二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

さよならは恋の終わりではなく

INDEX|3ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

 下宿先に引っ越す前日、アルフレッドは今までの気持ちを正直にアーサーへと告げ、見事玉砕した後に全てを捨ててしまうつもりだった。スカラシップを受けられることも決まっていたし、必要に迫られればアルバイトをして、いつでも自立することは可能だっただろう。血の繋がりこそ断ち切れないが、アーサーの側から一生姿を消すことくらいは出来る。
 アルフレッドは徐に携帯電話を取り出し、メモリーから普段は掛ける必要の無いナンバーを選択した。コール音は、直ぐに止んだ。
「もしもし? 俺――アルフレッド。ちょっと良いかな」
「どうした、お前から電話なんて珍しいな」
 電話越しに聴く声は、それだけで無機質に聴こえるから不思議だ。普段はあんなに感情豊かな人なのに。
「……うん、ほら、明日俺出発だろ? ちょっと君に頼みたいことがあってさ」
 きっと彼は断らない。妙な自信があった。何だかんだ言って、彼は自分に甘いから。
「何だよ改まって。水臭いな」
 予想通りの言葉に、微苦笑が浮かぶ。多分この関係は一生変わらないのだろうなと、アルフレッドは思った。いくら身長を追い越しても、人生経験ばかりはそうもいかないから。
「あのさ……」
 そうしてアルフレッドは、願い事を口にした。

 好きだと告げた時の、アーサーの顔は見物だった。けれど笑える状況でも内容でもなかったし、何よりアーサーにこんな顔をさせたのは他ならないアルフレッド自身だったから。
 けれど驚くのは無理も無い話だったし、元より成就するとは微塵も思ってはいない恋だった。目一杯に見開かれた瞳の中に、純粋なる驚き以外の感情が無いというだけで、アルフレッドには充分過ぎる。
 それでも、返事は要らないとだけは言えなかった。自分の恋心が受け入れられるとは思っていないが、ちゃんとアーサーから断りの言葉を得られないと、『弟』に戻ることも出来ない。はっきりと、アーサーの口で、兄弟愛以外の感情は必要無いのだと、そう言い渡されなければ。
 いつでも良いからと、困惑したアーサーに告げて故郷を去り、新しい土地に腰を落ち着けてから一月が経った。アーサーが鬱々と考え過ぎる思考の持ち主であることは知っていたけれど、それでもこれは流石に長い。
 顔を合わせることも辛いのかと少し落ち込みながらも、最初で最後、ただ一度だけ『男』として見て貰えたのなら、それだけで告白した意味はあったのだとアルフレッドは思う。その考えが、何処までも自己中心的であることを自覚した上で。
 そんなわけだから、アーサーが訪ねて来た時、アルフレッドは本当に驚いた。何せ、ちゃんと答えを携えて来たというのだから。
 真向かいに座ったアーサーは、ちゃんと考えたんだと言った。お前のことも、俺のことも、沢山沢山考えたのだと。
「俺も、お前のことが好きだよ」
 予想していた言葉に、何とも言えない表情が浮かぶ。きっとこの後には、こんな台詞が続くのだろう。
 でも、それはあくまでも『弟』としてだ。お前の気持ちには、答えられない。
 全て受け止める準備は出来ていた。アルフレッドは、真っ直ぐにアーサーを見つめる。アーサーは、視線を動かさなかった。
「付き合おう、『恋人』として」
 だから、アーサーからその台詞を聞いた時、アルフレッドは自分の耳を疑った。幻聴を聞く程の期待を、持ち合わせている筈がないのにと。
 思わず目の前の相手を凝視してしまうアルフレッドに、アーサーは顔を赤くする。
「な、何だよ、何か言えよ」
「君、本気? 自分が一体何を言ったのか、ちゃんと分かってる?」
 その気持ちは、本当に自分と同じもの?
「当たり前だろ、失礼な奴だな! この一月俺がどんなに頭を悩ませたと思ってんだ!!」
 長さなんて関係無い。時間を掛ければ答えを導き出せるなら、誰も苦労なんてしないだろう。
「俺は、お前が好きなんだ」
 断言するような、言い聞かせるような言葉に、胸が熱くなる。それが果たして純然たる喜びだったのか、アルフレッドには分からない。ただ、無償に泣きたくなった。