五条悟が苦悩しながらも青春を謳歌し大団円を迎える話:黎明前編
●9
ホテルに入る直前、せいらが急に立ち止まった。
「どうした?」
「すぐる! 髪の毛にゴミがついてるよ? かがんでー?」
なにもこんな時にと思ったが、少し屈んでみせる。せいらの手が頭に触れた。
『尾行されてるよ。このまま死角に入って帳を下ろそう』
「とれたみたい」
にこりとせいらが微笑む。
『腹話術だよ。口の動きで話してる内容がバレちゃうからね』
「さ、早くいこ!」
なるほど、既に高専の動きが読まれていたか──せいらとの初めての任務が、こんなにも心強いものになるとは思っていなかった。
携帯が着信する──相手は悟だ。
あぁ、いるな。俺たちの近くに一人、傑たちの側に一人。ついでに遠巻きに俺たちを気にしてる奴らがちらほら。ホテル内に爆破系の呪霊が数えきれないほど徘徊してるな。
傑の携帯に発信すると直ぐに繋がる。
「──傑、聞こえるか?」
『あぁ、聞こえるよ』
六眼で見た内容を知らせた。
『ちょうどせいらにも教えてもらったところだ』
ちらりと俺を膝枕しているそよかを見る。両目を閉じて意識を集中していた。硝子ほどではないが、反転術式の基礎が出来ていると感心させるほどの腕前だ。
「そっちはそっち、こっちはこっちで片付ける。OK?」
『あぁ、問題ない。スマートにいこう』
悟との通話を終えて、携帯をしまいながら移動する。
「お待たせ」
曲がり角で待っていたせいらと合流した。手短に状況を伝える。
「帳を下ろそうと思うけどいい?」
「そうだね。そうしよう」
せいらがふわりと両手を広げて術式詠唱をはじめた。
「帳よ、帳ここにおいで。穢れを祓うわたしを見守って」
まるで子供にお伽話でも聞かせるように、せいらの優しい声が耳に届く。初めて聞く帳の術式詠唱だった。
ぽんと小気味良い音を立てて一羽の鴉が出現する。
「カァ! せいらサマ! オヨビデスカ?」
差し出したせいらの腕にとまる鴉。
「クロちゃん! 少し離れたところで、このあたりに大きめの帳をお願いね」
「カシコマリマシタ!」
バサバサと翼を広げて鴉が飛び立ち。窓から外に羽ばたいていった。
「さ、行こ!」
「あ、あぁ。──今のは?」
「そよかの作った試作中の帳の術式だよ。夜蛾先生が実地で使っていいって」
にこにことせいらは答える。ほどなくして周囲は帳に包まれた。
「驚いたな帳の発生起点と発動タイミングをあえてずらしたのか」
──さっきまでこちらを窺っていた気配が遠ざかっていくのを感じる。私たちの向かう先を誤認出来たかもしれない。ともあれ、急いだ方がいいな──歩みを早めるが、せいらは自然に合わせてくれた。
「そうなの。尾行してる人もきっと驚いてるよね」
「そよかのアイデアなのかい?」
「うん? あ、そういえば今ね、高専に臨時の先生が来てて。その人が、いろいろ面白いこと試してるんだ──そよかとよく遊びに行ってるんだよ。美味しいおはぎとかお茶もご馳走してくれてさ〜」
「──それは初耳だ」
詳しく聞き返そうとしたところで、
「あ、この部屋だよね?」
せいらが口を開く。部屋番号を確認する。間違いない。
部屋に入るとメイド姿の女性に案内される。
「──随分時間がかかったのう……いかにも妾が星漿体、天内理子じゃ。護衛の任、心して務めよ!」
机の上に片足をのせて胸を張る女子高生。
なぜだかせいらは「わー」と喜んでる。何か指摘するのも馬鹿らしくなって、自己紹介をした。
「私は夏油傑、こちらは」
「せいらだよ!」
「ふむ。夏油傑に夏油せいらか、その歳で結婚? 兄妹か何かなのか?」
「ち、ちがうよー!」
せいらが真っ赤になって訂正している。何か微笑ましくて、急がないとと頭の片隅で思いつつふと微笑んでしまった。
●10
ピクリとせいらが反応する。同時に着信──おそらく悟だ。
「伏せて!」
せいらが星漿体に飛びかかった。
「な、なんじゃなんじゃ!?」
伏せる星漿体に覆い被さるせいら、そのまま二人を丸々と呪霊で囲う。この部屋にはもう一人……メイド姿の女性と視線が合い、近付いて伏せさせると同時に呪霊で覆った。
ドンという爆音と共に衝撃が伝わってくる。
状況を確認する為に呪霊を解いた。メイド服姿の女性には「隠れていてください」と声をかけ、
「なんじゃーーーぁぁぁ!!」
慌てた様子の星漿体の声が空に響いた。自動防御の術式が暴走している? 星漿体の身体が見えない何かに引っ張られるようにベランダから外に投げ出された。攻撃してきた対象から、安全のために距離を取る条件設定が甘かったのか──今はそれどころではない。
「りこちゃん!」
せいらは自分の意思で理子を追って身を投げ出す。
彼女が落下する対象をどうこう出来るか情報が不足していた。それならと俺も二人を追う。
せいらが星漿体の頭を抱きしめて落下している姿を目視した。落下の衝撃を吸収できる呪霊を、その後に三人が乗れる飛行呪霊を呼び出す。
「すぐる! ありがとう!」
「まったく無茶をする。でも帳が下りていたから助かったよ。使う呪霊の大きさを気にしなくていいからね」
星漿体の無事をチラリと確認する。まだ驚いて目を白黒させているような状態だが──半壊した部屋に視線を向けるとQの構成員らしき男と視線が合う。
「ガキを渡せ! 殺すぞ」
「聞こえないなぁ、もっと近くでしゃべってくれ」
「おー。おー。派手にやるねー」
爆音と共に聞こえた俺の声に反応して、反転術式に集中しているそよかが目を閉じたまま俺の髪の毛を掴んできた。
「いでで! やめろよ。ちゃんと無事だって!
──こっちにもお客さんだ」
俺たちに投げられた無数のナイフが、無下限呪術によって防がれる。
「素晴らしい。君、五条悟だな。有名人だ。強いんだってねぇ、噂が本当か確かめさせてくれよ」
「ナイフ投げてから聞くことじゃねぇだろうが。そよか、俺から離れんなよ」
「わかったわ」
背中側からまわされるそよかの手。密着する身体、胸の膨らみがダイレクトに押し当てられた。
「あなたの無下限呪術の負荷を下げるには、とにかく密着するしかないわ。私を背中に背負った荷物だと思って集中して」
情けない声を上げそうになって、ぐっと歯を食い縛る。そよかはご丁寧に呪力を使ったおんぶ紐のようなものまで用意をしていた。
「お前、何笑ってんだよ──」
目の前のニヤケ顔のQの構成員に怒りの矛先を向ける。女子高生とのイチャイチャがそんなに面白いのか?
「ルールを決めようぜ? 泣いて謝るなら命だけは取らないでやるよ」
「クソガキが!」
作品名:五条悟が苦悩しながらも青春を謳歌し大団円を迎える話:黎明前編 作家名:ますだ



