳の君に会えるときが来たらいいなと、思ってる」
「また、会えるの?」
愛美は眼を見開いた。
「いや、ごめん。僕の希望なだけ」
高寿は力なく首を横に振った。
「私も望むわ」
愛美は高寿の横に腰をずらして寄り添った。
「めっちゃ先、例えば会えるのが百歳ぐらいでも?」
高寿は聞いた。
「百歳でも、……会えるんやったら会いたい!」
愛美は首を傾げて高寿の肩にもたれた。
「僕も会いたいよ」
高寿は愛美の髪をやさしく撫でた。
都会の空には、星はほとんど見えない。満月になりかけた月だけが見えていた。


二十九日目

愛美は自分の部屋でベッドに寝転んで考えていた。
――今日は友紀ちゃんが実家に行って帰って来ない。