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高山 南寿
高山 南寿
novelistID. 71100
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もうひとつの、ぼくは明日……

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「ああ、これ? ちょっと擦りむいただけだよ」
高寿は、絆創膏を貼った指をさりげなく反対の手で隠そうとする。
「その絆創膏、かわいい柄やね。なんか…うちにあるやつと似てる気がするんやけど」
愛美が首を傾げると、高寿は一瞬言葉に詰まったように見えた。
「えーと、それより、夕焼け見に行こう!」
高寿がやや強引に話題を変えた。その不自然さが、愛美の心に少し引っかかった。

淡路島の西側の海沿いのカフェに来た。
瀬戸内海に面した側に大きな窓がある。
二人は窓に沿ったカウンターに、横並びで座った。
カフェの大きな窓の外では、空と海を茜色に染めながら、真っ赤な夕陽がゆっくりと水平線に沈んでいく。
波の音が遠くで優しく響く。
愛美は、その幻想的な光景のひとつとなっている高寿の真剣な横顔を、吸い寄せられるようにじっと見つめていた。
不意に、高寿がその視線に気づき、愛美へと顔を向ける。
夕陽に照らされた彼の瞳が、柔らかく愛美を見つめ返した。
言葉はいらなかった。
自然と互いの顔が近づき、二人の唇がそっと重なった。
初めての口づけに、ハートが甘くしびれるような感覚。
愛美は一度ゆっくりとうつむき、まぶたを伏せた。
そして、顔を上げ、頬を染めて恥ずかしそうに微笑んだ。

帰りの車の中、愛美は高寿をちらっと見ながら、これからずっと一緒にいられたらええな、ずっと一緒にいたいと思った。
でも口にはしなかった。まだそこまで言うのは重いかもしれないから。
何もしゃべらなくても安心な心地よい時間が過ぎていった。
高寿が自転車を置いてると言うので帰りも寝屋川市駅のロータリーに車を止めた。
「僕も君とずっと一緒にいたいよ」
高寿は助手席から愛美を見つめている。
「僕もって?」
「あっ、僕もって言っちゃったね。君の気持ちがわかるって言ったらどうする?」
「えー、私がずっと一緒にいたいと思ったんわかったの? それは嬉しいと困るの両方かな。ほんまなん?」
愛美は、ちょっと困ったような顔で高寿を見ている。
「わかったというより、君の顔に書いてある」
「いやや、……私ってそんなわかりやすい?」
愛美は両手で頬を覆った。
「わかりやすいかも」
高寿は愛美が手を下すと、そっと顔を近づけてキスをした。
「明日、手料理つくるからマンションに来て」
愛美は高寿の目をじっと見ている。
「えっ、本当! 嬉しいよ。だったら、一緒に買い物しようよ。……愛美」
最後の言葉が、ごく自然に、でも確かな響きを持って愛美の耳に届いた。
『愛美』――初めて呼び捨てにされた。
愛美のハートがきゅっと甘く締め付けられる。
愛美は、言葉が出てこなかった。
高寿が車を降りて、車を覗き込んだ。その時、
「また明日ね、高寿」
少し勇気を出して、愛美も初めて彼を呼び捨てにした。
「また、明日」
高寿は一瞬目を見開いたが、とびきりの笑顔で手を振った。
はじめての呼び捨て、愛美は帰り、運転しながら笑みが止まらなかった。


十七日目

今日は友紀ちゃんが旅行でいないので、高寿をマンションに呼んだ。
一緒にスーパーで買い物をした。
愛美は、終始笑顔だった。高寿といれば何でも楽しかった。
「今日はなに作るの? カレーかな?」
スーパーからの帰り道、高寿が袋を見ながら尋ねた。
「ブブー、違うわ」
「えー、なんだろう」
「内緒」
愛美は唇に人差し指を当てて、笑ってる。

高寿は、対面キッチンのカウンターで、ニンジンをピーラーで皮むきした。ピーラーで指を切った。
愛美が絆創膏を二枚持ってきて一枚を貼った。そして、もう一枚を渡しながら、気が付いた。
「ほら、替えの分も。って、あれ? その指、昨日も同じような絆創膏貼ってへんかった? 確か、このかわいい柄の……」
愛美がじっと高寿の指先を見つめると、高寿は少し慌てたように
「そ、そうだったかな? よく覚えてないや。とにかく、早く料理の続きをしよう!」と愛美をキッチンへと促した。
その焦ったような態度に、愛美はまたしても小さな違和感を覚えたが、今は美味しい料理を作ることに集中しようと思い直した。

高寿はカウンターのハイチェアに座って待っている。
愛美は高寿の前に料理を置いた。肉じゃがだった。
「糸こんにゃく買ったのにカレーはないわ」
同意を求めるように愛美は微笑んだ。
高寿は肉じゃがを頬張って
「あっ、これ美味しい。どうしてこんなに美味しいの? なにか隠し味とかあるの?」
「それはね、市販のたれ」
愛美は、高寿の横に腰掛けながら言った。
「えっ、それ言っちゃっていいの?」
「聞くからやん。もうー、はよ食べよ」
それから二人は映画を見た。
リビングのソファーに隣り合って座り、その世界に浸る。
エンドロールが静かに流れ始める頃には、愛美は自然と高寿の肩に頭を預けていた。
高寿がそっと愛美の髪を撫で、囁くように「愛美」と名を呼ぶ。
見つめ合う視線が絡み合い、二人は優しいキスを交わした。
……どれくらい時間が経ったのだろう。
愛美の意識がゆるやかに覚醒したとき、二人は愛美の部屋のベッドの中にいた。
隣で眠る高寿の穏やかな寝顔を見つめ、愛美はその唇にそっと指で触れた。
すると、高寿がゆっくりと目を開け、愛美を愛おしそうに見つめ返し、再び深いキスをした。
「泊まる? 明日はバイトないし」
愛美は少し頬を染めていた。
「いや、まだ車庫止まりの終電あるから、今日は帰るよ」
高寿は体を起こした。
「車、今日ないから送られへんけど」
「いいよ、大丈夫」
高寿は優しく微笑んだ。そして、帰り支度を済ませて玄関に行った。
パジャマにカーディガンをはおった愛美も、玄関まで来た。
愛美が高寿の腕を持って引きよせた。
そして少し背伸びをしてキスをした。
「また明日」
愛美の瞳には高寿だけが映っていた。
「また明日」
高寿も優しく見つめ返した。
愛美はベランダから高寿を見送った。
高寿が向かいのマンションとの曲がり角から手を振った。
愛美も手を振った。
少し寒くてくしゃみをした。
一瞬なにかが光った気がした。
下を見ると高寿の姿はもう見えなかった。
「えっ、早」
愛美は、余韻ないなと思った。
時刻はちょうど午前零時だった。
愛美はリビングに戻ってソファーの横に見慣れないルーズリーフがあるのを見つけた。
なんのルーズリーフと思ってめくって見た。
プリンターで全て印刷されていた。
最初のページ、三月十五日僕の一日目、彼女の二十九日目、彼女にとって最後の日と書いてある。
友紀ちゃんのマンションで過ごしたと書いてある。
その日のことを細かく書いてある。
次のページは三月十四日、僕の二日目、彼女の二十八日目、居酒屋に行ったと書いてある。
ページをめくると日付が遡っていき、僕の何日目、彼女の何日目と書かれていて、その日のデートのことが書いてあった。
最後のページには手紙を届けることと記載があった。
そして全てのページの左下に黒いシミがある。
このシミは、……これは、うちのプリンターのや。
日記? ただの日記じゃない。
未来のことが書いてある。
しかもうちのプリンターで印刷している。
誰が作った? どういうこと?
「なにこれ?」
愛美の口から思わず言葉が出た。