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CherieRose ...1

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02.

 一旦講義が始まってしまえば、生徒達のプライベート空間である寮は恐ろしく静かになる。その間に、学院付きの使用人達が各部屋を掃除して周り、ベッドメイキングをしたり洗濯物を片付けたりする。
 この学院では、例え何年過ごそうが生活能力が向上することはない。そして、此処で生活する生徒達もまた、そうなる必要が全く無かった。
「周りが講義を受けてる間、お茶を片手に読書ってのはこの上なく優雅だよな」
「……どうしてあなたまで部屋に残っているんですか」
「そういう気分だったから」
 ティーカップを片手に、少年はニヤリと笑った。その拍子に、波打つ見事なブロンドが柔らかく光を反射する。
 少年は確かに人並み外れて美しい容姿をしていたが、その笑みは少年を軽薄そうに見せる効果しかなく、実際にその笑みを向けられた相手も、胡乱げな顔をしただけだった。
「まぁ……私には何の関係もありませんから、別に構いませんけど」
 無関心にとも捨て鉢にとも取れる発言をすると、少年は再びその目を手元の本へと戻してしまった。
 少年期をそのまま留め置いたような頼りない体躯と、新月の夜を写し取ったかのような漆黒の髪。よく見てみれば、少年の瞳が黒曜石のような光を湛えていることにも気付くだろう。
 一つのテーブルに向かい合わせで座る二人は、見事なまでに正反対の容姿を持っていた。
「…………」
 黙々と活字を追い掛ける少年を見ながら、もう一人の少年――フランシスは実につまらなそうに息を吐く。こうして一度二次元の世界に入ってしまうと、中々此方の世界に戻ってこないことを知っていたからだ。
「……キクー、キーク、キクちゃーん?」
 ほら、幾ら名前を呼ぼうがチラリとも反応しない。こうなってしまったら、折角淹れたお茶もそう遠くない内に冷めて無駄になってしまうだろう。そうなってしまう前にと、フランシスはキクのティーカップへと手を伸ばし、今まで一度も手を付けられていなかった紅茶を飲み干した。
 キクは、余程のことがない限り、他人の手が加えられたものに手を出さない。極度の潔癖症というわけでも、過去のトラウマというわけでもなく、単にキクは他人を信じることが出来ないのだ。
 信用はするが、信頼はしない。キクが心を許すのは、この世でただ二人だけ。
 巷ではフランシスとキクはまるで親友のように思われている節があるが、それは全くの事実無根だった。実際には、ルームメイト故の腐れ縁でしかないのだ。
 フランシスにはフランシスの交友関係というものがあったし、キクの方にしても友人と呼べるのはたった一人だけだ。
 世間の目を気にしない性格と、その性格が災いしての素行の悪さ、そして人を惹き付ける容姿。加えて、奇しくもお互いが『似たような立場』だということから、フランシスはキクと行動を共にしているに過ぎなかった。
「…………」
 それにしても、とフランシスは思う。あっても無くても良いような贔屓目を抜きにしても、キクは実に勿体無いと。人見知りと言うには度が過ぎているその偏屈な性格を多少改めさえすれば、いくらだって世界は広がるだろうに。
 まあ尤も、この学院に身を置いている以上、キクに社交的になれというのは少々無理があるだろう。何せ、生まれ落ちた瞬間からキクが罪も無く背負わされるものを、この学院に居る人間は全員知っているのだから。
「――さっきから何ですか、人の顔をジロジロと」
「あれ、気付いてた?」
「当たり前です」
 ふん、と至極つまらなそうにキクは鼻を鳴らす。こんなに大人しそうな容姿をしてはいるものの、仮にも男子である以上、一応学院の正規教練は受けているのだ。毎回ではないが。それにキクの生い立ちを考えれば、他人の視線に敏感なのも当然だろう。
「いや、もう鼻は大丈夫なのかなーと思って」
 含みのある物言いをすれば、案の定キクは物凄い視線でフランシスを睨み付けた。おぉ怖い、と、恐怖を微塵も感じさせない様子でフランシスが返せば、脱力したようにキクは息を吐く。
「それにしてもさ、いつまでもこんな所に居て良いわけ?」
「何がです」
「?お姫様?の護衛に行かなくて良いのかなーと」
「……何故私が」
「だって、学院長の弟だろ?」
「関係ありませんね」
「ふーん……?」
「何です、何か言いたそうですね」
「別に? だた、あれだけ情熱的な出会いだったのに冷たいと思ってね」
 ニヨニヨ。そんな擬音語が合いそうな笑みを浮かべるフランシスは、その自分の発言がどれだけキクの神経を逆撫でするものなのか良く知っていたのだろう。荒々しくキクが席を立っても、眉を動かすことすらしなかった。
「良いですかフランシスさん、私はあんな面倒臭そうな方に関わって、貴重な睡眠時間を削るつもりは毛頭無いんです! あなたも、痛い目を見たくなかったら放っておくのが最善の策というものですよ!!」
 捨て台詞にしては些か長過ぎるそれを一息で言い、キクは読みかけだった本だけを持って足音も荒々しく部屋から出て行った。
「まったく、素直じゃないねぇ……お兄ちゃんから宜しく頼まれてるくせに、さ」
 クスクスと密やかに笑った後、フランシスは此方も全く手を付けられていなかったクッキーをポイと口に放り込んだ。

作品名:CherieRose ...1 作家名:yupo