もうひとつの、ぼくは明日……
「上山です、よろしく。本当に愛美ちゃんだね! 大阪弁だね!」
「色々知ってるなら話は早いです。この子たぶん門田友紀ちゃんやと思う」
「門田友紀ちゃんって爆発に巻き込まれる子か?」上山が驚いて聞く。
「なんか違うことが起こってるかもしれんへんけど。ここで気を失ってるなら爆発には巻き込まれへんかも」
「わかった。後は任せて、早く行って」と上山が言う。
そこに、祭りには来ないと言っていた友紀が突然現れた。
「愛美なにしてんの……。えっ、人倒れてんの? あっ南山くんやね。この女の子は?」
「お祭り来ないって言ってたやん」
愛美がちょっときつい口調で言った。
「なに怒ってんの?」
友紀は面食らってる。
「ええわ、丁度ええ。ちょっと急ぐからこの女の子介抱してて」
愛美は、友紀が爆発に巻き込まれないようこの場所にいてもらいたかった。友紀は困惑しているようだった。
「お姉さん、介抱手伝ってください。私、南山の友達の上山と言います」
「なんやわからへんけど、はい」
そう言って友紀は女の子の脇にひざまずいた。そして女の子の顔を見て驚いた。
「えっ、この子私にそっくりなんやけど」
愛美は友紀の言葉は無視して指示を出した。
「南山くん先にいって、友紀ちゃん救急車呼んで。上山さん後はよろしく」
「わかった」
上山は簡潔に答えた。
南山は愛美と目を合わせて、うなずいてから走っていった。
友紀はさらに困惑したようだった。
愛美は広場から道に出ようとした。
そのとき、キョロキョロしながら男の子が愛美の前を小走りで通った。向こうの世界の幼い高寿だ。
「待って」
愛美の声は届かなかった。
まずい私の足で間に合う? でも追いかけるしかない。
愛美は参道を急いだが五歳の高寿を見失った。愛美は痛む足を踏ん張って、杖をついて進んだ。
友紀
友紀は救急車を呼んでから女の子の脇にひざまずいた。友紀は倒れている女の子を見ながら思った。私の若い頃に瓜二つ、他人の空似ってやつ? この世に三人はいるというそっくりさん? でもこれはもう若い頃の私としか思えない。こんなことってある。
「この子私の若いときに瓜二つなんです。ほんま不思議」
友紀は上山に話しかけた。
「かわいかったんですね」
上山は笑顔だった。
「え、ちょっと話があわへん」
友紀はあきれた。
友紀と上山が話していたそのとき、倒れていた女の子は起き上がって周りを見渡したと思ったら、参道へと走り出した。
「待って」上山は追いかけようとしたが
「お姉さんはここで待ってて」と言い残して女の子を追った。
「私もいく」と友紀も走り出した。
イカ焼き屋のおっさんは醤油を使い切ってしまった。
買うのを忘れてた。
客が途切れてるので、知り合いのたこ焼き屋で醤油を借りようと店を空けた。
たこ焼き屋はイカ焼き屋より参道の奥でやっていた。
たこ焼き屋のおっさんは休憩していた。
たこ焼きの鉄板には多くのできたてのたこ焼きが買われるのを待っていた。
イカ焼き屋のおっさんが醤油を借してと言うと、たこ焼き屋のおっさんは、小さいペットボトルに醤油をいっぱい入れてくれた。
イカ焼き屋のおっさんは礼をいって、さっさと帰ろうとした。
そのときプロパンガスのホースをひっかけて転けそうになった。
ホースを見たが抜けたりしてなかった。
古そうなホースやと思ったが、そのまま何も言わず店へ戻った。
事故
愛美はまだ幼い高寿を見つけられないでいた。祭りの客の間を急いでいた。愛美はときどき後ろのほうを振り返ったが幼い高寿はいなかった。たこ焼きの屋台の手前で、向かいに幼い愛美が歩いて来たのが見えた。その後ろに南山がついている。
横から幼い高寿が愛美を抜いて、たこ焼き屋台の前でつまずいてこけた。
たこ焼き屋のおっさんは点火用の長いライターを持ちながら、コンロを覗きこもうとしていた。こけた高寿を見て声をかけた。
「僕、大丈夫?」
幼い高寿は体を起こし答える。
「おじさん、なにか臭い」
愛美は幼い高寿の横に座り込む。
「大丈夫?」
「なにか臭いよ」
幼い高寿は愛美にも訴える。
愛美も臭いに気がつく。確かに臭い、なんだろこの臭い。ガソリン? と思った。
人波から十五歳の友紀が飛び出して愛美のすぐ前に来た。息が整ってない。愛美に訴えるような目でしゃべった。
「たこ焼き屋の、プロパンガスが漏れてる!」
愛美はわかった。そうだ、これはプロパンガスの臭いだ。
そのとき、大人の友紀が来た。上山もつづいて来た。
十五歳の友紀がいて、友紀ちゃんも来た。出店の人もいる。爆発で死んだと聞いてる三人? まずい、役者が揃ってる。あかん、ここが爆発場所や。三人じゃない。ここにいる者全員死ぬと愛美は思った。
「ガスが」
愛美はたこ焼き屋のおっさんに叫ぼうとした。
「ガスが漏れてる」
愛美より早く幼い高寿が叫んだ。
たこ焼き屋のおっさんはびっくりしたが、ガスボンベのほうにいき、慌ててボンベのコックを閉めた。
そして、ガスのホースを持ち合上げた。ガスのホースは縦に大きく裂けていた。
隣のフランクフルト屋は準備中、周りに火の気はない。
「爆発を止めた」
愛美と南山の二人の声が揃う。
「良かった、爆発止められて良かった」
十五歳の友紀は愛美に笑顔で言った。
そして、手を振って境内のほうへ走っていった。
上山は南山のそばにいき。
「今めっちゃ危なかったんじゃない。良かった爆発しないで。聞いてたのと違うけど、この結果でいいのかな? いや、いいに決まってるか。じゃ、また近いうちに」
上山はそう言うと南山の肩をポンっと叩いた。愛美に向き直って
「愛美ちゃん、高寿よろしくね」
そう笑顔で言って去っていった。
愛美は幼い高寿が立つのを見ると、軽く服をはたいてやった。
「ガス漏れ教えてくれてありがとうね」
愛美は幼い高寿の頭をなでた。
幼い高寿は、はにかんだ。
幼い愛美は、同じく幼い高寿を見てそばに来た。
「あっ一緒に来た子だ。遊ぼうよ!」
幼い愛美が声をかけた。
幼い高寿は、笑顔になって、うなずいた。
そして、二人は手をつないで走っていった。
その瞬間、なにかが変わった。爆発がなくなって、向こうの世界の幼い二人が知り合ったことが、時を遡って過去を変え、今を変えた。
向かいに立っていた南山が一瞬で愛美の隣に移動していた。
二人の左手の薬指にはお揃いの結婚指輪があった。
そして、二人は手をつないでいる。
愛美のフレアスカートの下からすらりとした二本の足が見えている。
ショートブーツが足首の細さを強調していた。
義足ではない。
南山の顎には髭はなくなっていた。
ベージュのカーディガンにスラックスが長年連れ添った夫の、穏やかで優しい雰囲気を醸し出していた。
そう、こちらの世界の二人は結婚している。
「今の子供、私たちの幼いときに似てるね」
「僕もそう思った」
二人は目を見合わせて笑ってる。
「あんたらいつまでたってもラブラブやね、私もいるんやけど」
後ろで友紀が苛立ってる。
「ごめんなさい、お姉さん」
振り返った南山は笑顔だ。
「いいえ、ついてきたんが間違いやった」
「友紀ちゃん、そう言わんと」
愛美のフォローはいつものことだ。
作品名:もうひとつの、ぼくは明日…… 作家名:高山 南寿



