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高山 南寿
高山 南寿
novelistID. 71100
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もうひとつの、ぼくは明日……

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「私の写真も良く撮れてる、これほしい」
愛美はカメラのディスプレイを高寿に見せて笑った。
「そうだね、かわいいね」
――えっ、なんかウキウキする。
「あ、そうだ。写真データ、送るよ。僕のスマホ、アンドロイドだからLINEが楽かな。……その、LINE交換、してもいい?」
少し頬を染め、言い慣れない言葉を口にするように照れながら尋ねる高寿の表情が、愛美にはたまらなく魅力的に映った。
「は、はい!」
嬉しさが声に滲み出て、ワントーン高くなってしまったかもしれない。
愛美は少し反省した。高寿の表情を探った。
――大丈夫そう。ちょっと恥ずかしい。
高寿はスマホを操作した。愛美もスマホを出した。登録しあって、よろしくと送りあった。
やった連絡先ゲットした!
なんかワクワクする。
これで連絡できてまう。

高寿はカメラから取り出したデータをLINEで送ってくれた。
一緒に撮った写真だ!
本当に一緒に写ってる!
友紀ちゃんに見せたい。
この人ともっと話したい。
え~と、明日、友紀ちゃんといく予定やった狂言一緒に行きたい。
でもよう誘わんかな。
「明日もどこか撮りに行くん?」
愛美は思い切って切り出した。
「京都の方に行こうかなと思ってる。本当は狂言入門の公演があったから、それに行きたかったんだけど、チケット取れなくて」
えっ狂言?
狂言行きたいなんて偶然ある?
頑張って誘うしかないやん。
「福寿さんは、明日は出かけたりするんですか?」
先に高寿が話しかけた。
「あっ、えー、狂言」
愛美は少し間が抜けた返事になった。
「えっ、狂言? 明日?」
高寿は目を丸くした。
「あの、明日の公演のチケットあるんやけど一緒に見ます?」
愛美の声は、ばつが悪いのか小さくなった。
「えっ、チケットあるの? 見てみたい、でも、誰かと行くのじゃないの?」
「ドタキャンされて、誰と行くかまだ決めてなくて」
「本当? じゃ、行っていいかな? 迷惑じゃない?」
高寿は笑顔になった。
「うん」
愛美は少し耳が熱く感じた。
二人は場所と待ち合わせの時間を決めた。
「福寿さん、ありがとう。明日めちゃ楽しみ」
高寿は満面の笑みを浮かべた。
「私も」
きっと私のほうが嬉しい。
会う約束しちゃった。
とってもドキドキする。
「あっ、ごめん。悪いけど一つお願いしてもいい?」
高寿はバッグを引き寄せた。
「なに、内容にもよるけど、ええよ」
愛美はちょっと不思議に思った。
高寿はバッグから真新しい箱を取り出した。
「この箱少しの間、預かってもらえない?」
「何入ってんのって言うか、スマホの箱やん」
「新しいスマホ買ったんだけど、親が同じの買ってくれてて、ダブっちゃったんだ。親に見られるとまずいから、ちょっとどうするか考える間、預かってもらっていい?」
「ええよ、別に。それくらい」
深く考えずに愛美はうなずいた。けれど、心のどこかで、出会ってまだ二日目やのにという小さな疑問が芽生えた。でも、彼が頼ってきてくれたことが、その疑問をすぐに覆い隠した。
二人は店を出て駅に向かった。
高寿は隣の寝屋川市に住んでるとのことで、枚方市駅まで一緒に歩いた。
「じゃあ、明日」
改札前で、高寿は手を振った。
「うん。また、明日」
愛美も笑顔で手を振った。
高寿は改札を通ってから、一度振り返って手を振った。
愛美は高寿が階段を上って姿が見えなくなるまで見送った。
こんなことってある? 早く友紀ちゃんに言いたい。

愛美はスーパーで買い物をしてから、友紀ちゃんのマンションに帰った。
従姉の友紀の部屋は枚方市駅から歩いて十分くらいのマンションの三階にある。
二LDKもあるが、古めのマンションなのでそんなに家賃は高くない。
愛美は対面式のキッチンカウンターのハイチェアに腰掛けて夕飯をさっと済まし、リビングのソファーに座った。
リビングはベランダに面した側にある。
対面キッチンの横あたり、普通ならダイニングテーブルを置く場所に、三人掛のソファーが置いてある。
ソファーの後ろは木製の大きな本棚になっている。
ソファーの前にはローテーブル、その横に一人掛けソファーがある。
反対の壁際にはローボードがあって、その上に大型のテレビが置いてある。
愛美はテレビでバラエティー番組をかけたが、全然見ていなかった。
スマホで、今日高寿と撮った写真をずっと見ていた。
にやにやしながら高寿と過ごした時間を思い返した。
そこに友紀が飲み会から帰ってきた。
「お帰り友紀ちゃん」
愛美は立ちあがって前かがみ気味に玄関をのぞき込んだ。
「ただいま、今日ごめんね、言うてなくて」
友紀はほろ酔いなのか、少し頬が赤い。
「いいよ、大丈夫。あっ友紀ちゃん、狂言一緒に行く人決めちゃったけど、よかったよね?」
「えー、シフト調整できて、交代無しになったんやけど。誰と行くことになったん?」
「ちょっと言いにくいねんけど。脱輪したときのイケメンと」
「いやっ、それ無理やろ。酔うてる? 惚れて頭変になった?」
「なぁ、これ見て」
愛美はスマホで写真を見せた。
歴史街道の町家の前で愛美と高寿がツーショットで笑ってる。
「いやーようできた合成写真って、イケメンのデータはなんであるん? どういうこと?」
「今日駅前の道標の前で、ばったり会ってん」
「いや、そんなことある! それってもう運命やん」
「そう、きっと運命やねん。だから狂言のチケット譲ってね」
「いやや、私がそのイケメンといく。ずるうー。そんな運命みたいなことないで普通。きっとストーカーや。私が確かめるためにいったげる。代わりにイケメンとデートしてくるてー」


三日目

愛美は早く会いたくて京阪電車の三条の駅に早めに着いた。でも高寿のほうが先に着いていた。
「ごめん、待った?」
愛美は笑顔で尋ねた。心の底から笑顔があふれていた。
「今来たところだよ」
高寿も笑顔を返した。
「そう、良かった。地下鉄乗っていこう」
愛美たちは並んではいるが少し離れて歩いた。
二人は狂言を見終わって和風のカフェに行った。
壁や仕切りが木の格子になっていて、照明は少し暗く、黒いテーブルが淡いライトで照らされている。
テーブルに置いてある割り箸も高そうだ。
愛美はちょっとムード良すぎと緊張しかけたが、高寿が気さくに話してくれるので、少しずつしゃべれるようになった。
「狂言面白かったわ」
愛美が切り出した。
「蝸牛(かたつむり)っていう狂言面白かった。内容や話の間とか、今のお笑いの原点という感じだね」
「ホンマやね。話が奇想天外というか、ナンセンスやわ。めっちゃ笑った」
「そうだね」
ふたりは少しの間、狂言の話で盛り上がった。軽めのお酒も飲んだ。
それからバイトの話になった。
「図書館のバイトっておもしろい?」
「まぁおもしろいかな。もともと本が好きやったけど、中学校のときに図書館の主催の朗読大会で優勝したん」
「へぇ、すごいね」
「それで図書館員の人とも知り合いになったりして、図書館員もええなぁと思ってたんやけど、ちょうど従姉の友紀ちゃんが市役所から図書館に配置替えになったん」
「従姉?」
「前に車に同乗してた友紀ちゃん」
「ああ、あの人がそうなんだ」
高寿は何度かうなづいた。