zoku勇者 ドラクエⅨ編16 悲しきリブドール・3
「ふぇ、……マキナさん、やっと、やっと、私の事、ちゃんと名前で呼んで
くれたんだね……」
「……泣かないのよっ、泣いたらもう絶交するわよ、……いい?其処で
黙って待ってて、今、助けてあげるから……」
「マキナさん……、ありが……とう……」
マウリヤはアイシャに向け、静かに微笑む。そしてアイシャを捕えている
蜘蛛糸をどうにかしようと、彼女の側まで近寄って行った。……直後の
出来事だった……。
「……あ、ああ……、ア……」
「……マキナ……さ……ん……?」
マウリヤはそれきり物言わず静かにその場に倒れる。消えたズオーが
突如現れ、マウリヤをカマイタチでわずか数秒で無残に何回も
身体を切り刻んだ。……地面に倒れた彼女はそのままばったりと……、
動かなくなった。
「……マキナ……さん?」
「……」
アイシャは倒れた彼女に呼び掛ける。だが、マウリヤは全く動かず、
アイシャの言葉に反応しようとしない。それでも尚、マウリヤに
呼び掛けるアイシャの声は……、段々と悲痛涙混じりの叫び声へと……。
「……やだっ!いやあーーっ!こんなの嘘よっ!冗談やめてよっ、
マキナさん、……お願い、ねえ……、私の事、やっと、やっと……、
嫌……だよう……」
アイシャの涙がマウリヤの顔に一滴流れ落ちる。……それでも彼女は反応せず、
動く事は無かった。
「……あ、あああああっ!!絶対……許さないんだからーーっ!!」
アイシャの身体が怒りで熱くなると同時に、テンションが上がり
ミラクルゾーンが発動する。アイシャは自ら自分を拘束している
蜘蛛糸を断ち切る。目の前に立ちはだかるズオーを睨んだ。
……その瞳は悲しみと怒り、涙で濡れていた。
「よくも……」
「下がれ、アイシャっ!!」
「……ジャミル、皆っ!!」
其処に漸く体制を立て直したジャミル達男性陣が突っ込んで来る。
アルベルトの流し切りが決まり、ズオーは又遠くにかっ飛んで行った。
「ジャミル、あいつは又直ぐに戻って来る、今の内に!」
「ああ、アイシャ、大丈夫か!?」
「モォ~ン……」
「……ジャミル、皆……、モンちゃん……、ふぇ……」
モンは心配そうにアイシャにすり寄る。アイシャも久しぶりに皆と
再会出来、涙が溢れそうになったが、今は泣いている場合ではないのは
分かっていた。……涙を必死に堪え、マキナ、……マウリヤの敵を討ち、
ズオーと戦う決意を決めた……。
「アイシャ、お前……、……マキナ……」
ジャミルは倒れているマウリヤ、そして、アイシャの表情を見、すぐに
状況を理解するのだった……。
「大丈夫、MPは残っていないけど、私、戦える、マキナさんが
私に力をくれたの、戦う力を……、マキナさんが私にくれた力を
……無駄にしたくないの!!」
「……本当に大丈夫なんだな?」
「うん!」
出来ればアイシャには無理せずこのまま休んでいて欲しかった。だが、
それを言った処で只でさえ暴走する彼女が大人しくしている筈が無かった。
そして、何より……、ジャミルもアイシャ自身にマウリヤの敵を取らせて
やりたかったのだった。
「ジャミル、急がないと又あいつが戻って来る!」
「……分かってる、サンディ、出て来い……」
「はあ~い……」
ジャミルの言葉にサンディが飛び出す。彼女も只事で無い今回の戦いの
雰囲気を感じ取り、素直に覚悟を決めたのだった。
「モン、お前もだ、サンディと一緒にマキナを……頼む……」
「何処か安全な場所で、僕らがあいつを倒すまで、頼むよ……」
「モン、……ジャミル、アルベルト、分かったモン……」
「了解したヨ、……デブ座布団、行こう……」
「モン……」
モンは倒れたまま動かないマウリヤをじっと見つめた。そして、
悲しそうなアイシャの顔も。和解はしたが、最初はあんなに嫌い
だったマキナ、マウリヤが……、こんな酷い事になってしまい、
モンはどうしていいか分からなくなるのだった……。
「ズォォォォ……」
「わ、わわっ!もう来たよおーーっ!」
「……くそっ、早ええなっ!」
早くもズオーが戻って来た……。ズオー自体も、怒り頂点に達しており、
真面に相手をしてもどうにもならない状態になっているのが感じ取れた。
だが、此処で怯む訳にはいかない。……流石のヘタレも今回は、オイラも
一緒に隠れてまーす!……と、冗談を言える雰囲気ではないのを分かって
おり、諦めていた……。
「ほれっ、サンディ、モン、早く行けっ!……俺らはこっちだっ!!
行くぞっ!!」
「了解っ!!」
「みんな……、マジで頑張ってよ、アンタら負けたら……、アタシ達もモロ
オシマイなんだかんね……」
「モォ~ン……」
ジャミル達4人は……、立ちはだかるズオーを睨む……。例え相手がどんな
強敵であろうと、絶対怯まない、……とにかくしつこい、それがアホ4人組
なのだから。
「いくぞおおーーっ!!覚悟しろーーっ!!クソ蜘蛛ーーっ!!」
「スカラーーっ!!」
ジャミルが剣を構え、ズオーに突っ込んで行く。+アイシャのスカラで
ズオーの守備力を下げる。彼女はMPがもうある訳でなく、魔法5ターン
無制限のミラクルゾーンには限りが有る。短期で決着を付けなければ
ならないが、何せ今回は相手が悪すぎる。いつもの様にやはり簡単には
いかなかった……。
「……ぐ、や、やっぱり……、硬ええっ!」
「そんな……、補助魔法を使っても?も、もう一度……」
「やめろっ、お前は魔法力を攻撃の方に回してくれ!こいつは打撃じゃ
やっぱ……、う、うわ!!」
「……ジャミルっ!きゃ、きゃあーっ!!」
「ああああっ!?」
「うっ、そおおーーっ!!」
「……ズォォォー……」
ズオーは口から蜘蛛糸を放出。4人を拘束する。特にアイシャは……、再び
ズオーに拘束されてしまう事態に……。
「……うあっ!?」
ズオーは拘束した4人を躊躇せず、攻撃し、ダメージを与え、いたぶる。
何度も何度も……。……動けない4人にズオーの猛毒弾攻撃が再び
迫っていた……。
「ちょっとっ!何してんのよっ!こらーーっ!真面目にやれえーーっ!!
こ、このままじゃ、……ホントに負けちゃ……」
「モンーーっ!!」
だが、ズオーは容赦せず……、ジャミル達はサンディとモンの前で
猛毒弾の爆発に巻き込まれた……。
「うそ、うそっしょ、……ねえ……」
「や……、やーモンっ!モンーーっ!!」
「こらっ、デブ座布団っ!アンタが行ったって何にもなんねーって
この前から何回も言ってんでしょッ!!」
「放すモンーーっ!!シャアーーっ!!」
「言う事聞けぇーーっ!……っく、どうしたらいいのヨっ!!」
サンディは錯乱するモンを必死に止めようとするが、彼女自身も皆の
絶体絶命の危機に、一体どうしたらいいのか、分からないでいた……。
「……私が……行く……」
「ヘンテコおジョーさんっ!?」
「……モ、モンっ!?」
モンもサンディも騒然……、倒れている筈のマウリヤがむっくり
起き上がったのである。よく見ると、彼女はズオーにあれだけ身体を
痛めつけられたにも関わらず、傷一つ付いていなかった……。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅨ編16 悲しきリブドール・3 作家名:流れ者



