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その日の夜、そう離れていなかった目的地の近くに到着した一行は、放置された資材置き場のような建物内に潜伏した。
同じく川沿いに構えたそれは、目視しただけではよくわからないが外観は研究所というより工場に近い趣きだ。


「一日情報収集にあてる。明日の夕方、またここに集まろう」


等々力の言葉に、それぞれ散開した。

出来ることなら鳥飼の鳥を飛ばして、ドローンのように上空から建物の様子を探りたいところだが、どこに監視カメラが隠されているかわからない為、無闇に鬼の血を使用することはできない。
よって、情報収集は専ら地道に足と目を使って行うこととなる。

出入り口の数と位置、部屋数、カメラの確認、排出されるゴミ等、案外外からでも得られる情報はある。


とは言っても、方向音痴な等々力に単独行動は不可能であり、鳥目な鳥飼に夜道は危険である。

資材置き場から出ただけで迷子になったり怪我を負いかねない二人は、明るくなってから行動するというのが鬼國隊内での暗黙の了解となっていた。


誰もいなくなった屋内には、段ボールやケースのようなものが乱雑に置かれている。
それらを適当に壁際に寄せて皆が最低限休める環境をつくりながら、鳥飼は口をひらいた。


「なあ、さっきの。身体が軽いってのは、鬼神の力が関係してるのか?」

「いや、違うと思う。」

どこかからか箒を見つけてきた等々力が、埃の溜まった床を掃いては舞い上がるそれらに軽く咳き込みつつ否定した。

「たぶん、お前のおかげだ」

「俺?……あ、これ崩して敷けば横になれるんじゃねえか?」

「良い考えだな、手伝おう」

「何が入ってるんだ?」


段ボールを敷いて寝床を確保する算段を立て、中身をぽいぽいとその辺に放り出して平たく潰す。中にはプラスチック製の小さな部品のようなものが入っていた。毛布のような防寒具でもあれば最高だったのだが。
全員が帰ってくるかはわからない為、とりあえず五つほど段ボールの荷物を崩していく。作業の手を動かしながら、等々力が言葉を続けた。


「羽李のおかげで、眠っても夢を見ないことが増えた」


夢。
先に逝った、背中を預け合った仲間たちの夢。
それは、決してツラい夢ではない。
寧ろその真逆で、現実に戻りたくなくなるほどの、暖かく幸せな時間。

しかし、それではいけない。
志半ばで散っていった彼らから託されたものを、生きている自分たちが繋いでいかなくてはならない。
振り返って、過去に戻りたいなどと甘えたことをぬかしている暇はないのだ。

等々力にとって、安らぐ夢をもたらす睡眠は恐怖だった。
ならば、眠らなければ良い。どうせ眠らずとも肉体の疲労は回復する。
そう思って、極力睡眠をとらないようにしていた。

しかし。


「…確かにお前、寝ることが増えたよな。」

鳥飼が思い返すようにそう呟く。
滅多に目にすることのなかった等々力の寝顔を見る機会が増えた。そしてその理由に思考を巡らせて、「あ」と顔を上げた。

「……俺か」

「そういうことだ」


彼らしからぬ間の抜けた声に、等々力はくすりと笑う。

肌を重ねたあと、等々力はなし崩しに眠ってしまうことが多く、そのときには夢を見ることもなく爆睡できているのだった。
初めはつい寝落ちしてしまったことに対して焦燥感のようなものを覚えて起きていたが、今では安心して意識を手放している。


「鬼の再生力に頼らず、しっかり身体を休めるということは存外重要らしい」

「それは一理ありそうだけど……よく恥ずかしげもなく言えるな」


自身の好調の理由が鳥飼にあることに対して礼を述べる為に話したわけだが、改ってそこを指摘されると言葉に詰まってしまう。
そう言われてみれば、恥ずかしいことを口走っている気がする。
貴方と性行為をすると夢も見ないくらいよく眠れますと、正面切って言っているようなものなのだから。

五つ目の段ボールを潰し終えて床に敷いた等々力が、しゃがんだ姿勢のまま鳥飼を見遣ると、彼は赤面した顔を必死に明後日の方へと背けていた。
そんな相手の様子が可愛らしくて、己に対する羞恥心などどうでもよくなる。


「実際に有難いと思っているからな。…なんで羽李が照れるんだ」

「だって…思い出すだろうが…。気ぃ飛ばすくらい、颯が気持ち良くなってるとこ…」


真っ赤になって口元を片手で覆って隠しながらそういうことを言われると、さすがに熱が移る。


「……、」

激しく揺さぶられて劣情を追いかける感覚が腹の奥に思い起こされて、じわりと甘く疼いた。

「…まずいな」

「ああ、かなりまずい」


等々力が神妙な面持ちで呟き、平たい段ボールの上に正座をして座りなおすと、鳥飼も向き合うようにして同じく正座をする。

互いにやや背を丸めているこの状態は、同様の生理現象が引き起こされているということに他ならないわけで。


「…颯」

「駄目だ」


呼びかけに対し、問答無用に切り返す。
いつ誰が戻ってくるかもわからない中、下半身を露出するような真似はできない。


作品名:加減 作家名:緋鴉