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高山 南寿
高山 南寿
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もうひとつの、ぼくは明日……

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南山


五年後 二〇二五年二月 愛美二十五歳

図書館の横にある公園のベンチに、愛美は座っていた。
お昼ご飯を食べた後に、ふと思い出したように来てしまう。
コートを羽織ってはいるが、二月の寒い時に何してるんやと思う。
公園には人っ子一人いない。少し空を見上げてため息をついた。
ベンチの高寿の座っていたあたりに、手を当てていた。
あれから五年、長かったのか? いや、案外早かった。
高寿を思う気持ちは変わらへん。
付き合ったのはわずか一月足らず。
あんな別れをしたから、忘れられへんのか?
それにもうすぐ約束の日がくる。
十五歳の高寿に会うまでもう少し。
この日のために付き合った日々を、克明に書き綴ってきた。
何度も読み直して付け加えて、心に高寿との思い出を刻み込んでしまった。
忘れるなんてことできひん。本当に、あの約束の日が来るんやろうか?
十五歳の彼に会えるんやろうか? 疑問にも思うし、期待もしてしまう。
逢いたい。できるなら自分と同い年の恋人だった高寿に。
スマホがブーンと振動した。愛美は表示が友紀となっているのを見て通話のアイコンに触れた。
『愛美、今日代休やったから、京都に遊びに来てるんやけど、美術館で美大の合同絵画展があって、そこで、愛美を書いたみたいな絵を見てん。愛美には言わんほうがええんちゃうかと思てんけど。とっても素敵な絵やったから電話してしもた。あんたがモデルとちゃうかなと思う』

白い壁、高い天井、静かな展示室、美術館の中を若い女のスタッフが巡回していた。女は大学を卒業してまだちゃんとした仕事についていなかった。暇と思われてスタッフを頼まれていた。今従事しているのは、卒業した美大のOBと在学生の合同の絵画展だ。作品点数が多いので巡回も大変だった。
スタッフは巡回中に一つの絵の前で泣いている若い女を見つけた。声をかけるか、やめるか迷ったが、あまりに泣いているので、声をかけてしまった。
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
愛美は小さな声で答えた。
スタッフは目の前の絵を見た。髪をゴムで束ねながら振り向いて、笑っている若い女が描かれていた。ネームプレートがついてないが、TMと絵の隅にサインがある。これは南山くんの絵だな。この人がモデルかと思った。そう思ったらすぐに聞いてしまった。
「この絵ってあなたがモデルですか?」
「さあ、わからないです。私に似た絵があると聞いてきたんです」
「そうなんですか」
スタッフは首を突っ込んだらだめなやつだと思った。
「あの……、この絵を描いた人はどなたですか?」
愛美は絵を手で指しながら聞いた。
「大学一緒だったからわかります。南山高寿さんですね」
「そうですか」
それを聞いて愛美はまた絵のほうを見た。
「……南山さんは、今どこにおいでですか?」
愛美は、意を決したように尋ねた。
「今は日本には、いないんじゃないかな。パリに行ったとか聞いたような」
スタッフは言っていいのかなと思いながらも答えた。
「そうですか。ありがとうございます」
愛美は顔を伏せたままその場を立ち去った。
「ああ、彼女は高寿の元カノだな」
スタッフの後ろから男が言った。――背が高く、眉毛が濃くはっきりして、目も大きい、鼻筋も通っていていわゆるイケメン。
「あっ、上山(うえやま)くん久しぶり」
「久しぶり、スタッフお疲れ様」
「上山くん、南山くんの親友だよね。今の女の人知ってるんだ」
「知ってるよ、高寿が付き合い始めた頃から知ってる」
「南山くんが振ったの?」
「高寿も別れたときはめちゃめちゃ落ち込んでたから、なんかわけありだな」
「事情知らないの?」
「別れた理由は頑なに言わないんだよな」
上山は頭を掻いている。
「パリに行ったのもそれが理由なのかな?」
「そうかもしれない。もう少ししたら帰国するって言ってたから、もう一度聞いてみるよ」
「帰ってくるの?」
「そう帰ってくるんだよ、久しぶりにね……。ねぇ、この後飲みにいかない」
上山は女性スタッフ目を覗き込んで言った。
「うん、いくいく」

美術館を飛び出した愛美は、公園のベンチに力なく座り込んだ。
新緑が映え、家族連れやカップルがたむろしている。
公園の隅のベンチに、一人座って考えた。
――高寿はパリにいるんや。私騙されてたんや。もう一つの世界、時間の流れが逆って普通に考えたらありえへん。高寿は真剣な目で語っていた。あのときは本当にしか思へんかった。涙が溢れて止まらなかった。
友紀に電話した。
『友紀ちゃん、あの絵、……高寿が私のこと書いた絵と思う。あんな絵いつ書いたか知らへん。どういう、つもりなのかもわかれへん。……もう何もわからへん』
『ごめんね、……余計なこと言うたよね。おいしいご飯作るから、早く帰っておいで』


図書館 二〇二五年三月

南山高寿は図書館のカウンター近くの面展台の前にいた。時折カウンターのほうを気にして見ていた。
――ここまで来たものの、来てもしかたなかったんじゃないかと思っていた。
「おまたせしました、ご予約の本が4冊ですね。返却は二週間後になります」
図書館のカウンターで子供に図書館員の大野が笑顔で本を手渡している。
「バイバイ」
子どもが手を振り、大野も手を振る。
南山は、子どもがカウンターから離れるのを見て、カウンターに近寄り、大野に尋ねた。
「あのつかぬことを伺いします。図書館のホームページを見たのですが、朗読大会の優勝者のことでお伺いできますか?」
「朗読大会の優勝者ですか?」
「十年以上前に、ここの朗読大会で優勝した方と連絡はとれないですよね」
「そうですね、個人情報にかかわることなので、お教えできないですね」
「そうですよね、福寿愛美という方が過去に優勝されていて、その方にお会いしたいのですが」
「福寿愛美さんですか、……」
大野は怪訝な顔をしたが、南山の顔を見て少し目を見開いた。そして続けて聞いた。
「どういったことでお探しですか?」
「先日、僕の描いた絵を、見に来ていただいたようなんです。それでお話したいことがあるんですが、連絡先がわからないので、ネットで検索したら朗読大会のことが載っていたので」
「そうですか、あなた様のお名前は?」
「南山高寿と申します」
「南山さんですね。ちょっとお待ちください」
大野が立とうとしたそのとき、バックヤードから友紀が出てきた。
「どうかした?」と大野の脇に来た。そしてカウンターに立っている南山を見て、柔和だった表情が険しくなった。
「大野さん、この方はどんなお問い合わせですか」
「朗読大会で優勝した福寿さんと連絡が取りたいとおっしゃってます」
「そうですか」
友紀は南山に向かって
「南山さんですよね、ここではなんですので、外でお話できますか」
トーンは抑えているが逆らうことを許さないと思える口調で言った。南山は名前を呼ばれて戸惑った。
友紀は南山を連れ立って、ホールにいった。
「どういうつもりでお越しか知りませんが、愛美はあなたのせいで、とても苦しんだんです。今更会いに来たりせんといてください!」
友紀の口調は先ほどより更に厳しかった。
高寿は戸惑ったが、ここに福寿さんがいるのではと思った。