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死が二人を分かつ時まで

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 式に呼ばれることは無いだろう。しかしそれで良いと思った。きっと、彼等の結婚を素直に祝福など出来はしない。
「そうだ……すっかり話が逸れたが、お前花が欲しいんだったか?」
「そうそう。ブーケ・ブートニアを当日やったら良いんじゃないかと思って」
「ブートニア……じゃあ、花束を用意するっつうより、要は『花』を用意すれば良いんだな、俺は?」
 ブーケ・ブートニアとは何か。そもそもの由来は、昔のヨーロッパに遡る。
 いつの時代かは定かではない、取り敢えず宝石が馬鹿みたいに高価過ぎて、一般庶民には到底手が出せなかった、そんな時期のヨーロッパに、一組のカップルがいた。男は野に咲く花を摘んで、女にプロポーズをした。これがウェディングブーケの由来とされている。そして女は了承の合図に、贈られた花束から一輪の花を抜き取って、男の胸のポケットに差した。これがブートニアの始まりと言われている。
 つまりブーケ・ブートニアとは、とても古典的なプロポーズの仕方というわけだった。現在ではそれは最早結婚式の演目の一つのようなものになっていて、新郎が参列者から一本ずつ花を受け取ってそれをブーケにし、それを新婦に渡してブートニアを受け取る……という形になっている。
「……どんな花が良いんだ」
「やっぱり薔薇かな。薔薇を基調とした花束が良い」
 確かに、ジェニーには薔薇のように派手な花が似合うだろう。だがしかし、まさか薔薇だけでブーケを作るわけにもいくまい。最低限、カスミ草くらいは欲しいところだ。そして、イギリスの愛する庭には、そんな素朴で繊細な花など一輪も咲いてはいなかった。
 結論。餅は餅屋と言うように、ブーケは花束に依頼しろ。
「あのな、この際はっきり言うが……」
「君の庭では、薔薇が一番綺麗だからね。……君に、愛されているからかな」
 思いがけないアメリカの言葉に、イギリスは息が詰まる気がした。そんなことを思っていただなんて、言ってくれるだなんて、今まで想像すらしなかったからだ。
「色は……うん。赤が良いな、やっぱり」
「意外だな。お前なら白って言うかと思った」
「どうしてだい。そんなことしたら怒られるぞ、俺」
 白い薔薇の花言葉は――私は貴方に相応しい。
 正直なところ、アメリカはそれくらい平気で言うとイギリスは思っていた。けれど違うのだ。アメリカは、ジェニーと結婚出来ることを当然だとは思っていない。努力と幸運に恵まれた末に得られたものだと、そう思っているのだ。
 ……それは、イギリスの知らないアメリカだった。
「?赤は母国イギリスを、白は母国イギリスからの独立を?……か」
「何か言ったかい?」
「ジェニーは幸せ者だなって言ったんだ。この分じゃ、マリッジブルーになんて絶対にならないだろうな」
 沢山の人から祝福を受けて、隣には太陽顔負けに明るい夫が居て。……これで不幸なわけがない。
「……何か、珍しいね。君が誰かを羨むようなことを言うなんて。君は、幸せじゃないのかい?」
「十分幸せだよ。これでも身の程は弁えてるつもりだ」
 ジェニーを羨んでいるわけではない。アメリカの隣に立てる相手を羨んでいるのだ。それは時に、日本だったりカナダだったりする。
 アメリカは、知っているだろうか。
 この感情が恋だと気付いた時、頑張って六月のカレンダーを捲ったこと。沢山の本と薬に頼って、引き摺るように誕生日を祝いに行ったこと。
 二人きりでハロウィーンを過ごすことが気恥ずかしくて、仕事を放り出して妖精を召喚したこと。アメリカが日本とロシアに協力を求めたことに、嫉妬で心が焼けるような思いをしたこと。
 知っているだろうか。
 そんな気持ちになるのは、アメリカを好きだからということを。
 知っているだろうか、アメリカは。
「ちょっと待ってろ。今持って来てやる」
「え、いいよ。この時期じゃまだ蕾だろう? だから頼みに来たんだし」
 良く知ってるな。そう言おうとしてイギリスは動きを止めた。良く知ってるな、だって? 一体どの口がそれを言うのだろう。アメリカにそのことを教えたのは、他ならぬ自分ではないか。
 遠い昔、アメリカに与えたあの屋敷の庭で、懇切丁寧にイギリスは薔薇を始めとした植物の扱い方を教えた。アメリカの屋敷には勿論庭師だって居たけれど、あの頃はもうアメリカは馬の乗り方も銃の扱い方もすっかりマスターしてしまっていたし、勉学には専用の教師を付けていたから、イギリスが教えてやれることは限られていたからだ。
 知識とは財産であり、幾らかあったところで困ることはない。何より、イギリスが今まで与えたどんな物よりも、アメリカの内に残るだろう。そう思った。
 女々しいと、笑われても良い。イギリスは、どんな形であれアメリカの中で生きたかった。忘れないで欲しかった。
 愛していたから。
 いつの日か、袂を分かつ日が来たとしても。
「蕾でも水をやればちゃんと咲く。第一、下見も無しに決めるなんて非常識だ」
 ティータイムの前に庭の剪定をしていたので、幸い手入れの一式は出したままだった。花鋏だけを手に取って、庭の一角に向かう。後ろからアメリカも付いて来たが、敢えて無視した。
 国花ということ、品種が豊富だということで、この庭は薔薇を中心に構成していた。今は蔓だけのアーチも、時期を迎えれば美しい花を咲かせるだろう。去年のように。今年も、来年も。
 此処は時間が止まっている。そう言ったのは、一体誰だったか。
「……本当に、そうなら良かったのにな」
 優しく、美しい思い出の中でだけ生きられたなら、きっとこんな思いはしなかった。こんなに醜い、身を焦がすような思いは。
 いっそのこと、黒赤色の薔薇でもアメリカに持たせてやろうか。イギリスは、そんなことを思う。赤・白・黄・ピンクはメジャーだから花言葉くらい知っているだろうが、アメリカのことだからこの色の意味にはきっと気付かない。
 アメリカに贈った手作りのケーキ。あれにだって、アメリカは何の反応も寄越さなかった。照れ臭さから、あんな古典的な悪戯を仕掛けた自分も自分だけれど。
 でも、一生懸命に作ったのに。ケーキなんて定番過ぎるし、きっと見た目も味も良いのが既に用意されているだろうし、というか手作りだなんて知られた日にはそもそも食べても貰えないしで、でも、どうしても渡したかったから、精一杯作ったのに。
 妖精達から大顰蹙を買って、専門家に弟子入りまでして、そんな思いで作ったケーキの意味を、アメリカは分かっていない。感想なんて、ケーキのクセに食べられないじゃないか! とか、何となく日本の所の国旗に似てる? とか、そんなものに違いないのだ。
 完全な自己満足だし、おめでとうの一言も言ってないし、文句を言う資格なんて無いのだろうけれど。

作品名:死が二人を分かつ時まで 作家名:yupo