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高山 南寿
高山 南寿
novelistID. 71100
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もうひとつの、ぼくは明日……

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駅に着くと大野は軽く会釈した。そのまま降りていくのかと思ったが愛美に意味ありげに笑顔を見せて降りていった。

その後、二人は海遊館へと足を運んだ。
巨大なジンベイザメが悠々と泳ぐ大水槽の前では、言葉少なに見入り、まるで海の中にいるような青い光に包まれた。
薄暗いクラゲのコーナーでは、どちらからともなくそっと手をつなぎ、幻想的な光景の中をゆっくりと歩いた。
愛美にとって、それは夢のような時間だった。おそらく高寿にとっても。


十日目

今日も図書館裏の公園で待ち合わせをした。
愛美は、着替え終わって図書館を出ると小走りになっていた。
高寿は早く着いたのか、公園のベンチに座って背もたれに両手を掛けて待っていた。
「待った?」
愛美は高寿の前に立った。
「今来たところ。ここ座ったら」
「うん、ここ落ち着くんや」
「そうだね、愛美ちゃん」
不意に名前で呼ばれ、愛美はどきりとした。
「えっ……な、なんか照れるやん……高寿くん」
頬が熱くなるのを感じながら、それでも嬉しくて
「名前で呼んでもらうのって、ええなぁ」
愛美は喜んだ。
高寿はふっと目を細めた。その表情は喜んでいるようでもあり、どこか遠くを見ているような、少し寂しげな色も浮かんでいるように愛美には見えた。
「今日奈良まで車で行きます。がんばって運転するから」
愛美は胸の辺りで拳を振ってる。
「わかった。じゃ、ミラーに気をつけて」
「えー、そんなこと言う。でも今日は大丈夫」
「どうして?」
「付いてきて。お休みの職員の駐車場借りてるから行こう」
駐車場に赤いコンパクトカーが置いてあった。
「今日からこの車やねん」
愛美が車の前に立っている。
「新車?」
「そやねん、友紀ちゃんが前から契約してた車がやっと来てん。ナビも新しいし、コーナーセンサーとか付いてるから、もう擦らへんかも。保険限定ないから運転したかったらしてもええで」
愛美はなんとなく誇らしげだ。
「僕、運転免許持ってないよ」
高寿は肩をすくめた。
「え、そうなん。脱輪助けてくれたから持ってると思うた」
「あれはたまたま聞いたことあったから試してみてもらっただけ。上手くいってよかった」
「そうなんや。でも、あのときは、ほんまに助かった」
「マニュアルで運転する機会とかあまりないから、免許も持ってないんだ」
そう言ってから、高寿は何かを思い出したかのように、はっとした表情を見せた。
愛美は一瞬首を傾げたが、深くは考えなかった。
「オートマ限定でいいやん」
愛美は気軽に言った。
「オートマ……? ああ、そうだね。機会があったら考えようかな」
高寿は少し間を置いて、どこか上の空のような返事をした。
「とりあえず、奈良まで行くで」
「はーい」
高寿はおどけたように返事した。

二人は奈良公園に行った。
鹿が寄って来る。せんべいが欲しいのか、お辞儀をしまくるので、愛美も高寿もめっちゃ笑った。
その後、奈良金魚ミュージアムに行った。
色んな形の水槽に様々な金魚が入れてあって、とても美しい。
「きれいだね」
えっ、私? 金魚? 愛美は一緒に水槽を見て、微笑みかけてくる高寿にドキドキした。
「また今度映画行こな」
奈良からの帰り、愛美は車を運転しながら、話した。
「まだ一緒に映画って行ってないよね。あっ、いや……ジブリのやつ、行ったっけ……? ううん、なんでもない、忘れて」
高寿は急に早口になり、慌てて取り繕った様子だ。
「また行こなは、今度、行こなって意味やん」
愛美がちらっと高寿を見る。
「あ、そうだね」
高寿は正面を向いたまま返事をした。愛美はもう少しジブリのことを聞きたくなった。
「ジブリって? なんの話? 私、一緒にジブリ映画なんて観たことないけど……。なんか焦ってへん? もしかして、誰か別の人と行ったん?」
愛美が冗談めかして突っ込む
「ち、違うよ! いや、行きたいなと思ってる映画があって」
高寿は視線を泳がせた。
「なんか怪しい」
「怪しくなんかないよ。あっ、信号変わったよ!」
高寿が信号を指さす。
「あっ、はい」
「もうすぐ磐船街道、狭くてくねくねして下り坂」
「はい、了解しました」
愛美はそれから運転に必死だった。映画のことは聞き忘れた。

それからも、二人は少しの時間があると会った。喫茶店や居酒屋でとりとめのない話をした。二人にとって大切な時間になった。


十六日目 二〇二〇年三月

寝屋川市駅のロータリーで待ち合わせをした。
愛美は少し早めに来て、ロータリーの植栽の横に縦列駐車した。サンバイザーの裏のミラーで化粧をチェックした。
高寿が車を見つけて、笑顔で駆け寄ってくる。助手席に乗り込んできた。
「運転も慣れてきたし、ちょっと遠出したいねん。今日は高速や明石海峡大橋使って淡路島まで行きます」
愛美は朝から張り切っている。印刷した日程表を高寿に手渡した。
「高速道路って運転したことあるの?」
高寿は真顔で聞いてる。
「友紀ちゃんと高速道路練習してん。友紀ちゃん横に乗るの嫌がってたわ」
「えっ、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。はい、シートベルトして」
高寿はシートベルトをすると受け取った日程表を広げた。
日程表の左下にある小さなシミを見つけて、高寿がくすりと笑った。
「何笑ってるん?」
愛美が不思議そうに尋ねる。
「ここ、シミが付いてるね」と高寿が指さした。
「ああ、それ。うちのプリンター、印刷するたびに、ほんのちょっとだけシミがつくねん。でも、それぐらいで買い替えるのももったいないし、見て見て!  なんか模様がハートみたいでかわいいやん!」
愛美がシミを指さす。
「うーん、僕には……残念ながらハートには見えないかなあ」
高寿は真顔でシミを見つめ、少し困ったように笑った。
「えー! そこはハートやと思てて」
愛美は少し唇を尖らせた。そして、J―POPを流して、発車した。
たわいもない話で盛り上がるうち、高速に入った。
車は阪神高速をすべるように走る。
「あの港のクレーン、巨大なキリンが何頭も立ってるみたいで怖いねん」
愛美が指さす。
「ほんと、キリンみたいだね。あの大きさのキリンだったら怖いかも」
二人は笑顔で話した。
車は明石海峡大橋を通ってる。
「すごく高い、景色いいね」
高寿の声は少し大きくなった。
「そうやね、とってもきれい。でも、ゆっくり見られへん。勝手に走ってくれたらええのに。君あかんね、ちょっともよそ見でけへん」
「えっ、なに言ってるの」
高寿が尋ねる。
「車に文句言うてんの」
高寿はそれを聞いて笑った。
それで愛美は高寿をじっと見た。
「えー、前見ないと! 車が自動で走るようになるけど、今は前見て!」
高寿が前方を指さした。
「それいつ? それいつ?」
「もうちょっと先かな。でも、自分で運転するのも面白いかなって思うよ。愛美見てると楽しそうだしね」
「ええこと言うてくれるやん。私、どこでもつれていくで」

淡路島に着いて、イチゴ狩りをした。
ガラス張りのきれいな温室の中に、高い棚があって、赤くて大きいイチゴがたわわに実っている。二人は互いに、あーんをして食べさせっこした。
ふと、高寿の指に巻かれた絆創膏が愛美の目に留まった。
「あれ、その指どうしたん?」