zoku勇者 ドラクエⅨ編15 悲しきリブドール・2
「モン、大丈夫だよ、アイシャは今日中に戻って来る約束だから……、
モンが眠っている間にアイシャは帰ってくるからね……、ほら、
一眠りして……」
「モン……、うん……」
アルベルトはモンにそう声を掛け、モンも返事を返しすやすや眠った。
……だが、もう直ぐ……、時刻は約束の夕方になろうとしていたが……。
アイシャが戻って来る気配を男衆は全然感じなかったのだった。
「あの野郎……」
「ジャミル、もう少し待ってみよう、きっと……」
「はあ、何でこんな事になっちゃったのかなあ~……、ホイミ系魔法じゃ
病気は治せないしね……」
ダウドはベッドで眠るモンと、窓の方を交互に見ながら息を漏らす。
いつも元気でおバカなモンも体調を崩してしまい、マキナの
元乳母さんも思う様に中々見つからず……。
「ジャミルさん、あの……、いいですか?」
「ん?あ、ああ、どうぞ……」
部屋のドアをノックし、メイドさんが部屋に入って来た。何やら手紙の
様な物を持っている。
「これ、ジャミルさんに渡して欲しいと……、この手紙を持って
来て下さった方が今ロビーに来ているんです、皆さんにお話が
あるそうで……」
「俺らに……?」
男衆は顔を見合わせた。とにかくロビーに行ってみるしかなかった。
「やあ、又会ったね、来てくれたんだね、あんたの名前はジャミルさんで
お間違いないかな?」
「ああ、確かに俺がそうだけど……、爺さん、確か昨日屋敷で……」
ロビーに行ってみると、待っていたのは初老の白髪の老人。昨日、
屋敷でジャミル達を案内してくれたあの老人だった。
「儂はたまにマキナお嬢さんのお屋敷のお掃除をさせて貰って
おるんだよ、昨日もな、許可は頂いておるが、此方が勝手に
やっている事さ」
「屋敷の……?」
「ああ、お節介なボランティアと言った方がいいかな、とにかくその
手紙に目を通してあげておくれ、君達の友達のアイシャさんから
預かって来たんだよ」
「……アイシャから!?」
ジャミルは急いで手紙の封を開けた。アルベルトとダウドも心配そうに
ジャミルの側へ。……手紙を読んでみると、手紙にはこう書かれていた。
……ジャミル、みんなへ……、ごめんなさい、一日だけの約束
だったけど、私、もう少しマキナさんのお世話がしたいの、迷惑を
掛けちゃうのは分かってるけど……、でも、お願い、このままじゃ
又マキナさんが一人ぼっちになっちゃう……、だからお願いです、
我儘を言っているのは十分承知です、もう少しだけマキナさんの
側にいさせて下さい、……必ず戻ります、……モンちゃんにどうか
宜しく、私は元気だから心配しないでって伝えてね……
「え、延長お……?」
「アイシャ……」
「あいつ……、はあ、やっぱりこうなったか、どうせ一日や
そこらじゃ気が収まんねえとは思ってたけどさ……」
アイシャはどうにか元気らしいが……、逆にモンは体調を崩して
しまっているんである。……早くアイシャが戻って来てくれれば
モンも安心して元気になると思うのだが、事態は大分長引きそう
だった……。男性陣は混乱してきた状況に再び頭を抱えた。
「実はね、儂が此処に来る前の話なんだが……」
昼間、午後15時頃の事……。
「……やあ、調子はどうかね?」
「あっ、お爺さん、こんにちはー!お昼頂いちゃいましたー!とっても
美味しかったです!」
「そうか、お口にあって良かったよ……」
老人は心配して屋敷に様子を見に訪れてくれた。たまたま玄関の門
付近を丁度掃除していたアイシャを見つけ、声を掛ける事が出来たの
だった。だが老人はすっかり汚れてしまっているアイシャの身なりを
見て、これは相当酷くやられたのではないかと心配するが……。
「え?これですか?あはは、朝、ちょっとマキナさんとバトル
しちゃいましてー!でも、面白かったですよ!私もマキナさんも
ホースで水掛け合ってこんなになっちゃいました!」
「……は、はあ?面白かっ……」
「今日は引き分け!お相子だったの!」
「たのか……、どうりでな……」
老人は心配するが、アイシャは笑顔を見せ、楽しそうに笑う。
その無邪気な様子を見る限り彼女はちっとも嫌がっている
素振りも見せず、むしろどんなハプニングもどんとこい
状態だった。
「マキナさん、今お昼ご飯食べてお休み中です、私の作ってくれた
ご飯、美味しいって、お代わりはないのって言ってくれて……、凄く
嬉しかったんです……」
「マキナお嬢さんが……?なんと……」
老人はごく近所の平民だが、近年のマキナの暴走っぷりは嫌と
言うほど知っている。近くに住んでいる為、しょっちゅうマキナの
屋敷から聞こえてくる罵声も怒鳴り声もみんな聞いており知っている。
なので、明らかに我儘マキナに何か心境の変化があった事は定かでは
無かった。……この不思議な少女の出現により……。
「あの、ちょっとお願いしたい事があるんですけど……、
大丈夫でしょうか?」
「ん?儂にかね?いいよ、儂で出来る事なら……、構わないよ?」
「本当ですか!?有り難うございます!!」
そしてアイシャは屋敷に一旦戻った後、暫く立ってから外で
待っている老人に手紙を渡しに又現れる。その手紙が先程
ジャミル達が目を通した手紙だった。
「……と、言う訳なんだよ……、手紙を宿屋に届けて欲しいと
頼まれてな、丁度いてくれて良かったよ、直に君に話も伝える事が
出来たしな……」
「そうだったのか……、いや、爺さん、手間掛けさせちまって
申し訳ねえ……」
「いや、儂はちっとも構わんよ、ジャミルさん、アイシャさんは
本当に屋敷で心から楽しそうに過ごしておるよ、……どうかな?
もう少し様子を見てあげては?」
「う~ん……」
「ジャミル、僕もそう思うよ、モンも今具合があまり良くない
事だし……、もう少しアイシャに時間を与えてあげた方が
いいんじゃないかな……」
「ジャミルう……」
ダウドも側でハラハラしながらジャミルの返答を待っている……。
ジャミルは暫く唸って考え込んでしまっていた……。
「ジャミルさん、わ、私からもお願いします!……あのマキナお嬢様の
心を開くなんて、やっぱりアイシャさんは凄いお嬢さんですよ!!」
話を聞いていたのか、いつの間にかメイドさんまで側に来ていた……。
「……分かった……、じゃあ、爺さん、又手間掛けさせちまって
済まねえけど、俺らが了解したってアイシャに伝えてくれるかい?」
「ああ、勿論だとも!アイシャさんに伝えておくよ!此方こそ
お嬢さんの為に有り難う、本当に感謝するよ!」
「ジャミルさん、有り難うございます!」
メイドさんもジャミルにお礼を言う。老人は急いでアイシャに事を
伝えに屋敷へと戻っていった。……しかし、内心ジャミルの境地は
複雑であった……。老人が宿屋から消えた後……。
「モンの奴……、目覚ましたら寂しがるだろうなあ、アイシャは
夜には戻るって言っちまったから……、具合が余計悪くなんねえと
いいけどよ……」
「仕方が無いよ、モンは僕らでしっかりケアして、側に付いていて
あげよう……」
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編15 悲しきリブドール・2 作家名:流れ者



