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天空天河 十一

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 この命懸けの行いは、たった一人か、または二人程だろうか。
 それ程、銭に余裕のある人物でもなさそうだ。
 長い時間を掛けて、荒れ果てた林府をここ迄綺麗にしたのだ。

 長蘇は人の心の機微を感じて、心が温まる。

 長蘇は竹簡を眺め、眉を顰めた。

 そもそも価値のある物は、林家から全て没収され、何処かの貴族か、文官の手元にあるだろう。
 長蘇の目の前の机の上にのせられた竹簡は、林殊が幼い頃に、祁王が書写したのをもらった物や、一時期、竹簡に嵌った林殊が、自分で書写した物ばかりだった。

「う〜む、、、、頑張りは認める。
 認めるが、、、並び順が違う。」

 字、そのものが違うので、祁王が書いた物と、林殊の物は混ざらなかったが。
 竹簡の順番がバラバラで、書かれた物は意味を成さなかった。

「う、、、む、、、。
 こちらの竹簡が、こちらに繋がれている。 
 ああ、、これは、、ここまでは良いが、ここから後ろは、別の物が繋がって、、、。」

 殆どの竹簡の、並びがおかしい。

「、、、、、嘘だろ、、全部ばらさないと、正しく並べられないじゃないか。」

 一本の竹簡の内容を見ても、数本を並べ直しただけでは、辻褄が合わないのだ。
 恐らく、この竹簡だけでも、五〜六本の竹簡の内容が混ざり合っていた。
 机の上の物だけでは無く、棚に片付けられた物を合わせると、二〜三十本はある。

 想像以上の事態に、言葉が出なくて、口を手で覆い、考え込んだ。

 だがこの竹簡を、一本一本拾い、一本一本修繕した志を思うと、ただ捨て置くこともできないのだった。

「しかも命懸けで林府に来て、こうして綺麗にしてくれたのだ。」

 長蘇は、幾度か机の上の竹簡と、棚の上の竹簡を、何度か見て、唸った。

 意外と、、、いやかなり手間がかかるのは、間違いがない。
 一本一本、綴じ糸から外して、並べ替えるかと思うと、軽く『やる』とは、言えなかった。

 たが、
「、、気持ちが悪い。」
のだった。

 賢人の言葉が全く意味をなさない。
 前後が逆なのはまだ良い。
 殆どが、簡が数本ずつ寄せ集められ、一本の竹簡になっている。

 こんな状態の物が、存在している事さえ許せない。

 自分で書き写し、作った竹簡なのだ。(本物なぞ、若い林殊には、手に入れられる訳が無い)
 数十年の刻が流れ、誰かにこれらを見つけられた時、この竹簡が、林殊が作った物だと知られた時、、、、

『林殊とは、何と愚かな者だったのだろう』
と、思われては後世の恥だ。
 内容は一言一句、全て頭に入っているが、全ての糸を外して、組み直すのに、どれ程の手間がかかるだろうか。


 「、、、まぁ、、、、」
 暫く考え込み、長蘇がぽつりと言った。

「刻はあるのだ、やれなくはない、、だろう。」

 そう言うと、飛流を見た。

「飛流、そこの棚の上竹簡を、全部、ここに持ってきてくれ、。」

「云。」
 飛流は頷くと、棚を指差した。

 ふわりと棚の上の竹簡が浮き上がり、長蘇の前まで飛んでくると、机の上に重なり、竹簡の山が出来上がった。


「飛流!!!。」
 長蘇が飛流の名を呼んだ。
 飛流が不思議そうな顔をして、長蘇を見た。

「そうか、その手があったか。
 手作業でやる事は無いのだ。
 これは、飛流に良い事を教わった。」

 長蘇は、机の上の竹簡を一つ取り、目の前で開いた。
 そして広げられた竹簡を強く見つめ、自分の『魔』力で宙に浮かべる。

 懸鏡司から靖王府に移り、養生していた時、一人でいる時は、暇つぶしに、自分に宿ってしまった『魔』力で、遊んでいた。
 飛流に、長蘇の中の『魔』力を整えてもらったおかげで、長蘇自身も『魔』を動かせる様になった。
 初めはもどかしかったが、少しずつ『こつ』を飲み込んでいった。

 今、長蘇の中の『魔』力は飛流のもの。
 夏江の『魔』よりも扱い易い。

 長蘇は、竹簡に手を翳して、念じた。

「、、、む、、、ん、、、。」

 竹簡は、かたかたと暫く震えていただけだったが、『ばん』という音と共に、ばらばらになった簡が、四方に飛び散った。

「あ!!。
 、、、、、何て力加減の難しい。
 、、、、飛流、拾ってくれ。」

 飛流が、くい、とあごを動かすと、飛び散った簡は、机の上に集まった。

「く〜〜〜〜ッ飛流、上手いもんだな。」

 長蘇は褒めたつもりだが、飛流は眉一つ動かさない。
 飛流は、長蘇が褒めれば、少しは嬉しそうにするのだが、ここに居るのは髪の毛の飛流だからか、表情は乏しい。


「練習用は、山程もある。」
 長蘇はそう言うと、別の竹簡を目の前に、広げた。

「、、、む、、、、、ん、、、。」


 カタカタカタカタ




     ばん!!


「あ────!!!!。」

 飛流が顎を動かし、さっと掻き集める。



 そんな事を、十数本程も続けただろうか。

 突然長蘇は、力の加減が出来るようになり、簡を派手に撒き散らすことはなくなった。

 長蘇の目の前の宙(くう)に浮かんだ竹簡は安定していて、『チッ』という小さな音がして、竹簡を繋ぐ糸が、青い炎と共に消え去った。
 そして長蘇が手を翳すと、静かに机の上に整然と置かれた。

 綺麗に置かれた竹簡に、長蘇は満足し、にやりと口角が上がる。


 次の竹簡からは、長蘇は思い通りに扱うことができ、満足していた。
 机の上だけでは、ばらした竹簡を置ききれず、床にも並べた。

 竹簡全部の糸を消し去り、全て、机上と床の上に並べられた。

 祁王に貰った物は、机の上に。
 その他は床の上に。

「、、、。」

 長蘇がばらばにした竹簡をじっと見つめると、す─ッと数本が浮かび上がり、一本ずつ順番に並んで宙に浮いていた。
 程なく、竹製書簡の一本分が並び上がった。
 そしてそっと、そのまま机の上にす─っと置かれた。

「、、、ふぅ、、。
 案外、この作業は疲れるな。」
 深呼吸を幾度も行い、頭と体の興奮を落ち着ける。

「疲れるが、まだ覚えているうちに、感覚を叩き込みたい。」
 暫く呼吸を落ち着けていたが、長蘇は気持ちを決めて、次の竹簡に取り掛かった。

 次の竹簡は順調に仕上がった。

「飛流、どうだ?。」
 嬉しそうに飛流に聞くが、飛流は無表情に、少し頷くだけだった。
 長蘇は飛流の反応を物足りなく思ったが、『髪の毛の飛流ならば』と仕方なく思った。

『こつ』が分かった所で、『もう一本』、と、長蘇は机の上の竹簡を睨んだ。




 髪の毛の飛流は、何かに呼ばれた気がして、外を見た。

 そしてふと、小高くなった楠木の梢に立って、遠くを見た。

 靖王と共に、金陵から出た飛流が、金陵に残った長蘇を心配をしているのが伝わってくる。

『主は大丈夫か』と問うている様にも。

 何とも答えようが無かったが、長蘇のありのままを飛流に教えた。

 長蘇は、五本、組み直した所で疲れ切り、床に大の字で転がっていた。

 飛流が長蘇に分け与えた『魔』力が、乱れているのを感じているのだろう。

 靖王と共にいる飛流が、今、長蘇の側に居られない事を悔しがっている。
作品名:天空天河 十一 作家名:古槍ノ標