zoku勇者 ドラクエⅨ編15 悲しきリブドール・2
「モン……、早く元気になってよお、……頭叩かれるのはちょっと
だけど……、で、でも、早く元気になってくれるなら、少しだけなら……」
「そうだよっ!ワガママ言ってんのもいーかげんにしろっての!少しは
ガマンさせる事も大事っしょっ!デブ座布団のデケー体型してサっ!!」
サンディ、興奮して妖精モードでジャミルの中から飛び出す。
……オメーが言うなとジャミルは思ったんである……。
「ダウド、明日又俺とアルで町を歩き回って見ようと思うんだ、
モンの事その間、頼めるか?」
「うん、オイラは大丈夫だけど、……早く本当に元気になって
欲しいね、モン……」
「……モン、頑張れよ、早く元気になれよ……」
ダウドはベッドで眠っているモンの身体にそっと触れる。ジャミルも
モンに励ます様に声を掛けた。だが、結局その夜はモンは眠ったまま
目を覚まさなかった。アイシャがまだ戻って来ないのも分からないまま……。
「そうですか、ジャミル達が……、お爺さん、本当にどうも有り難う!」
「いやいや、ただ、アイシャさんに呉々も余り無理を無さらん
様にと皆さんが心配していたよ……」
「ええ、分かっています……、でも、ジャミル達が時間を延長して
くれたんだもの、もっと頑張らなくちゃ!」
老人は宿屋での件の事をアイシャに伝えに屋敷に又訪れていた。
だが、余計な心配を掛けてしまう恐れもある為、ジャミルはモンの
体調の事は老人に伝えず伏せていた……。
「では、儂はこれで……、又何かあったらいつでも儂の所を
訪ねておくれ、後、これはいつも心配している事なんだが……、
マキナさんはいつも屋敷で一人で暮らしている、女の子1人
だからな、気には掛かっているんだが……、今日は君もいてくれる、
だが、やはりこんな広い屋敷に女の子2人だけだ、くれぐれも
戸締まりは忘れない様にな……」
「はい、大丈夫でーす!お爺さん、今日は本当に有り難う
ございました!!」
アイシャは老人に挨拶すると、門の扉をしっかり閉め屋敷に
戻っていった。しっかりしたアイシャの姿を見て老人は安心
すると自分も自宅へと戻って行く。……しかし、他にもその様子を
こっそりと覗っていた者がいたのだった……。だが、会話の内容は
聞こえていなかった様だった。
「アニキ、守備の方はどうですかい?俺はもういつでも準備万端、
オッケー、バッチバッチですぜ!そろそろ攻撃に移りますか?」
「おう、俺も色々と此処の町で情報を掴んだ、何でも此処の
お嬢さんは相当な天然ボケらしい、だから誘拐された事なんか
分かんねえよ、ちょちょいのちょいで騙してアジトまでご招待さ
……、それに今日は誰もこの屋敷、人がいねえみたいだ、親は
旅行にでも出掛けたか、丁度いいや……」
屋敷の塀に張り付いて何やら良くない相談を交わしている2人組。
片方は顔をすっぽり覆う角カブトを被った大柄な筋肉質の男。
……そして、もう1人は……。宿屋で働いていたジョーカー帽子を
被ったあの得体の知れない男だった……。この2人は盗賊だったので
ある。数週間前からこの町に張り込み、情報を覗いながら身代金目当てに
密かにマキナ誘拐を企てていたのだった。だが、情報を仕入れていた
割には、マキナの両親はもう屋敷に永久に不在と言う肝心の事実を
知らなかったのである。
「いやあ~、俺も嫌々ながらあの宿屋で働いていた甲斐が
ありましたよ!でも、もうすぐ本当にもうすぐなんですよね……?
ひ、ひひひっ!!」
「だな、いよいよ今夜決行だ、ただ、もう1人メイドの嬢ちゃんが
いる様だが……?」
「あ、どうやら宿屋にここんとこ暫く泊まってる客の連れらしい
ですぜ、何でも聞く処によると、此処のお嬢さんと仲良くなりたくて
手伝いに来てるんだとか……?」
「ほう……?なら、ついでにその嬢ちゃんも一緒に誘拐しちまえば……」
「身代金が2倍ですぜ!アニキーーっ!!」
……悪男達は顔を見合わせて豪快に笑う。……マキナとアイシャに
危機が迫っている……。そうとは知らず……、アイシャは屋敷で
マキナに夕食を作って出していた。
「はい、どうぞ、沢山食べてね!」
「これ、今度はなあに……?」
「シチューよ、ささ、召し上がれ!」
今度アイシャが作ってきたのは緑色をした謎のシチュー……。
それでもマキナは抵抗なく、シチューをもそっと口に入れた。
「ねえ、何であなたは食べないの……?」
「私はいいの、マキナさんに沢山食べて欲しいから!遠慮せず
どうぞどうぞ!!」
「そう、屋敷のコックが作ったシチューはもっと真っ白な色をして
いたけれど……、こっちの方がずっと美味しいわ、……やっぱり変……、
あなたも変よ……」
変なのはマキナの味覚である……。アイシャは自分の作ったシチューを
食べてくれるマキナの姿を見るのが嬉しくて、しばらくの間ニコニコと
それを眺めていた。
「あ、そうだ、すっかり忘れてた、あの、これ……、宿屋にいる
コックさんから預かって来たの、マキナさんにって、マキナさんが
昔好きだったお菓子だって、作ってくれて持たせてくれたの、はい!」
アイシャはコックが持たせてくれたマドレーヌをマキナに差し出す。
しかし、マキナは怪訝そうな顔をする……。
「そうだったかしら、覚えが無いわ、要らない、あなたが
食べたらいいわ……」
「え、ええ?こんなに美味しそうなのに……」
「要らないったら要らないのよ!……こっちの方がずっといいわ!」
マキナは怒って破壊シチューを口にかき込む。アイシャはそれを
見て首を傾げるが、どうやらマドレーヌは頂いていいと言う事
なので、遠慮無く貰う事にした。
「そうですか、じゃあ遠慮無く頂きまーす!うん、美味しーい!!」
「やっぱりあなたって変よ、変な子……」
「ね、ねえ、マキナさん、そろそろ私の事、アイシャ……って、
名前で呼んで欲しいなあ~……、ね……?」
「嫌よ!あなたはどう見ても変な子だわ!変な子!それにあなたと
私はお友達じゃないもの!名前で呼ぶ必要がないわ……」
「そ、そうですよね、……あ、あははは~……」
「ねえ、私、そろそろ眠いわ、出て行ってくれる……?」
「あっ、はい……、じゃあ、ベッド適当にお借りしますね、
食器、又後で下げに来ますね、……おやすみなさい……」
「……」
アイシャは急いでマキナの寝室から出、応接間を後にする……。
その時の彼女の瞳にはキラリと光る物があったが、マキナは
気づく筈も無かった。……アイシャの気持ちも当然に……。
応接間の扉を閉めた後、アイシャは下を向いて大きく息を吐いた。
「……やっぱり……、無理なのかなあ、私じゃ……、……ううんっ!
こんな事ぐらいでメゲるもんですかっ!そうよっ、明日はもっと
もっと頑張るっ!!」
……アイシャは手の甲で流れて来た涙を拭う。そして強く頷き自分に
気合いを入れた。
「2階なら何処か休ませて貰うお部屋があるかしら、でも、お風呂も
お借りしたいわ……、水風呂がいいなあ……」
とてとてと、螺旋階段を上がろうと片足を掛けたその時……。
突然後ろから何者かがアイシャの身体を捕まえ、羽交い
締めに掛かる……。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編15 悲しきリブドール・2 作家名:流れ者



