②五条悟が苦悩しながらも青春を謳歌し大団円を迎える話:黎明後
●18
「──悟? 本当に眠らないつもり?」
沖縄での夜、浴衣に着替えたそよかが声をかけてきた。
「俺が寝たら術式が解けるだろ……せめてお前らだけでも少しは休めよ」
「そうね。でも、あなたも少しは横になったら?」
ベッドの上に座り、自分の太もものあたりをぽんぽんとたたいてみせる。
「……」
ごろりとそよかの膝に頭をのせると、反転術式を展開しはじめる。ショートしかけてる頭が、ひんやりと冷やされるような心地良さを感じた。
「目を閉じて横になっていれば多少は身体も休まるわ。寝息に変わるようなら鼻を摘んで起こしてあげる」
俺の顔を覗き込み、いたずらっぽく微笑むそよか。
「どうせなら……」
ごにょごにょと言い淀む。
「何よ?」
耳を近付けてきたそよかの耳元で、
「キスして起こせばいいだろ」
「十年早い!」
べしりと額を叩かれる。
「十年!? 五年かせめて二年ぐらいにならないか?」
「……考えておくわ」
しばらくの静寂。
「──悟、どんなことにも理由があるのよ」
「うん? あぁ……」
「どうして理子さんの懸賞金に時間制限があるのか、本来なら同化の直前まで機会を窺ってもおかしくはないでしょ?」
「そうだな。確かに……」
「ありのままに受け入れるのではなく、どうしてそうなのかをよく考えて──」
そよかに優しく頭を撫でられる。
懐かしい感覚だった。
男はさっき手にしていた刀とは違う刀を手にしている。そして身体に巻き付いている妙な形の呪霊。
「懸賞金目当ての追手……じゃあねぇな。あんたが親玉か」
「ほぅ? 飼い殺された能力ばかりのぼんぼんにしては、ちったぁ頭がまわるようだな」
男はにやりと笑って、得意げにネタバラシを始めた。そよかの言っていたなぜそうなるのかが、ここではっきりとわかる。ともすれば、俺が油断したり何かの理由で術式が切れることを予想して、そよかはずっと俺の背後にいたわけだ。
「なんだその──苦虫でも噛み潰したような顔は。
安心しろ、すぐに終わらせてやるよ──」
男は大胆に切り込んできた。容易に近づけさせるか! 呪力で男を押し返す。
考えろ、考えろ、この男の思考を──何を狙ってる。何を知っていて、何が出来るのかを!
じりじりと暑い夏の日。俺は外で遊びたかったけど、そよかに連れられて家の図書室で勉強することになった。
「悟、起きなさい」
開始数分、眠りについた俺の頭を本で叩く。
「勉強なんてしたって無駄じゃん。俺、最強なんだし」
「馬鹿ね。ホント馬鹿」
大きなため息をついてそよかは言う。
「はぁ!?」
「ただの天才と、努力した天才ならどっちが勝つと思うの?」
「なんだよそれ、ただの天才と努力した天才だって?」
「同じ天才なら、少しでも何か多く行動した方、知恵を深めた方、ほんの少しの経験ですら勝敗を分けるのよ。
最強だからと胡座をかいていたら、いつかその油断で命を落とすわよ──」
激しい戦闘が続いた。俺は目の前の男に勝たなければならない。勝たなければ、みんなが危険に晒される。
焦燥。そよかは常に冷静でいろと言っていた。
その事すら、その時の俺は忘れてしまっていた。
周囲の建物を『蒼』で薙ぎ払うと、男の気配も呪霊の気配も見失った。森に隠れているのか、大量の飛行呪霊が羽音を立てて森から俺の周囲に飛来してくる。
作品名:②五条悟が苦悩しながらも青春を謳歌し大団円を迎える話:黎明後 作家名:ますだ



