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涙の海に溺れた

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 独立宣言が発表されたのは、第二次大陸会議でのこと。開催された都市の名は、フィラデルフィア。古代ギリシア語で、?兄弟愛の市?を意味するという。
 戦争は終わり、かつて兄弟だった二人の道は別たれた。懐古主義のイギリスは、それでもきっと何時までも幼いアメリカを思い続けるだろう。もう二度と会うことのない、この世の何処にも居はしない、幸福の象徴を。
「容赦ねぇなお前。泣かせただけじゃ、まだ気が済まないってわけか」
 イギリスはアメリカを、それはそれは大切に育てて来た。溢れる程の愛情は、いつだってたった一人に注がれていた。だが、その結果が、これだ。自らアメリカの独立を協力しておいて何だか、イギリスを憐れだと思う気持ちも無いわけではない。
「ねぇフランス、知ってたかい?」
 だが当のアメリカは、相変わらず会話の前後を丸無視した台詞を返して来た。フランスには、「何をだよ」と疑問を返すしかない。
「俺、イギリスのことが好きなんだよ。嫌いになったことなんて、一度も無かった」
 アッサリと与えられた答えは、フランスにとって実に衝撃的なものだった。それを聞いたのがイギリスだったら、混乱のあまり発狂したかも知れない。だが、一体それを誰が責められるだろう。アメリカは、イギリスが嫌いだから今回の独立を決意したのではなかったのか。
「しかも、兄弟としてじゃ、なくてだよ」
 呆然としているフランスに、尚もアメリカは畳み掛けるように言う。混乱は最早頂点に達していた。一体自分は、彼の何を見て来たのだろう。そんなこと、まるで知らなかった。
「は……じゃあ何お前、もしかしてイギリスに一人前の男として見て欲しかったから、今回の独立を決意したってのか?」
 確かに、そこまでしなければイギリスをアメリカを『そうした』目で見ることはないだろう。イギリスは傍目にもアメリカを溺愛していたが、それはあくまでも家族であり弟であるアメリカに対してだったから。しかしまた、これはもしかしたら逆効果なのかも知れないとも思う。あのイギリスのことだ、一生失った『弟』を思い続けるかも知れない。思い出はいつだって、残酷な程に美しい。
「違うよ。そんなことを考えて独立を決意したわけじゃない」
「じゃあ何だ。最初っから片思いだと諦めて、いっそのこと憎まれようとでも思ったのか?」
「酷いな……其処まで俺はガキじゃないよ」
 そんなことを言ってる内は、大抵まだまだガキだったりするものだ。長年の経験からフランスはそう思ったが、そのことをわざわざ言ったりはしなかった。
「俺はただ、逃げただけなんだ。もうこれ以上、彼の『弟』でいることに耐えきれなかったから。彼に守られてばかりなのも、思いを殺し続けるのも」
「告白、するのか」
「しないよ……一生しない」
 泣き笑いのような顔でアメリカは続けた。
「だってさ、そんなことをしたら、イギリスは苦しむだろう?」
 混乱、ならまだ良いかも知れない。けれどきっと、イギリスにはアメリカの気持ちが理解出来ないだろう。弟が、兄を恋慕う気持ちを、イギリスは判らない。勿論それが正常な反応だ。イギリスがアメリカを恋愛対象として見たことは一度だって無いだろう。しかしそれも、アメリカがその思いの丈を伝えたなら話は変わる。冗談めかして告白するならまだ逃げ道もあるだろうが、きっとこの様子では、その時はこの上なく真剣な表情をしているに違いない。アメリカも、イギリスも、逃げられないくらいに。それ位しないとイギリスは気付かないし認めようとしないから、それは当然の態度なのだろうけれども。だがしかし、そうなるとイギリスも煙に撒いたりすることは出来なくなるわけで、これまたアメリカ以上に思い悩むのではないだろうか。常識が邪魔する中、馬鹿みたいに生真面目に考えるに違いない。そうして何とかかんとか全てが理解出来た時、イギリスは初めてその事の重大に気付くのだ。
「俺は今回、イギリスを酷く傷付けたね。その傷は、もしかしたら一生イギリスを苛むかも知れない」
 嗚呼、アメリカは分かっている。イギリスのことを、イギリス以上に。だからこその、この選択。
「弟のままで居られたら良かった。彼を純粋に兄と慕って、彼から与えられる愛情に満足出来ていたなら」
 イギリスと過ごした日々は、決して居心地の悪いものではなかったよ。そう、アメリカは続けた。何処か泣きそうな声で。それが偽りの言葉ではないと、フランスは分かっている。かつて彼等が暮らした家には、本当に幸福が溢れていた。永遠に続くかと思われた、けれど絶対に永遠ではないからこそ美しく優しい幸福が。

作品名:涙の海に溺れた 作家名:yupo