死が二人を分かつ時まで
だけど時々、どうしても我慢出来なくなる。
「折角君が俺にくれるんなら、赤が良いな、俺。勇気の色だ」
「……普通は情熱の赤とか言わないか?」
「生憎と俺は『アメリカ合衆国』だからね。それに君にだけは言われたくない。君の所のデザインにはロマンが無いよ」
「放っとけ馬鹿っ」
どんなに苦労して今のデザインに至ったか、アメリカは知らないから言えるのだ。仮にも兄弟なのに全然意見が会わなくて、今日でも今のデザインにケチを付けられる辛さだって。
何も、何も分かっちゃいないのだ、アメリカは。
けれど、でも、そうして不満を抱くばかりで、果たして自分はアメリカのことを分かろうとしたことがあっただろうか。イギリスは考える。分かったつもりでいただけで、本当は何一つ分かってはいなかったのではないか。
独立の日も、告白の日も、だからこそあんなに心を揺さぶったのではないのか。
知っているつもりで、分かったつもりでいて、でも本当は何一つ分かってなんていなくて。
――それは、何故。
答えなんて簡単だ。認めたくなかったのだ。自分とアメリカが、対等だということを。イギリスにとってのあの幸せは、『兄』と『弟』だからこそ実現可能な夢だったのだから。
そして、そのしっぺ返しがこの有り様。
――これからも、そうなのか。
思っていることを半分も言えなくて、過去を後悔してばかりで、他人を羨んで。
「嫌だ……っ」
「イギリス?」
この瞳が他の誰かを映す。
この口が他の誰かに愛を囁く。
この腕が他の誰かを抱き締める。
果たしてそれに自分は耐えられるだろうか。未だに祝福の言葉さえ言えないくせに。……かつて二枚舌と称された、この自分が、偽りの言葉を言うことすら出来ない。
「嫌だアメリカ、結婚なんて。お前が結婚するなんて嫌なんだっ」
神を人に。
「今更だって知ってる。俺に止める権利が無いことも。だけど嫌だ!」
王を只人に変える。
「…………どうして?」
その名は――
「お前のことが好きだからに決まってるだろ!!」
――恋。
「……ぁ」
言ってしまった。こんな形で。こんな風に伝えるつもりじゃ、なかったのに。だけど、じゃあ、一体いつ言えた?
アメリカに好きだと。
「君、今の……」
恐る恐る見上げた先にいたアメリカの顔は、驚愕に染められていた。信じられないと、語っていた。
「あ、いや、君のことだからアレだろ、何処の馬の骨とも知らない奴に……みたいな意味だろ?」
「ちがっ」
「家族愛だよね?」
遮るように、重ねるように言われた言葉に、イギリスは背筋が凍る思いがした。
アメリカの、瞳。
其処には、喜びも期待も一切見えなかったのだ。アメリカは、イギリスの言葉を微塵も信じていなかった。
作品名:死が二人を分かつ時まで 作家名:yupo