五条悟が苦悩しながらも青春を謳歌し大団円を迎える話:黎明前編
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傑と硝子を連れて、歌姫と冥さんが行方不明になった洋館までやってきた。
「さてと、どうしたもんか──めんどくせぇから外側からぶっ壊すか?」
『悟、あなたのオツムはスカスカなの? 帳も下ろさずに洋館を外側から壊したらどんな事になるか──』
間髪入れずに脳内のそよかが小言を口にする。
俺はハッとなった。自分たちで帳を下ろすからと補助監督を置いてきた事を思い出す。
「悟? どうかしたのか?」
俺の動きが止まったことに気付いた傑が声をかけてきた。
「いや、帳を下ろしてなかったなと思って」
傑は少しだけ驚いた表情をする。
「なんだよ、その顔」
「確かにその通りだ。なぜか俺は帳を下ろさずに悟が洋館を壊してしまうものと思っていたから──」
「なんだよそれ、失礼な奴だな」
「まったくもってその通りだ。申し訳ない。
硝子に頼もうか?」
傑が少し離れたところにいる硝子に声をかけるのを、俺はぼんやりと見ていた。
せいら、そよかと一緒にいる時間が長いからか度々あの双子のイメージが無意識に浮かんでくる。
「──なんなんだよ」
しかし不思議と悪い気はしなかった。
「あいつらも今頃頑張ってるのかな……」
青空を見上げる俺、遠くにいる二人のことを考えていると、
「悟!」
傑から声がかかり意識を戻す。
「へいへい。それじゃあいっちょぶっ壊しますか!」
硝子が下ろした帳の中で、俺は存分に呪力を使った。
「やれば出来るじゃないか」
夜蛾──先生が渋い顔で言う。
「センセーなんでそんな渋い顔してるんですかー?」
「どこかの誰かが帳は自分たちで下ろすからと、補助監督を置いていったからだ! 誰だ! そんなことを言ったのは!」
左右にいる硝子と傑から指を刺される俺。
「犯人探しは良くないと思いまーす!」
「今回は大事にならなかったから良かったが、決められたルールを勝手に変えようとするな」
はぁと深いため息をついて、眉間の皺が更に深くなる。
「たっだいまー! おはようみんなー!」
バーンと教室のドアを開けてせいらが入ってきた。
「先生、遅くなりすみません」
「いや、深夜までの任務ご苦労だったな。席に座りなさい」
自分の席に優雅に着席する二人を横目に。
「センセー、遅刻した二人に甘くないですかー?」
「お前は……人の話を聞いとらんのか。二人は深夜まで任務を遂行し明け方帰ってきたんだ。休んでいいと言ったのにわざわざ登校してきているんだぞ」
せいらはいつもより眠たそうにしているが、そよかは普段通り涼しい顔をしている。休めって言われたんなら休めばいいのに──。
「別にあなたに会うために登校したわけではないわ」
視線も向けずにそよかは俺にしか聞こえないぐらいの声量で言葉を口にする。むっとする俺に、
「みんなに会いたかったんだよ〜」
せいらの気の抜けた発言に、先生すらふと微笑んでいた。
休み時間。机に座ってぼんやりしているとそよかがやってきた。
「悟、聞いたわ。帳も下ろさずに洋館を呪力で壊そうとしたって」
「してねーよ。直前でちゃんと気付いた」
「……あなたのおつむがスカスカではないかと、常々心配していたけど杞憂だったようね。偉いわ」
そよかがすっと俺の頭に手を伸ばす。
ふわりと優しくそよかの手が俺の頭の上に置かれ「偉い偉い」と頭を撫でられる。
──はぁ!? 何子供扱いしてんだよ! 俺は──……まぁいいか。
「ふふふ。さとる嬉しそう」
近寄ってきたせいらが俺の顔を覗き込む。
「べ、別に特別嬉しいわけでもねーし!」
「嬉しいには嬉しいんだね」
あははとせいらが笑う。そよかもふと微笑んでみせる。陽だまりの中にいるような心地よい時間。
──同時に一人教室で、机の上に座る自分のイメージが流れ込んできた。
作品名:五条悟が苦悩しながらも青春を謳歌し大団円を迎える話:黎明前編 作家名:ますだ



