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②五条悟が苦悩しながらも青春を謳歌し大団円を迎える話:黎明後

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●20

 生まれて何も俺は持たなかった。
 それはそれで別にいい。期待することもなければ、絶望することもない。出来ることをやって、そこそこ楽しめればそれでいいと思っていた。
 禅院家に居場所はなく、その内に穀潰しだと追い出された。
 そんなもんだと思っていた。何もかも面倒で、煩わしい。そういうことから離れて生きることは楽だなと感じるほどに。

 そんな無意味な日々を送っていると、一人の女に出会った。変わった女だった。こんな俺の手をしっかりと掴んでくれた。

 生まれて初めて手にした確かなもの。失いたくないなんて、柄にもないことを考える日々が続いた。
 その後、息子を一人授かって、あいつも喜んでいたから俺も初めて父親ってやつを意識したんだ。


 なんてことのない仕事。
 人を一人殺すなんて、俺にとっては造作もない。
 五条家のぼんを相手にするには骨が折れたが、これまでの経験と知識が役に立って倒すことが出来た。

 ──呪霊から拳銃を取り出し、天内理子の頭に狙いをつける。
 ぞくりと寒気がした。内臓をいきなり掴まれたような感覚、俺に向けた明確な殺意だ。
「あ、本当に動きが止まった。やっぱりやる気だったんですね~。でもやめましょうよ。不意打ちなんて」
 なんとも気の抜けた声だった。高専の制服、腰に刀を下げている。しかし、殺意は間違いなくその男から発せられたものだとわかった。拳銃を向けて発砲する。視界から消えた!?
「危ないなぁ。でも拳銃って不便ですよねー。避けられやすいし、こうして近付くと撃ちにくいし」
 背後から刀が首にあてられていた。
「灰原? 東京の空港で分かれたのに……」
「なんか心配で来ちゃいました! お疲れ様です!」
 呪霊操術使いの呼び出した呪霊が、天内理子を守るように前に出る。肉の壁のように広がったその影の中に──先ほど殺せなかった女がいた。
「あなた、伏黒甚爾ね。私を殺さなかったのは、まだ呪霊に取り込まれた奥さんを助けたいと思っているからかしら?」
 ──記憶力のいい女だ。俺が五条家に泣きついた時のことを覚えていたな?
「わかったわかった。降参だ」
 足元に銃を落として両手を上げる。
「夏油さん! この人拘束しといた方がいいですよ!」
「あぁ、そうしよう」
 呪霊操術使いが一体の呪霊を指先で招く。
 そいつは地を這うように近づき、俺の身体に巻き付き拘束しようとした──が。

『拘束は不要よ』
 どこからか声がした。薨星宮に続く複雑な構造の空中に椅子にでも腰掛けるような様子で、こちらを見据える女がいた。白い着物を身に纏った、白い百合の花のような美しい女だ。
「……誰だ?」
『天元の代弁者、とでも思ってくれればいいわ』
 呪霊は俺の身体から離れ、ゆっくりと戻っていく。
『星漿体と天元との同化は行わない事にしたのね。
天元も選ばれし未来に賭けると言っているわ。
星漿体との同化は中止──良いでしょう』
 女はゆっくりと天内理子へと視線を向ける。
『天内理子』
「はいぃ!」
『あなたには、これから“天元の眼”として生きてもらえないかしら? 同化ではなく、天元の認識と記憶を補う“外部の視座”として。年に数日、拘束される時間は生まれるけれど──それでも構わない?』
「勿体ないお言葉です」
 深々と頭を下げていた。
『……よろしい。では告げましょう』
 女は一瞬、異なる何かの気配を纏い、声の調子が変わる。
『天内理子の殺害は、天元に仇なす大罪とする。今後この決定を覆す意志を持つ者には、我らの全力をもって対処する』