もうひとつの、ぼくは明日……
「手紙二つ入ってるね。これはあなたの分じゃない?」
福寿は『高寿へ 愛美より』と書いてあるほうの封筒を高寿に渡した。
「この世界の恋人は、私たちそれぞれに手紙を渡したかったんじゃない?」
「そういうことなんだろう」
「じゃ、私は私の分読むね」
「うん、僕も読んでみる」
最愛なる愛美へ
まず、最初に驚かしてごめん。僕も最初、二つの世界に同じ人間がいて、その人間同士が出会うなんてことあるのかと驚いたんだ。
君と別れてほぼ五年たった時、この世界の福寿愛美さんに会った。
そして、その愛美さんも僕たちと同じように二つの世界に翻弄される恋愛をしていた。
そのことを話してるときに、思いついたんだ、君に手紙を出すことを。
僕らが二十歳で別れたとき、僕はお別れを言えたけど、君は「また、明日」と言って別れた。
僕は何も気づかず、君の涙のわけもわからず、君に何も言ってあげられなかった。
「また、明日」と言った後の君に、ちゃんとお別れとありがとうの気持ちを伝えたかった。
少しややこしいけど、君の世界の南山高寿さんが十五歳で、こっちに来たときに手紙をお願いしたんだ。
彼の分の手紙もいっしょに入れたんで内容のことは言えなかった。
手紙を言付けたのはこっちの世界の福寿愛美さんなんだ。
彼女も僕と同じように手紙を渡したかったんだ。
僕の家族と君が写った写真あったよね。
その写真が入ってた箱をヒントに、過去に手紙を送ることにした。
このタイミングで僕の思いを伝えたかった。
愛美、愛してるよ。今までありがとう。
この三十日間、僕は本当に楽しかった。
出会いのときからずっと楽しかった。
今思うと、とても恥ずかしい告白だった。
いきなりメアド聞くなんて考えられない。
スケッチしているときに動物園に来てくれたのも、びっくりしたけど、嬉しかった。
初めて電話したのも、映画見に行ったのも、喜びの連続だった。
君と色んなことを共有して一緒に楽しむ。
君がどう感じてくれるか、いつも君のことを考えるのが楽しかった。
だんだん仲良くなっていく感じが、僕にはワクワクだった。
君がそう感じるように振る舞ってくれているのも知らず。
僕は有頂天になっていた。
なのに、君が別の世界からの旅人だと知った後は、君に冷たくしてしまった。
記憶がすれ違っていることや、君の行動が予定されている演技なのかと疑って、つらく当たってしまった。
すごく頑張ってる君に、僕よりもきっとつらい君に、冷たくしてごめん。
乗り越えたのは、君も知っていることだけど、君のことを本当に好きだから、乗り越えられたことを忘れない。
君と一緒に想い出作りしたことを忘れない。
君と付き合えたことを、一生忘れない。
今は二人の想い出は一緒だよ。
もうすれ違ってなんかいない。
もうすれ違うことなんかない。
でも、本当はすれ違ってでも逢いたい。
逢いたいよ。
僕は十五歳の君にもう会った。
君は十歳と五歳の僕にこれから会う。
十歳のとき、君に抱き締められてちょっとびっくりしたけど、ちゃんと抱き締めてほしい。
そして五歳の僕を助けてくれてありがとう。
しっかり抱き締めてくれてありがとう。
君のおかげで僕はしっかり生きている。
君に恋して生きている。
僕も五歳の君を助けにいくよ。
しっかり守ってみせる。
それが君になにかしてあげられる最後だから。
いや、それが最後じゃない。
これからもずっと君のことを思い続けるよ。
君のことを忘れない、ずっと愛し続けるよ。
愛しているよ、愛美。
愛してる。
高寿
福寿は手紙を読み始めて少し涙を流していたが、読み終わって、嗚咽していた。
「お別れの言葉、書いてないじゃん」
福寿は泣きながら独り言を言っていた。
高寿も自分宛ての手紙を読んでいた。高寿の目にも光るものがあった。
愛してる、高寿。
愛してるよ。
もうひとりの愛美さんに、手紙届けてくれてありがとう。
もうひとりの愛美さんにも、よろしくね。
ややこしくてごめんね。
手紙を二通、高寿への手紙も一緒に言付けたから、詳しいことは言えなかってん。
二十歳で高寿と別れた後、私の世界にも、南山高寿さんがいてん。
その人は、そっちの世界の福寿愛美さんと私たちと同じような恋に落ちてた。
会ったその日が、相手にとって別れのときやなんてわからへんから、ちゃんとお別れの言葉言えなかったんやて。
伝えられるもんやったら、なんとか伝えたいと思ってはって、私もそう思ってん。
そんで考えてみたら高寿とは、二十九日間しか会えなかったから、三十日目が空いてるんちゃうかと思った。
そっちの世界の福寿さんの最後の別れの場所と時間がわかってたから、そこに、そう宝ヶ池駅に手紙を渡しにいってもらってん。
ごめんね、びっくりしたやろ。それに高寿にとっては、別れた次の日にしか手紙渡せなくてごめんね。
これから私の気持ち伝えるね。
脱輪したとき助けてもらえて頼もしかった。
十五歳のときに会ってたからやと思うけど、知ってる人みたいで、めっちゃ気になってん。
駅前の道標のとこで再会できたときは驚いた。
なにか運命みたいと思った。ほんまに運命やったんやね。
出会うことが前から決まってたんやね。
私はみんな受け入れる。
夢みたいな日々をありがとう。
狂言面白かった。
植物園で告白されたこと忘れられへん。
夜の海遊館素敵やった。
奈良行ったし、淡路島、ほんまに楽しかった。
いろんなとこ行ったのも、いろんな物食べたのも、お互いの気持ち伝え合ったのも、みんな今となったら、とても大切な日々やった。
高寿といた時間は忘れられへん大事な想い出やで、私にとって最後の日、高寿にとっては最初の日やったのに、一緒に泣いてくれた。
私の気持ちに寄り添ってくれてありがとう。
とってもいい恋人やったで。
そやけど、最後の日、高寿にとって最後の日、私にとって最初の日、私にはなんもわからへんかった。
なんも、でけへんかった。
高寿がちょっと悲しそうな顔したような気がしてんけど、さっさと歩いていったし、結局何も気付かへんかった。
でも高寿が手を振ってくれたとき、なんかとてもきゅっと感じて、私も一所懸命手を振ったよ。
最後やったなんて、わからへんかったけど。
なんも言えへんかったけど。
今は言いたい、ずっと頑張ってくれてありがとう。
私に幸せな時間をいっぱいくれてありがとう。
大好きやで高寿。高寿のことは一生忘れへん。
五歳の高寿に会うのを楽しみにしてる。
そしてきっと高寿を守るで。
私は一生高寿を忘れへん。
けど、高寿は五歳の私に会った後は自由にしてや。
五歳の私には会ってほしい。
でも、その後は私に縛られんと生きてほしい。
写真で見たけど、そっちの世界の福寿さんは私と瓜二つや、大阪弁とちゃうし、なおええやん。
そんな簡単な話やないか、ごめん。
でも幸せになってほしい。
いっぱい幸せな時間くれてありがとう。
そして、さようなら。愛美
高寿は思った。
僕のほうこそ、ありがとう。夢の様な時間だった。
手紙を、もらえると思わなかった。
やっぱり僕のほうだけ、さよならなんてつらかった。
最初からわかってたことだけど、かなりつらかった。
この手紙は救われた。
作品名:もうひとつの、ぼくは明日…… 作家名:高山 南寿



