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さよならは恋の終わりではなく

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 アルフレッドとアーサーの『恋人』としての付き合いは、決して公言出来る類いのものではなかったし、お互い新しい生活が始まったばかりで覚えることもやるべきことも沢山あった。
 二週間に一度。下手をすれば月に一度。それ位の頻度でしか、満足に会うことも出来ない。元々、お互いが気軽に行き来出来るような距離でもなかった。
 以前は毎日顔を合わせていたのに、その落差に寂しさを覚えなかったとは言わない。それでもそうして待った分、会えた時の喜びは格別だった。アーサーの存在が、決して当たり前ではないのだと実感出来た。
 アーサーと二人きりで過ごすのは、大抵アルフレッドの部屋でだった。最初に取り決めをしたわけではないけれど、自然とそうなっていた。食事をするのも、映画を観るのも、全てはこのワンルームマンションの中で。アルフレッドは、何も言わなかった。何も。
 初めてキスをしたのがアルフレッドの部屋なら、初めて体を重ねたのもアルフレッドの部屋だった。
 アルフレッドはもう、押し付けたりするような、相手の全てを欲するような情熱には、思春期の間に折り合いを付けてしまっていて、アーサーに対して何かの行為を強要することはなかった。キス一つすることなくアーサーが帰ってしまっても、一緒の時間が過ごせたのだというだけで幸せだった。
 我ながら、とても大人で穏やかな関係を築けたものだと思う。穏やか過ぎたくらいだ。そのことに対して、アーサーが何かを思っていることにも、アルフレッドは気が付いていた。

 目が合っても見つめ合うことはなく視線は逸らされ、何気なく手を伸ばせばその瞬間体を強張らせた。
 いつしか予定が合わなくなり、電話の後ろから息を潜める気配が伝わり、身に付ける香水の種類が変わった。
 本当に久し振りにアーサーと会った時、初めてアーサーからキスが仕掛けられた。そのまま押し倒され、口に含まれ、上で腰を振られさえした。けれど視線は一度も交わることなく、アーサーは行為が終わると直ぐに眠りに就いてしまった。そして朝目が覚めた時、アルフレッドはベッドの上で一人だった。ダイニングテーブルには、簡単な朝食と書き置きだけがあった。