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甲斐性と雨宿りしたら・続

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ごしゃ、と耳のすぐ近くで何か固いものがひしゃげる音がして、己の頭部が潰れたのだと理解するのに数秒を要した。

斬られた…?
う、嘘だ有り得ない。俺の身体は刃も滑る粘膜に覆われている。斬れるわけがない…


自らに起こった事象を受け入れることができない鬼の欠けていく視界に、煉獄が手に持つ日輪刀の青みがかった刃紋が映った。


「その刀…昨日のっ…」


そこまで言いかけると、閉じていた隻眼の瞼をうっすら持ち上げて煉獄が鬼を見下ろす。
その鮮やかな紅色の瞳には、明らかな軽蔑の色が滲んでいた。


「…お喋りな鬼だ。独り言が喧しいな」


独り言ではなくて思いきり話しかけていたつもりだった鬼は返す言葉もなく、何故斬られたのかもわからないまま、肉体を霧散させて消滅した。


残心をとって鬼が完全に消えたことを確認し、煉獄は細く息を吐く。
青い波紋の日輪刀を胸の高さに持ち上げ、黙祷を捧げるように目を閉じた。


「…鬼は倒した。君たちのおかげだ」


その後鎹鴉を経由して隠を呼び、鞘のない日輪刀を預けた。
名も知らない隊士の遺品であるが、どうか彼や彼女を知る誰かのもとに、その生き様を届けてもらえるようにと。

仇を討つという意味を込めて刀は借りたが、刀身が血鬼術のぬめりを帯びてしまうという事態を回避するためでもあった。
一刀のもとに臥すことができなかったとしても、第二の刃で頸を落とせば良い。そう思っていた。


あの鬼は、何故滑ることなく刃が皮膚を通ったのかわからないまま消滅したが、簡単なことだ。
油のように滑る肌。滑りというものは摩擦から生じる。摩擦力が強ければ強いほど、その滑りは強く作用する。
しかし転じて、摩擦が皆無であれば滑りようがないということだ。
肌に対して垂直に刃を押し付け、前後に引いてしまわないよう注意を払いつつ押し込んでいく。要は力づくだった。

先制攻撃を許してしまえば、防ぐために刀を振るわなくてはならない。一度でも相手に触れればその刀は使いものにならなくなると考えれば、こちらが先手を打つという選択が妥当だろう。

言うが易し、ではあるが、多少力加減に困難をきたしている今の煉獄にしてみれば、力任せの殴るような一撃は有り余った体力を発散するのにちょうど良かった。


「…さて」


心なしかすっきりした面持ちの煉獄は、短く呟くと羽織を翻して帰路に着いた。


+++


…来ている。

よく知った気配を感じながら、屋敷の敷居を跨いで帰宅する。
夜中ということもあり、普段すぐに出迎えに出てきてくれる千寿郎も眠っているようで、屋敷の中は静まり返っていた。

極力音を立てないよう配慮しつつ廊下を歩き、自室の前まで来ると煉獄は足を止めた。
廊下は庭に面していて、青白い月光がこちらの足元を冷たく照らしている。
鍛錬用に広い範囲で慣らした地面を挟んで、塀沿いに並ぶ木々のうち一本。その上の方に赤っぽい頭を見つけた。


「遅くなってすまない」


声をかけると、月を見上げていたらしい頭がくるりとこちらを振り返り、猗窩座が金色の双眸を細めて笑う。


「任務でもあったか?」

「まあ、そんなところだ」


大して太くもない枝から飛び降り、こちらに歩いてくる猗窩座に首肯を返す。
先に障子を開け放ち自室に入ると、猗窩座も裸足の裏を手でぱんぱんと軽くはたいてから廊下に上がり、ついてきた。…こういうところに気を遣うあたり微笑ましく感じてしまう。


「そうだ杏寿郎。弟がお前に握り飯を用意していたぞ」

「ほう、それは有り難い!」

「少し待っていろ」


つい元気よく反応してしまうと、猗窩座は苦笑して踵を返し廊下を曲がっていった。
恐らく台所に取りに行ってくれているのだろう。待っている間に煉獄は羽織を肩から落として刀を腰から外し、隊服の上着を脱いだ。軽装となったことで随分と気持ちが解放された心地がする。
シャツのボタンを二つほど外し、襟ぐりに余裕を持たせてひと息ついたところで、猗窩座が盆を片手に戻ってきた。


「湯が沸くのに時間が」

こちらの姿を認めるなり、言葉を途中で不自然にぶち切った猗窩座を見遣る。袖を適当に捲っていた煉獄と目が合うと、慌てて手元の盆に視線を落としていた。

「……」

「…どうした」

「…何を言おうとしていたか忘れた」

「はっはっは、鬼でもそんなことがあるんだな!」


煉獄が笑い飛ばして胡座をかくと、猗窩座はその正面に盆を置いて自身も座った。
特大のおむすびが二つ。千寿郎はいつも、己の手の大きさを超えるサイズの握り飯を、兄のためにと常に用意しておいてくれている。塩加減も固さも、すべて煉獄の好みだ。

そのひとつに手を伸ばしたこちらを見て、猗窩座はああそうだと思い出したように言い、湯呑みを指で指し示した。


「湯が沸くのに時間がかかりそうだったから、水にした」

「いや、十分だ。ありがとう」


素直に礼を述べると猗窩座は小さく笑い、ひらいた膝に肘を乗せて頬杖をつき、穏やかな面持ちでこちらを眺める。


「体調はどうだ?」

「問題ない。昨夜は世話になった」


その後、煉獄が握り飯を頬張ると「うまい」の連呼がはじまった。
食べ進める煉獄と、それを見守る猗窩座という光景がしばらく続く。食事中の煉獄はすべての一口を全力で味わっていて忙しいという特性を理解した猗窩座は、いただきますからご馳走様の間は口を閉ざしているのだった。


作品名:甲斐性と雨宿りしたら・続 作家名:緋鴉