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CherieRose ...1

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04.

 足の早さには自信があった。走り回ってばかりの生活だったから。けれど、どんなに走ったところで、所詮は箱庭の中でしかない。
「此処まで来れば、流石に見付からないだろ」
 南館とは正反対の場所に位置する中庭の端。その中心部へと足を進めれば、優雅に昼食を楽しむ女子生徒達が居るに違いない。自分にはまるで縁が無い場所だ。
 今ではもう、薔薇の成長を楽しむこともなくなってしまった。花なんて、大嫌いだ。
「……あの花も、何を基準に選んでんだか」
 今でも、思い出す。王宮からの使者が遣わされて来た、あの日のことを。
 薔薇を愛で、読書に勤しみ、いつの日か必ず来ると信じて疑わない未来に思いを馳せていた、そんな毎日が、罪なき少女から残酷に摘み取られてしまった日のことを。
 父はこれで我が家は安泰だと狂喜乱舞し、兄達は栄誉を手にする機会が永遠に奪われたことに対して酷く落胆していた。お前の所為だと、お門違いも甚だしい憎悪の目で見られたことも、一度や二度のことではない。
 なりたくてなったわけじゃない。選ばれたくて選ばれたわけじゃない。代わってくれるというのならいつでも代わる。……夢見ていたのは、こんな未来ではなかった。
 それなのに世界は無情に回り続けて、波に逆らうことすら許さない。
 勝手に近付いて、勝手に遠ざかって、誰も彼も対等じゃない。誰も『自分』を見てくれない。
「アルフレッドの、馬鹿野郎……っ」
 約束を、思い出す。ずっと側に居ると言った。何処に行こうとも必ず見付け出し、側で護ると。
 その約束は、確かに守られた。けれど――

『本日付でパラディンの任を拝命致しました、アルフレッド・F・ジョーンズです。学院に居られる間、俺の命に代えても貴方を御守り致します』

 望んだのは、こんな傅かれるような関係ではなかったのに。
「……本当に、肝心なことは何一つ分かってないんだから、な」
 本当は、こんな所になんか、来たくはなかったのに。
「あれ、お前が一人なんて珍しいな」
「フランシス……?」
 何故彼が此処に居るのか。それは問題ではない。問題なのは、何故彼が此処に一人で居るのかということだ。
 学院一の色男という評判は伊達ではなく、フランシスに想いを寄せる女子生徒は多い。見目麗しく、話題も豊富な彼は、社交界デビューを果たせば忽ち話題の的になることだろう。
「俺だって、偶には一人になりたいと思う時だってあるさ。ギルも弟の所に行っちまったしな」
 その派手な容姿と日頃の素行からはいまいち想像出来ないが、フランシスはこう見えて結構面倒見が良かった。愛の伝道師なんてものを自称しているだけあって、彼は基本的に誰にでも平等に愛と優しさを与えて来た。
 軽々しく相手の領域に踏み入ることもなく、また、自分の領域にも踏み込ませることはない。フランシスはその一線を見極めるのが天才的に上手かった。奔放というに相応しい生活を送っているにも関わらず、彼が周りから反感を買わないでいるのは、正に自身の人徳がなせるわざだと言えた。
「それで? 何で一人なんだよお前」
 確かに悪い奴ではない。けれどそれは、良い奴と同義には決してならないのだ。なまじ知らない仲ではなかったから、こういう時は遠慮なく切り込んで来る。尤もこの話題に関して言えば、フランシスも丸っきり部外者だというわけでもないからこその発言なのかも知れないが。
「……俺が知るかよ。どっか一人で昼飯でも食ってんだろ」
 アルフレッドが、パラディンという称号にどれだけの使命感と誇りを持っているのかを知っていた。知っていて敢えて、あんなことを言った。傷付いていない筈がない。
 だから、きっと追っては来ないだろう。アルフレッドが本気で追い掛け、見付け出そうとするなら、今こうしてフランシスと話していることもないのだろうから。
 それくらい、アルフレッドは優秀だった。申し分が無い。そしてその事実が、より一層神経を苛立たせる。
「どうしてお前なんだろうね、本当」
「そんなの、俺の方が知りたいくらいだ」
 一体どんな理由で、人の人生をこうも劇的に、けれどいとも簡単に変えてしまうのか。
「だよなー。お前が満たしてる条件なんてさ、それこそ身分くらいのもんじゃん? 頭は良いし顔も悪くねーけど、性格の悪さがその数少ない長所を短所に変えてるよな」
「放っとけ!!」
「まあねー実際どうでも良いんだけどねー。たださ、俺としてはちょっと心配なわけ」
 不意に、表情が真剣なそれに変わる。いつもこんな顔をしていたら、馬鹿な教師ぐらい軽く騙せるんだろうなと思った。
「お前が後世、?西のトゥーランドット?と呼ばれないことを、俺は心の底から祈ってるよ」
「トゥーランドット……?」
 何処か諦めたような響きを持って言われ台詞には、耳慣れない単語が入っていた。トゥーランドット。初めて聞く単語だ。ただ何となく、東方の響きがする。
 不思議に思ったからこそ訊き返したというのに、フランシスはただ笑うばかりで、答える気配が全くない。
「後で暇があったら図書館で調べてみな。性格の悪さがすげーそっくりだから」
「何が言いたい?」
「権力者の結婚ってのは、ある意味で義務であり責任であるって話だよ」
「生憎と、説教なら間に合ってるんだよ。これ以上つまんねー話を続けるつもりならもう行くぜ」
 肩を竦めるだけで、フランシスは何も言わなかった。勿論、追い掛けても来なかった。
 だから嫌なんだ。
 弱点を突くだけ突いて、そのくせ決して留めを刺さない残酷さとも優しさともつかないその距離感が、昔から大嫌いだった。

作品名:CherieRose ...1 作家名:yupo